ゴルフでは、なぜ他人が打つ時に“静寂”が必要なのか?

プレーを妨げないため、プロトーナメントでもショットに際しての静寂は守られている(撮影:ALBA)

「すみませーん! 打ちまーす!」
アドレスをしたまま、大声を出すことが年に数回ほどあります。渋滞で追い着いている後ろの組が聞こえないと思って話しているときや、隣のホールの人たちがうるさい時などです。

仕事柄、試打クラブの撮影をしていて、高性能のマイクによって人の声が打音に被ってしまう可能性があり、一瞬だけでも静かにしてもらうための苦肉の策です。後ろの組も、隣の人たちも一瞬静かになります。それを確認したら素早く打ちます。映像は編集でカットしてしまいますが、撮った動画を確認すると、アドレスしたまま大声を出して、すぐに打ち始めるところまでしっかりと録画されています。上記は少し特殊な例かもしれませんが、自分が打つ時に「ちょっとうるさいな」「気になる」ということは、どんなゴルファーにも経験があることではないでしょうか。

40数年前、僕は教わりました。
「ティとグリーンは、ゴルファーの檜舞台。順番がきたゴルファーには見えないスポットライトが当たっている。そのときは、その人が舞台の主役だから、絶対に邪魔をしてはいけないよ」。ゴルフはすべての人が平等に主役になれる演劇なのだと、中学生なりに納得したのです。

同組、または見える範囲でボールを打つプレーヤーがいたらむやみに動かず、音をたてず打ち終わるのを待つというのが、世界共通のエチケット。エチケットはフランス語で、英語のチケットの語源です。つまり、エチケットは参加資格となる礼儀作法のようなものなのです。

ティとグリーンは、同じ組の同伴者が集まって順番にボールを打ちます。自分だけの時間が順番に訪れます。注目される瞬間です。その時間を邪魔をすることは許されません。おしゃべりに夢中になったりして、前の組の邪魔をするのは御法度。悪気はなくとも非常識な馬鹿者になってしまう。

ところが、エチケットとして常識と思われていたことも、ここ最近では「そんな堅苦しいことばっかりいっているからゴルフが広まらない」とか「もっと気楽に楽しめばいいじゃん」などという輩がいることも事実。もちろんそういうゴルフ(他人が打つ時にワイワイガヤガヤする)があっても一向に構いませんし否定する気持ちもありません。ただし、そこにはそのような行為をされた人が迷惑に思わない、感じないということが前提になければならない。

プロゴルフツアーに目を転じれば、興行として、そしてギャラリーが楽しむための方策として、大音響と喧騒の中でショットをするホールがあったりなど、様々な取り組みがあります。しかし、そのようなゴルフと我々一般ゴルファーのプレーとを同質で考えることはできません。

周囲を常に観察しましょう。カートストップが前のグリーンに近かったり、隣のホールのティが生け垣の向こうにあったりするときも、悪気はないけれど不注意な人として、他のプレーヤーの妨害をしている可能性がある。舞台として考えれば、大事なセリフを言うシーンなのにエキストラが大声を出して台無しにするようなものです。舞台はライブですから、一発勝負でやり直しはできません。

一般には、静寂に敏感で自分のためではなく他者のために静寂を作れるゴルファーがリスペクトされます。仮に話が盛り上がっていたとしても、「打ちますね」と一声かければ、誰でも静かになります。時々、指を口に当てて「しーっ!」とする人がいますが、目上の人がいる場合は、馬鹿にされたと怒らせる原因になる可能性があるので、「隣でパットしているみたいだから小さな声で話しましょう」など、臨機応変に“自分も含めて”というやわらかい言い方を鍛えましょう。

他者の晴れ舞台の邪魔しない気遣いは、必ず自分が主役のときに幸運となって戻ってきます。ボールをコントロールするより、静寂をコントロールするほうがはるかに簡単。セルフプレーが主流となったいま、楽しいプレーのためにも節度ある静寂を心がけてはいかがでしょうか。

(取材/文・篠原嗣典)

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