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「もうマジで嫌…」のプレーオフ 菊地絵理香が“5度目の正直”を果たせたワケ

“鬼門”のプレーオフを乗り越えた菊地絵理香。勝利のカギはある“願掛けだった”(撮影:福田文平)

<ニトリレディス 最終日◇27日◇小樽カントリー倶楽部(北海道)◇6695ヤード・パー72>

最終日が中止となり、岩井明愛、申ジエ(韓国)とのプレーオフが決まった瞬間、菊地絵理香の心境は穏やかではなかった。「もうマジで嫌だ…」。これまでの苦い思い出の数々が、頭に思い浮かんできた。

過去に4度のプレーオフを経験した。4度目の2018年「フジサンケイレディス」で永峰咲希と一騎打ちとなった以外は、すべて三つ巴。結果はすべて“負け”だった。特に15年にチョン・インジ、イ・ミヒャン(ともに韓国)と戦い、4ホール目までもつれ込んでの敗北は、一番悔しかった記憶として刻み込まれている。

「予想外の展開というか、苦手なので絶対にやりたくなかった」という決戦の舞台は、17番パー3(168ヤード)に決まった。競技中断からおよそ5時間後に放った6番ユーティリティでのティショット。「全く体が動かなくて。緊張していると思った」と体が止まり、ボールはグリーン手前の花道に止まった。続くアプローチも「ほぼ感覚がないまま打って」と寄せきれず。2メートルが残った。

一方、ジエは奥4メートルにつけるチャンスに。バーディで優勝決定、それでなくてもパーで菊地にプレッシャーをかけたかったところだが、ファーストパットがオーバーすると、返しを決められず。まさかの3パットで菊地に追い風が吹いた。

「(ジエが)入れてくると思ったけれど外れて。チャンスがあると思ったら、不思議としっかり手が動いてくれた」。パーパットをしっかりと沈めて菊地に軍配。自身初のプレーオフでの勝利は「あっさり終わってしまった」とすこし戸惑いながらも笑った。

クラブハウスから17番へ送迎されるとき、願をかけた。これまでは『いいよ』と対戦相手に先にカートを譲っていたが、プレーオフ4敗の記憶が脳裏をよぎった。「関係ないけれど、そういうのも蘇ってきたので、率先して一番前に。何も言わずに乗りました」。過去の記憶を打ち消すために、初めて、一番前で待っていたカートを自ら選んだ。

そして、「プレーオフに強い」後輩の声も思い出した。プレーオフで4勝1敗、通算13勝を誇る成田美寿々に強さの秘訣を聞いたとき、『プレーオフはふたりしか見ていないんだから、自分たちの時間じゃん』という言葉を頭の中で繰り返した。悪天候により無観客決戦となったが、「関係者が来てくださったので、自分しか見てないと思って打てばいいんだよねって思って(笑)」。そして最後に、スポットライトを浴びた。

これで今季初優勝、ツアー通算6勝目。昨年の「大東建託・いい部屋ネットレディス」に続く地元2勝目となった。「北海道で勝ててから、あまり地元っていうプレッシャーがなくなったというのはありました」と難関・小樽で勝利。つぎは、自身初の年間複数回優勝を目指していく。

「勝ってあまり自信がつくタイプじゃないけど、ホッとしてしまう部分は毎回ある。それで年間2勝、3勝とかできないのかな。勝ちたいではなく、勝ちにいくという気持ちで臨まないと」。苦手だったプレーオフで殻を破った35歳は、まだまだ進化し続ける。(文・笠井あかり)

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