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コビー・ブライアントが最後まで貫いた“人を思いやる心”。事故当日にシャックの息子と一番の親友に送ったメッセージとは【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

2020年1月26日、ヘリコプター墜落事故で愛娘とともに帰らぬ人となったコビー。当日の朝、3人の仲間にメッセージを送っていた。(C)Getty images
コビー・ブライアントがヘリコプター墜落事故でこの世を去ってから、早くも2年が過ぎた。

今回は世界中のファンを魅了したこの悲劇のスーパースターの物語をお届けする。コビーは死の直前、3人のバスケットボールにまつわる友人とメッセージを交わしていたという。その内容には、コビー・ブライアントという人物の温かい人柄がにじみ出ていた。

※年齢および所属先は掲載当時のもの。

<シャリーフ・オニール>
■大学で苦闘するシャックの息子を気遣い送った1通のメッセージ

事故当日の朝、コビーからメッセージを受け取った21歳年下の若者がいる。彼の名前はシャリーフ・オニール。そう、あのシャックの息子である。

現在21歳のシャリーフは、身長208cmのカレッジ・バスケットボール選手。事故の4日前、2年間在学したUCLAからの転校を表明したばかりだった。1年時、心拍数に問題が認められ、心臓の手術を受けた。メディカル・レッドシャツとなり1年間プレーできず、2年目は13試合に出場したものの、平均出場時間10.2分、2.2点、2.9リバウンドと満足な結果を残せなかった。
2020年1月26日午前8時19分、ヘリコプターが飛び立つ47分前、シャリーフのスマホにコビーからインスタグラムのダイレクトメッセージが届く。文面は“You good fam? ”(「元気?」「どうよ?」程度の意。famはスラングでfamilyの略。家族や家族同様の人、親友、仲間などを指す)。強豪大学を転校するという一大決心を下したシャリーフの、その後を心配していたのだろう。

ちょうどその日はバタバタしていたこともあり、約2時間半後の10時58分、シャリーフは返信する。「ああ! 次の一歩を上手く進めるために、作業をしているところだよ。そっちは元気だった?」。

だが、そのメッセージに返答が書き込まれることは永遠になかった。

2000年代初頭、コビーとシャックはレイカーズで3連覇を成し遂げ、黄金時代を築いた。だが、2人の関係性は険悪の一途をたどり、最終的にシャックがチームを出ていく。それでもコビーが引退する数年前から雪解けが始まり、紆余曲折のあった2人の物語もハッピーエンドを迎えつつあった、そんな矢先の事故だった。
シャリーフが生まれたのは、コビーとシャックが初優勝を遂げた年の1月。生まれた頃からコビーはすぐ近くにいて、まるで親戚のおじさんのような存在であり、ジジとも彼女がまだ小さい頃から一緒にバスケットボールをプレーして遊んだ仲だった。

昨年4月、スポーツ総合サイト『Bleacher Report』にシャリーフのインタビュー動画が掲載され、そこで事故当日の詳細が明かされている。

マンバ・カップ・トーナメントシリーズの2日目に、シャリーフの妹、すなわちシャックの娘ミアーラのチームと、ジジのチームの対戦が組まれていた。コビーはその前日土曜日も、ミアーラの試合を観に会場へ足を運んでいたという。

日曜日の朝、シャリーフは妹とジジの試合を観るため、親友のジョシュ・クリストファー(アリゾナ州大/現ヒューストン・ロケッツ)を誘い、途中実家で母を拾って、ロサンゼルスのダウンタウンから車で1時間弱の距離にあるマンバ・スポーツアカデミーへ向かおうとしていた。
助手席でスマホを見ていたクリストファーが、突然「コビーとジジがヘリコプターの墜落事故に巻き込まれたらしい!」と声を上げた。だがシャリーフは、「悪い冗談に決まってる、数時間前に本人からメッセージが届いてるんだから」と取り合わなかった。

実家に着き、母が電話で確認すると、事故は現実であり、試合はすべてキャンセルされたという。シャリーフは表へ駆け出して泣き崩れ、クリストファーといつまでも泣いていたそうだ。

シャリーフはその後、父シャックの母校であるルイジアナ州大に転校し、再起を図るべく奮闘している。彼のスマホの待ち受け画面は、コビーから最後に受け取ったインスタグラムのメッセージ画面だ。それを毎日何度も目にすることにより、モチベーションにしているのだという。
<ロブ・ペリンカ>
■一番の親友だった男に送った最後の頼みごとの内容とは?

ロブ・ペリンカ、51歳。身長198cm、ミシガン大の控えガードとして、1989年にNCAAトーナメントで優勝し、3、4年時にはあのファブ・ファイブのチームで準優勝した経験を持つ。卒業後はロースクールに学び、弁護士資格を取得。数年間の弁護士活動を経てエージェント業に着手し、敏腕代理人として、ドラフト時のアンドレ・イグダーラやジェームズ・ハーデンなど、数十人の有望選手を手掛けた。

だがなんと言っても、最大の目玉選手はコビーだった。20年間に渡り代理人を務め、コビーが広告塔の役目を担ってくれたおかげで、多くの一流選手が集まってきた。2017年、NBAのエグゼクティブに転身。名門レイカーズのバスケットボール部門副社長兼GMに就任し、現在に至っている。

そのペリンカが、コビーにとって一番の親友だった。ジアナの名付け親でもある。2020年2月24日、ステイプルズ・センターで開催されたコビーの追悼式で、総勢7人のゲストがスピーチを託され、ペリンカも登壇。事故当日のエピソードが語られた。
その日の朝、ペリンカは家族と教会にいた。ジーンズのポケットに突っ込んでいたスマホのバイブ機能がテキストの着信を告げると、教会内にいたこともあり無視しようと思ったが、虫の知らせでポケットから取り出して画面を覗いた。コビーからだった。彼とは過去20年間、毎日のようにテキストのやり取りをしていたので、日曜朝の着信も別段珍しいことではなかった。

いったんスマホをポケットにしまい、説教に耳を傾けたものの、どうしても気になったペリンカは再び取り出しテキストを開いた。コビーの用件は「南カリフォルニアで野球の代理人をしている知り合いはいないか?」というものだった。特に急用ではなさそうで、返事は後回しにしようかとも思ったが、やはり何か感じるところがあり、取り急ぎ返信した。「レイカーズの試合で野球の代理人と会ったことがある。彼なら喜んで君の力になってくれるだろう」。

午前9時30分過ぎ、コビーから返信があった。友人の娘さんが、インターンシップを受け入れてくれる野球の代理人を探しており、彼女の性格や知性、仕事への取り組み方をよく知っているコビーは、何とか手助けしたいとのこと。ペリンカは、自分でもプランを練って動いてみると返信。その数分後、コビーとジジを含む9人は、帰らぬ人となる。
後から判明したのだが、相談をしてきたという友人は、全米でも名の知れた大学野球のコーチ、ジョン・アルトベリで、この日、末娘のアリサと一緒にコビーのヘリコプターに乗っていた。ジジと友人でありチームメイトでもあった娘を通してコビーと知り合い、その後親交を深めたのだという。

コビーが生前最後に取った行動はヒロイックだった、そうペリンカは語る。「彼は自分が持つ影響力を、若い少女の未来のために惜しみなく使おうとした。そしてコビーは、我々すべてに同じことをしていたのではないか。コビーは文字通り、誰もが何かを求めることができる、最高の友人だった」

最後に。ペリンカのスピーチから、胸を打たれた逸話と、心温まるエピソードをそれぞれ紹介させていただきたい。いかにもコビーらしく、彼の人となりを如実に表わしていると思う。

「コビーがいなくなった翌日、私は自宅にいて途方に暮れていました。この先、親友が持つ精神的強さと、彼の手引のない人生なんて、想像できなかったのです。悲嘆に暮れるなか、私たちの友情を象徴する何か具体的なもの――写真やボイスメールなど、コビーが遺した何かとつながりたい、そう強く感じました。
妻が思い出させてくれたのは、最近コビーが上梓し、プレゼントしてくれた本でした。上の階にある本棚から引っ張り出して開いてみると、中表紙にコビーはこう書いていました。“To Rob, my brother:常に道程を楽しむことを忘れないように、とりわけ困難な道の時には――。Love, Kobe”」

「引退後の数年間、コビーはしばしばジジを学校に車で迎えに行っていましたが、彼は真っ先に到着する保護者の中の1人でした(迎えの時間が決まっていて、先着順に子どもを車に乗せて帰宅することができる)。コビーがポールポジションを獲得し、先頭で待っていることで、同じ学校に通っていた私の子どもたちも彼によく会うようになりました。彼は私の子どもが目に入ると、毎回スチューデント・オブ・ザ・イヤーでも受賞したかのような熱烈さで挨拶してくれたそうです。

先日、私の9歳の娘エメリーが、眼に大きな涙を浮かべていました。なぜかというと、コビーおじさんとジジがいなくなって、ひどく寂しかったからです。なぜそんなに寂しいのか尋ねると、彼女はこう言いました。『ダディー、コビーおじさんは私を見つけると決まって駆け寄ってきて、私を大きな腕ですくい上げて、頭の上まで持ち上げてくれた。コビーおじさんはいつだって、私を世界一の女王様のように感じさせてくれたの』」

文●大井成義

※『ダンクシュート』2021年3月号掲載原稿に加筆・修正。

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