ザイオンとイングラムの離脱で1勝10敗のリーグ最下位に沈むペリカンズ。それでもチームの雰囲気が明るい理由<DUNKSHOOT>
現地時間11月5日(日本時間6日、日付は以下同)、開幕10戦目のゴールデンステイト・ウォリアーズ戦に41点差で大敗。8日のダラス・マーベリックス戦にも16点差で敗れ、1勝10敗のリーグ最下位に沈んでいるニューオリンズ・ペリカンズ。
エースのザイオン・ウィリアムソンが今夏に右足を骨折し、開幕に間に合わないどころか、回復に予想以上の時間がかかっていることが不振の要因のひとつなのは間違いない。今季からチームを率いるウィリー・グリーン・ヘッドコーチ(HC)にとっては難しいチャレンジだ。
しかし現地でのレポートによれば、フロントスタッフや選手たちはみな、グリーンHCを信頼し、前向きな姿勢を保っているという。
ペリカンズのバスケットボール運営部門のバイスプレジデントを務めるデイビッド・グリフィンは、「厳しい立場にある彼には申し訳なく思うが、彼は日々、士気を高め、みなのやる気を引き起こすという点において、素晴らしい仕事をしてくれている」と称賛し、チーム第2エースであるブランドン・イングラムも、グリーンHCの存在のおかげで、チームにはポジティブな雰囲気が流れているとコメントしている。
「前の試合を見直して、改善すべき点をみんなで話し合っている。全員がしっかり団結しているんだ」
またイングラムは、新指揮官についての印象も話している。
「常に冷静で、落ち着いて状況を観察している。必要があれば声に出して指示してくれるが、それよりも、選手にはむしろ失敗を経験させ、そこから改善点を自ら見出させることで、成長させる手法を取っている。彼自身が選手だった経験から、コート上でのことは選手自身が把握しているとわかっている。だから、外から見たことで動かそうとせず、僕たちのその感覚を信頼して任せてくれているんだ」
グリーンは2003年のドラフトでシアトル・スーパーソニックス(現オクラホマシティー・サンダー)から2巡目41位で指名されると、当日にフィラデルフィア・セブンティシクサーズにトレード。15年に引退するまで、5球団(シクサーズ、ニューオリンズ・ホーネッツ、アトランタ・ホークス、ロサンゼルス・クリッパーズ、オーランド・マジック)で通算731試合に出場したシューティングガードだった。
現役引退後に彼をコーチ職に導いたのは、ウォリアーズHCのスティーブ・カーだ。カーは、メディアのアナリストをしていた頃から、現役選手だったグリーンとバスケットボールについて深く語り合う機会を持ち、彼のバスケットボールIQの高さと、物腰の柔らかい人柄を見込んで、指導者としての素質に目をつけていた。
カーはかつてグリーンの同僚だったグラント・ヒルに「彼は見た目通りの好人物か?」と尋ねた時、「それ以上さ」という答えが返ってきたことも決め手になったと明かしている。
2016-17シーズンからの3年間、グリーンはカーのアシスタントとして、ウォリアーズで2度のNBAチャンピオンを経験すると、ニューオリンズ・ホーネッツ時代(10-11)に指導を受けた恩師モンティ・ウィリアムズに請われてフェニックス・サンズのアシスタントとなり、昨季NBAファイナルを経験した。
そしてまだアシスタントとして経験を積もうと考えていたグリーンに、HC職を強く勧めたのは、ウィリアムズだった。
ペリカンズのHC面接は、最初はオンラインだったが、その後対面で行われることになった。しかしサンズはプレーオフの真っ最中でグリーンは躊躇したが、ウィリアムズとサンズのフロントは、ファイナル開始前の練習日にニューオリンズに赴くことを許可した。
この面接で、グリーンはペリカンズからのオファーを承諾するのだが、ファイナルのゲーム5に向けた練習の後、ウィリアムズは選手たちの前でそのことを発表し、グリーンは全員から温かい祝福を受けたという。彼がいかに皆から愛されていたかを物語るエピソードだ。
これまで11球団を渡り歩き、さまざまな指導者と共闘経験のある35歳のギャレット・テンプルも、グリーンがHCに就任したことが、ペリカンズに来ることを決めた大きな理由のひとつだったと明かしている。
「彼のアプローチの仕方は、選手たちにとってものすごく心地がよく受け入れやすいんだ。特に若い選手たちにはそうだと思う。彼の指摘やコーチングは素直に聞き入れやすい。指摘すべき点はしっかり指摘した上で、聞いた側が身構えないような伝え方ができるんだ」
カイラ・ルイスJr.、ナージー・マーシャル、トレイ・マーフィー三世ら若手や、伸び代のある若手が多い現チームにとっては打ってつけの人材だ。
グリーンは就任後、ウィリアムソン、イングラムの両エースだけでなく、テンプルら、ロールプレーヤーたちにとも密にコンタクトを取ってきたというが、今オフに入団したデボンテ・グラハムやヨナス・ヴァランチュナスも主力として順応している。
特にリトアニア代表のセンター、ヴァランチュナスは、ここまで10試合で平均14.2リバウンドと、現在リーグトップクラスの数字を叩き出す奮闘ぶりだ。
先週はサンズ戦、ウォリアーズ戦と、グリーンの古巣対決で黒星。開幕6試合で平均25.0点をマークしていたイングラムも右股関節の挫傷で離脱するなど厳しい状態だが、ザイオンが復帰すれば、チームは改善するだろう。
何よりこの状況の中で選手たちが士気を保っているというのはポジティブな要素。4年ぶりのプレーオフ進出に向け、ルーキーHCの下でペリカンズが今後どんなガッツを見せてくれるのか。ザイオンの復帰後のパフォーマンスと合わせて注目したいところだ。
文●小川由紀子
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