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メジャーで本当に通用するのか? MLBスカウトたちが語った鈴木誠也の「長所」と「課題」<SLUGGER>

MLBがロックアウトに突入したためいまだに移籍先は決まっていないが、鈴木の評価は日に日に高まっている。いったいどこのユニフォームを着るのだろうか?写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)
昨年11月16日、侍ジャパンの4番を務める鈴木誠也がポスティングを表明した。日本球界で圧倒的な成績を残してきたスラッガーは果たしてメジャーで通用するのか。5人のMLBスカウトへの取材によって分かった「長所」と「課題」。アメリカから見た鈴木の評価とは一体どのようなものだろうか。

海を渡ってメジャーリーグに挑む他のすべての日本人選手と同様、鈴木誠也にもさまざまな疑問が付きまとう。彼は今、慣れ親しんだ広島カープという安全地帯から一歩踏み出そうとしている。

メジャーリーグのスカウトたちは、選手の今後の可能性だけでなく、隠れたリスクも見極めなければならない。だが、私が取材した5人のMLBスカウトの間では、一つのコンセンサスがあるようだ。これまで太平洋を渡ったどの日本人野手と比べても、鈴木は成功する確率が最も高い(最もリスクが低い)、というものだ。

まず、鈴木への懸念材料から考えていこう。
●シフト
あるMLBスカウトは、鈴木はアメリカでこれまで見たこともないような守備シフトに遭遇するだろうと考えている。二塁手が二塁ベースの左側に立つような極端なシフトだ。

「鈴木がこれまで経験したことのないものだろう」とそのスカウトは言う。

「彼のゴロ打球の90%は左側に飛んでいるんじゃないかと思える。相手チームは必ずシフトを敷いてくるだろうから、それにどう対処するか考えておかないといけない」

●タイミング
あるスカウトによれば、鈴木は「94マイル(約151.3キロ)以上の速球を打つことにかけては日本球界で最高の打者」だという。一方、それだけ速いボールを投げ込む投手は、日本にはそう多くない。

19年、鈴木は対戦する投手に応じてアプローチを変えていると語っていた。そのやり方は日本では成功するかもしれないが、アメリカに渡れば同一リーグだけで14球団、インターリーグも含めればもっと多くのチームと対戦しなければならない。そのため、アプローチをよりシンプルにする必要がある。

「日本との変化に選手がどう対応するかは、なかなか予見できない」と別のスカウトは言う。「ただ、鈴木はMLBの速い球にも対応できるように思える。立派なメジャーリーグの打者に見えるよ」
●体格
一部のスカウトは、鈴木があまりにも筋力をつけすぎたため、怪我のリスクが増し、耐久性も損なわれたのではないかと懸念している。14年にプロ入りした当時の体重は83㎏だったが、どんどん体格が大きくなり、現在は98㎏となっている。

ただ、彼を間近で見てきたあるスカウトは、身体が大きくなったことはアメリカで成功を手にする上で障壁にはならないだろうと考えている。

「身体の柔軟性を維持する方法を学び、今はかつてイチローが通った施設でトレーニングをしている。本当に研究熱心なんだ」

鈴木がMLB球団からどれだけの注目を集めるか、そしてどれだけの契約を得るのかは、近年、MLB入りした筒香嘉智(パイレーツ)と秋山翔吾(レッズ)が苦戦していることに多少は影響を受けるかもしれない。ただ、1年前と比べるとその度合いは低くなっているはずだ。

筒香と鈴木はどちらもパワーヒッターという点は共通しているが、微妙な違いもある。そして、鈴木と秋山は、少なくとも打者としてはかなりタイプが違う。
秋山は、MLBのスカウトが球団に警告するタイプの典型的な日本人打者だ。日本ではそれなりにパワーを発揮するが、アメリカでは急激に長打が出なくなり、攻撃面の貢献度がシングルヒットと四球、そして走塁面に限られてしまう類の選手だ。秋山は青木宣親とよく似たタイプだが、渡米時の年齢は青木より2歳上だった。

この手の選手は、あるスカウトの言葉を借りれば「フロントフット・ヒッター」と分類できる。つまり、コンタクトの際に体重がほぼ前足に乗っているタイプの打者を指す。このタイプの打者は、ストライクゾーンの間をバットがゆっくり通過し、必要とあればファウルで逃げる。

「筒香も、たまにそうなる時がある。だが、鈴木のアプローチは違う」とそのスカウトは言う。「体重をかける際のバランスが取れている。三振は増えるだろうが、長打も多く打てるだろう。それに、アメリカの投手たちのスピードボールに簡単に押し込まれることもないはずだ」

「以前は4年2800万ドルくらいが妥当かなという感じだったが、今はそう思わないね」

状況を変えたのは筒香だ。今年8月にパイレーツに加入した筒香は、後半戦のナ・リーグで最も活躍した打者の一人となった。筒香は記者たちに、ドジャースのマイナーでタイミングを取るコツをつかんだことが説明の要因だと語っている。筒香の活躍によって、MLB球団は他の日本人スラッガーも同じ教訓を学べるかもしれないと思うようになった。

「鈴木の契約予想額が変わったと思ったのは、そこが理由だ」とそのスカウトは言う。「今はもっと値段が吊り上がっているだろう」
●マーケットの評価
とはいえ、マーケットの状況は複雑で、数多くの球団が鈴木を評価しているというだけで契約額が決まるわけではない。

「他のチームが考える市場価格を大きく上回るオファーを出すチームが1つや2つは必ず出てくるものだ」とあるスカウトは言う。

別のスカウトの意見はこうだ。「彼はあまり金にうるさいようには見えない。もちろん、代理人がどう考えているかは分からないが。それでも私は、鈴木が金額だけでチームを決めるとは思わない。どのチームが自分に一番合っているかを重視するんじゃないかな。おそらく暖かい気候の土地のチームで、なおかつ自分が一番活躍できそうなところを選ぶだろう」

それが本当なら、あるスカウトが予想するように4年4000万ドル規模の契約を提示するチームが出てきても、金額以外の要素が決め手になるかもしれない、ということだ。

21年、鈴木は自ら市場価値を下げるようなことはなかった。打率.317をマークして首位打者に輝き、OPS1.072もリーグ1位。38本塁打は自己最多で、打者有利の球場を本拠とする村上宗隆(ヤクルト)に1本差の3位だった。

やや成績がダウンした20年と今季を比べると、表面上はあまり大きな違いがないように見える。しかし、鈴木は年月を重ねるにしたがって打席での辛抱強さを増し、メジャーリーグのトレンドと同じようにボールを強く叩いて、フライを量産させる打撃に磨きをかけてきた。

あるスカウトによれば、この2つの要素が今シーズンとこれまでの大きな違いだという。

「今年は、打球初速と打球角度がどちらも優秀だった。キャリアベストと言ってもいいだろう」とそのスカウトは言う。「ただ、打席での辛抱強さに関しては特に目立った成長はなかった。その意味ではランダムな要素があるのかもしれない」
相手投手たちと鈴木がイタチごっこを繰り広げていた兆候もある。あるスカウトによれば、鈴木は「初球は必ずと言っていいほど手を出さない」。だが、今年はそれが必ずしも当てはまらない場面も見受けられた。振ってこないだろうと相手を安心させたところで、初球を粉砕するのだ。

投手たちは鈴木に対してこれまで以上に高めやストライクゾーンに投げなくなり、ボールを低めに集めるようになった。だが、相手が失投して甘く入ると、それを逃さずスタンドまで運んでいた。真ん中のコースのホームランが今年は44%も増えたというデータもある。

鈴木は27歳で22年シーズンを迎える。同じ年の大谷翔平(エンジェルス)のように、鈴木は最高の選手になりたいという強い思いを持っている。過去には、「世界最高のバッターになりたい」と話したこともある。

「成績予想みたいなことはしたくないが」とあるスカウトは言う。「鈴木がメジャー1年目で20本塁打に届かなかったら驚きだ。打率もそれなりに残すだろう。シフトも敷かれるだろうし、アメリカの審判にも適応しなければいけないから、日本時代のような打率を残すのは最初は難しいだろうが、そのうち届くだろう」

日本よりさまざまなタイプがいるアメリカの投手との対戦は、より困難なチャレンジになるだろう。慣れ親しんだ日本での流儀を捨て、アメリカに適応するために最初はいくらか時間がかかるかもしれない。だが、あるスカウトいわく、肉体的には何の障壁もないという。

「日本時代に近い成績を残すことを妨げる要素は何一つない」。別のスカウトも同意する。「あまり気にしていないスカウトもいるが、コーチの指導に耳を傾ける能力も重要なんだ。鈴木はその点が非常に優れている。誰にでも肉体的な限界はある。だが、彼はその限界ギリギリまで能力を発揮できると思う。自分の前に立ちはだかるすべての障壁に適応する能力を持っているからね」

文●ジム・アレン

※スラッガー2022年1月号より転載

【著者プロフィール】
1960年生まれ。カリフォルニア大サンタクルーズ校で日本史を専攻。卒業後に英語教師として来日し、93年から取材活動を開始。現在は共同通信の記者として活躍中。ベイエリアで育ち、子供の頃は熱心なサンフランシスコ・ジャイアンツのファンだった。

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