シンプルゆえに奥が深い バドミントンのサーブ・スマッシュを解説

下川裕一,バドミントン

日本人選手の活躍に伴って、テレビやニュースなどで目にする機会も増えたバドミントン。強烈なスマッシュの印象も強いが、そもそもどんなルールの競技なのか。テニスや卓球とは何が違うのか。

実業団チームの選手として16年のキャリアを重ね、現在は選手兼コーチを務める下川裕一さんに聞く。

21点を2ゲーム先に取った方が勝ち

下川裕一,バドミントン

――バドミントンのルールって、わかりにくいですか?

下川裕一(以下、下川):ネットを挟んでシャトルを打ち合うシンプルな競技ですよ(笑)。昔はサーブ権のあるときだけ点数が入るルール(サービスポイント制)でしたが、いまはサーブ権関係なく点数が入るのでシンプルになりましたね(ラリーポイント制)。21点を2ゲーム先に取った方の勝ちです。20点で並んだ場合は、そこから2点差がつくか、最終的に30点先に取った方が勝ちになります。

――1人同士で対戦する場合も、2人ペアで対戦する場合も同じなんですか?

下川:はい、2ゲーム先取で勝敗が決まるところは変わりません。バドミントンって、シングルス(1対1)、ダブルス(2対2)、ミックス(男女ペアでの対戦)という3種目があります。同じコートを使いますが、シングルスは内側の線が基準、つまりダブルスやミックスよりも使う範囲が狭くなります。

サーブは1回ミスしたら、即相手のポイントに

下川裕一,バドミントン

――サーブはどう打ってもいいんですか?

下川:結構サーブのルールは、初心者からすると細かく感じるかもしれないですね。サーブするときに足浮かせたらダメとか。ライン踏んでもダメとか。シングルスとダブルスで、ここより外から打たないといけないラインというのがあるんですが、ライン踏んだ状態でサーブしたら相手にポイントが入ります。

――バレーボールみたいに、ジャンプサーブとかはあり得ないんですね。

下川:基本的に下から、です。コート面から115cm以内の高さにあるシャトルをサーブしないというルールもあります。あとは、空振りしても相手に1ポイント即入りますね。さすがにプロが空振りするのはめったにないと思いますけど。

――1回サーブでミスしても、挽回可能なテニスとは違うんですね。

下川:バドミントンの場合は一発でアウトですね。サーブのミスでポイントが入るシーンは、意外と結構あると思います。

球技最速、スマッシュは時速350キロとも

下川裕一,バドミントン

――試合結果のダイジェストとかだと、どうしてもスマッシュが目立ちますよね。

下川:見栄えしますからね。初速で時速300キロとか350キロと言われています。初速は球技の中で一番速いとも言われてますね。そういうスピート感も魅力の1つとは思うんですけど、実際に受けるとなると動きがかなりハードなんです(苦笑)。打った瞬間は全然見えなくて、もう次の瞬間には手元に来てるようなイメージ。球筋を見てから動いたって間に合わないわけです。相手の打ち方とかフォームを見て、飛んでくる方向を予測して準備して、「やっぱり来た」とパッて動くから反応できる、レシーブが間に合うんです。

――テレビの中継だと、横から引いてみるアングルが多いので、簡単にレシーブしているようにも見えちゃいますね。

下川:実際に受けてみればすぐわかりますよ(笑)。スマッシュが来ても、普通の人はまったく反応できないと思います。手も足も出ないはず(笑)。ラケットじゃなくて手で取っていいという条件なら、なんとか取れるかもしれない、そんな感じです。シャトルの特性で、初速と手元に来るときの速度がだいぶ変わるのも捉えにくさにつながっているでしょうね。相手がスマッシュを打つ位置で、こちらの手元に届く時の感覚もだいぶ違います。

まずは種目の違いを理解する

下川裕一,バドミントン

――バドミントンの試合を観戦する場合、どこに注目したら面白いんでしょうか。

下川:まず前提として、バドミントンって前にも説明したように、男女別のシングルス、ダブルス、男女のミックスという種目があります。昔は、同じプレーヤーが複数の種目を兼ねてたりしていたんですけど、今はそれぞれのレベルが上がって専門性も高くなってきています。ですから卓球のように、シングルスとダブルスを兼ねるプロ選手はほぼいないんです。学生のときは兼ねたりすることもありますけど、プロは基本的に1種目に特化しています。

――シングルスの最強プレーヤーを組ませればダブルスで圧勝できる、そんな単純な話ではないんですね。

下川:シングルスとダブルスだと、同じバドミントンでも競技性がまったく変わってきます。高校ぐらいのレベルなら、シングルス強い子がダブルスも強いことはありますけど、最近は高校ぐらいからシングルスだけやる、ダブルスだけやる、みたいな専門性を磨く子が増えてます。早く動ける・動けないとか、強い球を打てる・打てないみたいな、そういう特徴によって種目の向き不向きが出てくるので、ダブルス、シングルスでは見方も全然変わるかなっていうふうに思います。

――同じラケットとシャトルは使うけれど、全然違う競技になるってことですか。

下川:全然違います。私はダブルスが専門で、やれと言われればシングルスもできますけど、残念ながら不得意なんですよね(笑)。ダブルスの場合は、2人いるので1人の動く範囲が狭いんですが、その代わり球が速い。要は、スマッシュが多いんですね。シングルスの場合は、スマッシュもなくはないんですけど、基本は大きく返したり(クリアと呼ばれる動作)、大きく動いたりする場面が多いので、スマッシュの場面というのはダブルスに比べると少ないんです。ダブルスはそれぞれ2人いて、選手が前後に重なって結構な至近距離で打ちあったりする結果、球の速度は上がってくるんですね。

シングルスの場合は大きく、たとえばコートの四隅に動かすような球が多くなってくるので、速い球もありますけれども、どちらかというとコースを突くようなコース取りが多くなってくるので、そのあたりもだいぶ違いますね。

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■プロフィール

下川裕一,バドミントン

下川裕一(しもかわ・ゆういち)
1981年生まれ。東京都出身。祖父の手ほどきで3歳からバドミントンを始める。淑徳巣鴨高等学校、淑徳大学を卒業後、旭工芸株式会社に入社。実業団選手として16年プレーし、昨年からはコーチ兼選手として活動している。