リヴァプール・南野拓実。ベトナム戦で期待される直線的なプレー #daihyo #LFC

世界最高峰であるプレミアリーグのリヴァプールで活躍する南野拓実選手。日本代表では10番を背負い、11月に行なわれるカタールワールドカップでも活躍が期待されています。

セレッソ大阪U-18時代から追いかけてきたサッカーライターの安藤隆人氏は、南野選手の凄さを「ずっと打ち込んできた反復練習」にあるといいます。C大阪、ザルツブルグ、リヴァプールとステップアップしていく南野選手の魅力に迫ります。

■クレジット
文・写真=安藤隆人

■目次
プレミアリーグで磨かれるスピードとインテンシティ
C大阪U-18時代から大事にしてきたイマジネーション
反復練習が切り開くW杯への道

プレミアリーグで磨かれるスピードとインテンシティ

ゴールに対して直線的に駆け抜ける。

リヴァプールでプレーする南野拓実は圧倒的な強度とスピード感を誇るプレミアリーグで、一瞬の駆け引きとゴール前のスペースへの飛び込みを駆使して、世界トップクラスのレギュラー争いの日々を送っている。

日本代表では10番。だが、先日のオーストラリア戦でもスタメン出場をするが、ノーゴールに終わるなど、最終予選においてはアウェイ・サウジアラビア戦の1ゴールに留まり、思うような結果は残せていない。

だが、11月のW杯に向けて、彼の置かれた日常が日本にとって大きな武器となるだろう。アジア最終予選と違って、W杯になればより攻守における強度やスピード感が増す。アジアのように日本がポゼッションで優位に立ち、余裕を持ったボール回しができる回数は格段に減るだけに、ゴールに一直線に矢印を向けて、短い時間でスピーディーに決め切る攻撃はより必要になってくる。だからこそ世界一の強度のなかで、直線的な技術を磨いている南野は重要なキーマンになってくるだろう。

「ヨーロッパでプレーするようになってから、奪ったゴールの90%以上がペナルティボックスの中なんです。日本にいたときはもう少し外からシュートを打つことも多かったのですが、こっちに来てからはFWやトップ下でプレーをする機会が多くなって、ゴールへアプローチする回数が増えたこともあって、ボックス内での勝負が増えました。そこでゴールを奪うための動き出しや、ボックス内でどう動いたら相手の脅威になれるかを意識して取り組みました」

リヴァプールでのゴールもペナルティエリア内でのワンタッチゴールが多い。スピードと強度を持って移動するボールと人の位置を視野に捉えながら、最後にボールが到達する地点を素早く察知し、そのポイントに先回りをしたり、わざと遅れて入ったり、角度なども微調整をしながら、かつトップスピードで入り込む。このクオリティは間違いなく日本トップレベルだ。

C大阪U-18時代から大事にしてきたイマジネーション

思い起こせばセレッソ大阪U-18時代も彼はゴールに対する直線的なプレーが印象的だった。

当時の印象は練習熱心な少年で、特にシュート練習は全体練習後に黙々と取り組んでいた。しかも、ただシュートを打っているわけではなく、時には何かをぶつぶつ言いながら、フェイントを入れたり、タイミングを早くしてシュートを打ったり、スピードの緩急をつけて打ったりと、まるで目の前に見えない敵が複数いるかのようにシュートをひたすら打っていた。その姿勢についてプロになってからの彼に聞くと、こう返ってきた。

「シュートの数も大事ですが、それだけでもダメ。どれだけ1本、1本をしっかり意識できるか。例えば相手がいないシュート練習だったとしても、僕の中ではそこに相手が常にいることを想定して、実戦でのリアリティを持ったトラップ、スピード感でどれだけできるか。それを毎日積み重ねることが大事なんです」

当時、GKがいなくてもコースに拘っている姿を思い出した。綺麗な軌道のゴールが決まっても、首を捻ったり、スウィングの確認をしたり、逆に枠を外れたシュートでもトラップしてから足を振るタイミングに頷きながら、もう一度その角度からのシュートを打ってみたりと、対峙する仮想の相手DFとGKが常にいた。さらに後ろからパスを出してもらって、トップスピードでワンタッチコントロールをしてシュートを打つ練習の際には、背後から追いかけてくる仮想DFまで存在していた。

「このシュートだったら確実に防がれている」、「このトラップだったら、シュートを打つ前に獲られている」。彼は常に自問自答をしていた。

積み重ねた練習は実戦で何度も再現された。一番印象に残っているのが、高校3年生の時の高円宮杯プレミアリーグウェスト、京都サンガU-18戦だ。この試合、C大阪U-18は4点を追いかける苦しい試合展開だったが、南野はゴールに向かって何度もスプリントを繰り返し、何が何でもゴールを奪うという気迫を見せていた。

後半アディショナルタイム、味方の後方からのロングパスに一気にスピードアップして反応すると、寄せて来たDFを身体で抑えながら難しいボールをワンタッチで足元に収めて、一瞬で前を向いてシュート。これはDFに当たるが、こぼれ球に瞬時に反応し、ゴールに突き刺した。

「大事なのはどれだけ現実に近い意識の中でやれるか、それをどこまで追求出来るか。それを人に言われてやるのではなく、自発的にやらないと意味がありません」

反復練習が切り開くW杯への道

この姿勢は今も変わらない。C大阪U-18、C大阪、ザルツブルグ、リヴァプールとプレーするステージは大きく上がっている。その中でも南野は南野らしく、かつ進化を遂げられているのは、ずっと打ち込んできたこの反復の日々があるからこそ。

「僕の中でペナルティエリア内はある意味『身体を投げ出してシュートに行く場所』なんです。だからこそ、スピードが求められる。カウンターでもレベルの高いチームにいけばいくほど、本当に『直線的』に来るんです」

「いかにいち早く前に運ぶために、縦の動きで相手を剥がして行きながら、スピードを落とさないでシュートまで持ち込めるか。それはザルツブルクでも同じで、カウンターのときはみんな自分が点を獲りたいので、膨らみすぎたらゴールの可能性が低くなってしまう。だからこそ中へ直線的に動いていくし、ファーストタッチも少しでも一歩でも前に出られるようにプレーするんです」

「最後は個の能力が絶対に必要になってきます。チャンピオンズリーグの決勝トーナメントの試合であっても、個で決めてしまうシーンがある。僕が目指している場所にいくためにも、個で打開出来る選手は絶対に必要とされるので、それを上げるためにはどうするかを日々考えています」

ザルツブルグ時代、南野はこう語っていたように、直線的にゴールに突き進む姿勢はヨーロッパに来てさらにその重要性を学んだ。それを日本代表として真価として発揮するのがカタールW杯だ。アジア最終予選の最終戦となるホーム・ベトナム戦前の会見で南野はこう口にした。

「直線的にゴールに向かって行くことは個人的にも意識している部分。そのためのスプリント、どういうコースでランニングをするのか、ボールを持った時にどれだけ前に向かってプレーするのかは常に意識をしています」

ベトナム戦が終われば、彼は再び世界トップレベルの競争の世界に戻る。

「チームに帰っても常にチャンスがあるわけではないので、その少ないチャンスをものにする力が大事。インテンシティの部分は非常に高いリーグなので、ここでの経験は次、W杯で世界レベルの相手と対戦する時に必要な要素になると思うので、コンスタントに試合に出られるようにアピールをしていきたいです」

11月に向けて、そして目の前の大きな壁に向かって。南野拓実はより直線的な強度とスピードを磨き上げて、カタールの地で躍動をしてくれるはずだ。

■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)

1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。

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