なでしこは、ピンクリボンを支援する。社会の一員としてのサッカー選手
2011年7月17日。アメリカ代表との激闘の末にもつれ込んだPK戦を制し、サッカー日本女子代表「なでしこジャパン」は初めて世界の頂点に立ちました。東日本大震災があったこの年、勇気と感動を与えられた人も多いことでしょう。
あれから8年。2019年7月にフランスで行われたFIFA女子W杯をベスト16という結果で終えた今、なでしこジャパンは2020年の東京五輪に向けて再スタートを切りました。
2019年10月6日に、IAIスタジアム日本平にて行なわれた国際親善試合で、その“再スタート”を象徴する出来事がありました。日本サッカー協会(以下「JFA」)が主体となり、ファンやスポンサーを巻き込んで会場一体をピンクに染め、乳がん啓発運動であるピンクリボン運動を盛り上げたのです。
JFAでなでしこジャパンのメディアオフィサーを務めている倉田研太郎さんに、今回の取り組みの背景や、なでしこジャパンが社会貢献活動に挑戦する理由と、その思いに迫りました。
サッカー選手も“社会の一部”
2019年のフランスW杯、なでしこジャパンはベスト16で敗退しました。世界一を獲ったことがある彼女たちにとって、この結果は周囲の期待とは程遠い結果でした。でも、東京五輪が1年後に迫っている今、過去に囚われている暇はありません。自国開催だからこそ、もう一度強いなでしこジャパンを見せたい。私たちにとっては逃すことができないチャンスです。
チームとして再発進しようとしていた中、2019年10月と11月に日本国内で国際親善試合が予定されていました。五輪に向けて再スタートした姿を見せるには、ここしかない。この機会に、何か盛り上がるきっかけを作りたかったんです。
その中で「スタジアムをピンクに染めたい」という案が最初に出てきたんです。撫子の花の色であり、なでしこジャパンのチームカラーであるピンクで、会場全体を染めるというものでした。
この案がピンクリボンという社会活動と結びついた背景として、フランスW杯が大きかったんです。優勝したアメリカ代表が、男女間の賃金平等や待遇格差解消を求めて、声を上げていて。男女で求められるスキルや責任は同じにもかかわらず、「“女子だから”待遇はこれくらいの規模感でいいだろう」と判断される風潮が、これまでのサッカー界にはありました。
そんな中、彼女たちが国際サッカー連盟(FIFA)に男女間の賞金の格差是正を訴えたのは、サッカー界だけでなく社会に対して大きなインパクトを与えました。
この動きを実際に見たことで「サッカー選手は特別な存在ではなく、社会の一部なんだ」ということを強く感じました。何らかの形で、この動きに共鳴したい。“ピンク”や“女性”というキーワード、10月という時期を含めて考えた時にたどり着いたのが、ピンクリボン活動でした。
“競技の強さ=注目度”だけではない
当初、ピンクリボン活動に対して具体的に何をするべきかは明確になりませんでした。乳がんで困っている人がチームにいるわけでも、身近なところで困っている関係者がいるわけでもない。運営側も選手たち自身も、この活動を完全に自分ごとにすることはできないことに気づきました。
だったら、私たちはこの活動と“向き合う”立場でいこう、と。これまでのなでしこジャパンでは、“競技で勝つことが注目に繋がる”という考えが何よりも強く、こういう姿を見せることはありませんでした。
なでしこジャパンも社会の一部であり、その中で活動させてもらっている。いろんな人の支えや応援があって、活動することができている。だからこそ、チームとしてこういった社会活動にも向き合うんだ、という姿を見せたかったんです。
JFAの広報部に所属する倉田研太郎さん
スポンサーさんを巻き込んだ施策でいうと、2017年より日本代表アパレルプロバイダーとして、なでしこジャパンにオフィシャルスーツを提供くださっているBEAMSさんが、ピンクリボンのブレスレットを選手、監督、さらに今回の活動に賛同してくれた対戦相手のカナダ代表チームにも提供してくださいました。adidasさんと一緒にユニフォームのネームと背番号をピンクにして、そして全ての日本代表スポンサーさんが、試合会場の広告看板をピンクにすることに賛同してくださっています。
アパレルプロバイダーであるBEAMS社からは、同社で取り扱う「Quelle Chance」のピンクリボンブレスレットが両チームに提供された
会場をピンクに染めてなでしこジャパンを盛り上げよう」という動きと、「ピンクリボン活動と向き合おう」という社会的な活動が掛け合わさりました。今回に関しては時間的な問題もあり、後者のところまで踏み込んでスポンサーさんと連動することが、BEAMSさん以外のパートナーとできなかったのも現実です。
しかし、さまざまなスポンサーのご担当者様と話していく中で、「もっと早く言ってくれれば」「競技との直接的な関わりだけでなく、社会活動への関わり方もしていきたい」という反応も多くありました。スポンサー側も前向きに思っておられるということは、今回取り組んで初めて分かったことです。
一歩目を踏み出すことで、賛同してくれるパートナーがいることが分かった。そういう意味で、0から1になる土台を作ることができたという実感はありましたね。
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