ヨガウエア『オドロ』
スポーツがムーブメントとして広がりを見せるとき、その背景には日本のトップアスリートたちの活躍がある。昨年のラグビーや、近年のテニスなどがそれにあたるだろう。だがもうひとつ大きなファクターが存在する。それは、そのスポーツが女性たちのライフスタイルの中に入り込むということだ。
ゴルフ、ランニング、山登りなどのアウトドア…。これらのスポーツが新たに脚光を浴びたときと、それまで素通りしていた女性たちが、そのスポーツのフィールドに入ってきたタイミングは軌を一にしているように見える。
そしてこうした流れをもっとも顕著に示しているのがヨガだろう。ヨガははるか昔から、インドなど東洋を中心にして行われてきた身体法とされている。だが現代のヨガはエクササイズの要素を加味することで、精神の安定やリラクゼーションだけでなく、ストレッチやダイエット、デトックスにつながるといったメリットが女性たちに受け入れられた。彼女たちはときに、ワークアウトの感覚でもヨガをとらえているのだ。
ヨガ人口は日本では1000万超ともいわれ、トップアスリートたちも準備運動として、アフターケアとして、パフォーマンスを向上させるために、ヨガを取り入れている。サッカー日本代表の長友佑都が、日々ヨガを実践していることも話題になった。
こうしたアクティブな女性たちに、新たに受け入れられたスポーツには共通項がある。それは何を身に着けて、そのスポーツを楽しむかが重視されることだ。ゴルフも山登りも、そしてヨガも、彼女たちのルックスは、従来の愛好家たちとは異なる志向を見せる。それがある種のトレンドとなり、さらに新たなファンを広げていく。
今回、紹介するのはオドロのヨガウエアだ。ヨガウエアは、スポーツウエアとしても、またファッションシーンでも、すでにひとつのジャンルとして確立されている。そして今やゴルフやアウトドア以上に、ヨガにおけるウエアの存在感は高まっている。
数年前、ファッションのトレンドワードとなったアスレジャーという言葉に聞き覚えはないだろうか。アスレチックとレジャーを組み合わせた造語で、スポーツウエアを普段着に取り入れるスタイルだ。
このスタイルは瞬く間に広がり、いわゆるスポーツブランドからラグジュアリーなファッションブランドまで追随した。そのきっかけは、ニューヨークやアメリカ西海岸でのヨガウエアの普及だったともいわれている。ヨガウエアは女性のクローゼットの中で、すでに市民権を得ているのだ。
そんなヨガウエアの役割は、ヨガを行うときの意識を高め、集中力を損なわないものであること。そのためにはまず機能性が求められる。たとえばさまざまなポーズが求められるヨガでは、ウエアは締めつけが弱く、動きやすいことが欠かせない。そのためには優れた伸縮性やフィット感が求められる。またずぶ濡れになるほど汗をかくホットヨガであれば、吸汗速乾素材を用いることは必須となる。
またヨガならではのゆったりとしたシルエットのウエアであっても、はだけたり、めくれ上がることがないように、裾やウエストだけはフィット感を高めるようなデザインが施されていることも多い。女性たちのよりどころであるおしゃれでかわいいだけでは、ヨガウエアは選んでもらえないのだ。
グローバルなメガスポーツブランドや、人気のプチプラまでもがヨガウエアを手がける中で、オドロはヨガウエアにおいて異色のコラボを実現して注目を集めた。そのパートナーとは今は亡き女性建築家、ザハ・ハディドのDNAを受け継ぐ建築事務所(ザハ・ハディド・アーキテクツ)だ。
ザハ・ハディドといえば、東京五輪に向けた新国立競技場のデザインが採用されながら、巨額の建築費などから幻に終わったことが思い出される。あの宇宙から舞い降りたかのようなスタジアムの完成予定図には度肝を抜かれた。スポーツウエアの世界でもさまざまなコラボが試されてきたが、とりわけ期待値と困難度が高い組み合わせとなった。
そのきっかけは、“曲線の女王”と呼ばれるザハ・ハディドが設計した、下のギャラクシーSOHOのような、洗練された曲線美をもつビルから受けたインスピレーションだという。こうして画期的なコラボレーションはスタートした。
ザハ側が目指したのは、未来をイメージしたレイヤリング、光の遊び、シームレスな流動性を組み合わせた、自分のもう1枚の皮膚であるかのように感じるフィット感だった。そこにアンダーウエアやサイクルウエア、前回紹介したランニングウエアなどに用いられる、オドロが誇る高機能ウエアのノウハウが加えられていった。また複雑な人体の構造を読み解くオーガニック ボディマッピングという新たなテクノロジーも投入された。
とはいえデザインスケッチから実際のプロダクツを作り上げる過程は容易ではなかった。というのも、“アンビルド(建てられない、完成しない)の女王”とも呼ばれるザハ・ハディドが描くデザインは、まさに斬新なフォルムがもち味。それを再現しつつ、ヨガウエアとしての機能性も落とし込まなければならなかったからだ。
コンセプトが決まってから販売にたどりつくまで約2年。膨大な縫製生地サンプルを作成して、さまざまな加工を試し、同時に自社のテストセンターで、実際のアクティビティを通して機能性も実証していった。とりわけ質感や軽さ、通気性、伸縮性などを左右する、スポーツウエアでよく用いられるワープニットの複雑な技術を、プロダクツに反映させるプロセスは難しい局面だったという。
こうしてできあがったオドロのヨガウエアは、カーブを生かした独特なデザインやメッシュ風の構造を組み合わせたシャープなデザインなど、斬新でモダンなルックスが印象的だ。にもかかわらず、フェミニンな魅力が失われることもまったくない。そして機能面でも、ストレスのない快適な伸びや、包み込まれるような着用感など、ヨガのエキスパートたちからも高い評価を受けている。
女性たちはヨガの虜になるにつれて、ヨガウエアにも魅せられていく。それはガラス張りのヨガスタジオでの見え方が気になるためではなく、ヨガを行うためにヨガウエアを着るこが、女性たちにとってこの上ない癒しになっているからに違いない。オドロのヨガウエアはそんな彼女たちにとって魅力的な選択肢になりそうだ。
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