
NBAの歴史を語る上で欠かせない存在と言えば、まず最初にマイケル・ジョーダンの名前が挙がる。もちろん、コービー・ブライアントや今も現役で活躍するレブロン・ジェームズなどの名前も欠かせないが、「バスケの神様」と語り継がれるジョーダンの存在は誰もが思い浮かべるはずだろう。
6度の優勝、6度のファイナルMVP、5度のシーズンMVP、そして世界的な人気。
多くのファンが彼を「史上最高の選手」と語る。
しかし、NBAの歴史を“数字”で見ていくと意外な事実も見えてくる。
通算得点、3ポイント成功数、トリプルダブルなど、ジョーダンの記録はすでに多くの選手によって更新されている。それでも、彼はなぜ「神」と呼ばれ続けるのか。
今回はNBAの歴史を記録という視点から見直し、ジョーダンの本当の凄さを考えてみたい。
神と呼ばれた男:マイケル・ジョーダン
1990年代、NBAはまさにマイケル・ジョーダンのリーグだった。
1991年から1993年、そして1996年から1998年。彼が率いたシカゴ・ブルズは2度の3連覇を達成し、合計6度のNBA優勝を手にする。ちなみに余談だが、現在シカゴ・ブルズと2WAY契約をしている日本人NBAプレイヤーが河村勇輝である。
話をジョーダンに戻すと、ジョーダンは個人として「NBA MVP:5回」「得点王:10回(NBA記録)」「ファイナルMVP:6回」という圧倒的な実績を残した。
特に得点王10回は、NBA史上でも突出した数字。NBAの歴史で1試合の最多得点記録を持つウィルト・チェンバレン(100点)でも、得点王になったのは「7回」。現役選手ではケビン・デュラントが「4回」で最多なのだから、ジョーダンの「10回」がどれだけ異常であるかは一目瞭然であろう。余談だが、チェンバレンの次に1試合の最高得点記録はコービーの「81得点」だったが、先日マイアミ・ヒートのバム・アデバヨが「83得点」を記録し、歴代2位記録を塗り替えた。
また、ジョーダンはキャリア平均「30.1得点」を記録し、NBA史上最高の平均得点を誇るスコアラーでもあった。この平均「30.1得点」は、今もなお破られていない大記録。細かい話だが、ジョーダンは「30.12点」で、次点は100点を記録し得点王7回のウィルト・チェンバレンだが「30.07点」である(※1)。この2人以外に、平均30点以上を記録した選手は未だに現ていない。ジョーダンが引退してから20年以上も経っているのに、だ。
そして彼の影響力は、単なるスタッツでは語りきれない。
ナイキと生み出した「Air Jordan」はスニーカービジネスを世界的な文化へと押し上げ、映画『Space Jam』などのメディア露出も含めて、ジョーダンはスポーツを超えた世界的アイコンとなった。
その結果、多くのNBAファンは彼を「GOAT(Greatest of All Time/史上最高の選手)」と呼ぶ。1990年代のNBAは、まさにジョーダンという神であり「GOAT」を中心に回っていたのである。
数字で見る意外な事実
しかし、NBAの歴史をスタッツという視点から見ていくと、意外な事実が見えてくる。
実は、ジョーダンが持っていた多くの「歴史的記録」は、その後のNBAで次々と更新されている。この章では、それら「塗り替えられた記録」について紹介したい。
通算得点
実はジョーダンは、キャリア通算得点では意外にも「5位」に位置している。得点王を10回、キャリア平均30得点越えをしているのにも関わらず、だ。これはジョーダンが全盛期に2回も引退していることが影響しているからである。
ちなみに、長年、歴代最多得点は「スカイフック」という絶対にブロックできないシュートを生み出したカリーム・アブドゥル・ジャバーが保持していた。余談だが、最近アディダスから「ジャバー」というスニーカーが発売されており、古いコアなNBAファンから話題を集めている。
そして2023年、ついにジャバーの記録を更新したのがレブロン・ジェームズである。
レブロンは2023年2月、通算38,387得点を超え、NBA史上最多得点記録を塗り替えた。現在では4万点を超える得点を積み上げているが、これは彼が18歳からNBAキャリアを始め、ルーキーシーズンから圧倒的な存在感を見せつけながらも、41歳になった今もなおプレーをトップレベルで続けていることが大きい。
長くキャリアを続けていることが通算得点という側面から見ると大きいと言えるだろう。また、ジョーダンはワシントン・ウィザーズで2度目の現役復帰をした際、当時38歳で平均20得点ほどを記録していたが、レブロンは38歳の時にシーズン平均30.3得点を記録している。レブロンがどれだけ衰えていないかも、これを見てわかるはず。
| 順位 | 選手名 | 通算得点 |
| 1位 | レブロン・ジェームズ* | 42,623点 |
| 2位 | カリーム・アブドゥル・ジャバー | 38,387点 |
| 3位 | カール・マローン | 36,928点 |
| 4位 | コービー・ブライアント | 33,643点 |
| 5位 | マイケル・ジョーダン | 32,292点 |
| 6位 | ダーク・ノビツキー | 31,560点 |
| 7位 | ケビン・デュラント* | 31,458点 |
| 8位 | ウィルト・チェンバレン | 31,419点 |
| 9位 | ジェームズ・ハーデン* | 28,614点 |
| 10位 | シャキール・オニール | 28,596点 |
「*」は現役選手。また、表は2026年1月時点の記録
3ポイント
そもそもジョーダンはプレースタイル的にも3ポイントを多投するタイプではなかった。超人的な身体能力とジャンプ力を活かしたダンクやフェイダウェイなどを武器をしていたため、3ポイントの成功数だけで見るとキャリア通算で581本である。この数字は、NBAの歴代キャリア3ポイント成功数ランキングを見ても、TOP200にすら入っていない(※2)。ただ、90年代のNBAを見ると今ほど3ポイントを重視する戦術はなかったが、当時ジョーダンのライバルの1人でもあった名シューターのレジー・ミラーは、歴代7位(2,560本)を記録していることからも、ジョーダンがどれだけ3ポイントに頼らずに得点を量産していたかがわかる。
ちなみに、今のNBAは3ポイントが得点を重ねる上では「非常に効率的」と考えられていることから、3ポイントを多投するという戦術が多く用いられる。だから多くの歴代選手が「歴代3ポイントランキング」で上位にランクインしている。
それでも群を抜いている存在が、ステフェン・カリーだろう。カリーは2021年、NBAの歴史上でも最高と呼び声高いレイ・アレンが保持していた「2,973本」というNBA通算3ポイント成功数の記録を更新し、史上最多の3ポイントシューターとなった。現在では、その記録をさらに伸ばし続けている。ちなみに、2位はクリーブランド・キャバリアーズに移籍した、長いヒゲがトレードマークのジェームズ・ハーデン。
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トリプルダブル
現代NBAを象徴するスタッツが「トリプルダブル」である。
「トリプルダブル」とは。得点・リバウンド・アシストなど、3つの主要スタッツで2桁を記録すること。2つのスタッツで2桁を記録することを「ダブルダブル」と言う。この記録は、近年のNBAで急激に増えているが、トリプルダブルを記録することは、すなわち試合を支配していることが証明されると言っても良い。もしくは、10得点・10リバウンド・10アシストなど、ギリギリ「トリプルダブル」という場合もあるが、これは全てのプレーに関連していることの証明でもあり、チームのコアとして活躍していたことを表している。
NBAの神童とも呼ばれているスロベニア出身のルカ・ドンチッチは、62得点・21リバウンド・10アシストという記録を達成したことでも非常に話題になった。またセルビア出身のニコラ・ヨキッチも61得点・10リバウンド・10得点を記録したことも記憶に新しい。
そんな中でも、キャリア通算でトリプルダブルを最も多く記録しているのが、ラッセル・ウエストブルック(サクラメント・キングス)である。ウエストブルックは2021年、オスカー・ロバートソンが持つ「181回」という歴代最多トリプルダブル記録を更新し、現役として活躍する今もなお記録を伸ばし、合計「200回以上」というNBA史上最多のトリプルダブル記録を保持している。
だいぶ遠回りをしてしまったが、ジョーダンはキャリアでわずか「28回」しか記録したことがない。プレースタイル的にもトリプルダブルを常に出す選手ではなかったが、このように数字だけを見てしまうと、得点能力に全振りした選手だったと考えられてしまっても仕方がないかもしれない。このように、NBAの歴史をスタッツで見ていくと、多くのカテゴリーでジョーダンの時代とはまったく違う選手たちが記録を更新している。それは同時に、NBAのプレースタイルそのものが大きく変化したことを意味している。ジョーダンの時代と、現代NBAはすでに別のゲームになっているのだ。
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それでもジョーダンは「数字では語れない」
ここまで見てきたように、NBAの歴史をスタッツで見れば、多くの記録はすでに更新されている。しかし、それでもなおジョーダンが「史上最高の選手(GOAT)」として語られ続ける理由はどこにあるのだろうか。
その答えのひとつが、“記録ではなく記憶に残るプレー”だろう。
Flu Game
象徴的なのが、1997年のNBAファイナル第5戦。
高熱と脱水症状に苦しみながら出場したジョーダンは、38得点を記録してチームを勝利に導いた。試合後は相棒のスコッティ・ピッペンにもたれかかりながら退場するシーンも非常に印象的である。ちなみに、正確な公式の数値は公開されていないが、当時の報道や証言によれば「39.5度の発熱だった」という噂もある。さらに言えば、食中毒が濃厚だったという話もあり、以下にジョーダンが絶望的な体調だったかがわかる。
この試合は現在でも「Flu Game(インフルエンザゲーム)」として語り継がれていることに加え、逆にジョーダンがこの時に履いていた「ジョーダン12」は、そのような背景(体調が悪い中でもパフォーマンスを上げてくれる靴」として、現代でも非常に人気を集めている。
2度の3連覇
おそらくジョーダンの伝説を一番わかりやすく説明できるのが、「2度の3連覇」であろう。3連覇を達成したチームはいくつか存在しているが、3連覇を「2度」も達成したのは、ジョーダンとシカゴ・ブルズだけである。
1991〜1993年、そして1996〜1998年。ジョーダンが率いたシカゴ・ブルズは、NBA史上でも屈指の王朝を築いた。ちなみに、この98年の2度目の3連覇を達成してジョーダンは2度目の引退をするわけだが、2000年〜2002年の3年間で3連覇を達成したのは、シャック&コービーで有名だったロサンゼルス・レイカーズである。この後、レイカーズは2009年と2010年に2連覇をするが、3連覇には届かなかった。
話を戻すが、ジョーダンは2度の3連覇・6度の優勝すべてで「ファイナルMVP」を受賞している。この記録も、ジョーダンがどれだけ素晴らしい存在だったかを表しているだろう。当然ながら6度のファイナルMVP受賞はNBAの歴史上最多。次点では4度受賞したレブロン・ジェームズ。
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THE SHOT
1998年のNBAファイナル第6戦。
残り数十秒、ジョーダンはドライブから得点を決め、さらに次のポゼッションではカール・マローンからボールを奪う。そして最後、バイロン・ラッセルをドライブで出し抜いて決勝のジャンパーを沈めた。この一投はNBA史に残る名場面として知られている。
写真でも動画でも、今もなお語り継がれるこのプレーは、多くのバスケ選手に影響を与えたと言っても過言ではないだろう。
こうした瞬間の積み重ねによって、ジョーダンは単なるスーパースターではなく、NBAというリーグの象徴的存在となった。スタッツだけを見れば、彼の記録の多くはすでに更新されている。しかし、物語として語り継がれる瞬間の数では、ジョーダンに匹敵する選手は多くない。ジョーダンは、数字だけでは測れない伝説を残した選手なのである。
NBAはジョーダンという神から脱却した
1990年代、NBAはまさにジョーダンを中心に回るリーグだった。圧倒的なスターが一人存在し、その選手がリーグの象徴となる。当時のNBAは、言わば「一人の神が支配するリーグ」だったと言っても過言ではないだろう。
しかし現在のNBAは、当時とは大きく姿を変えている。
まず象徴的なのがレブロン・ジェームズ。20年以上にわたってトップレベルでプレーを続け、通算得点記録を更新するなど、現代NBAを代表するスーパースターとなっている。
さらに、3ポイント革命を象徴する存在がステフェン・カリーだ。カリーは通算3ポイント成功数の歴代記録を更新し、現代NBAの戦術そのものを変えた選手とも言われている。そして現在のNBAは、世界中からスターが集まるリーグでもある。セルビア出身のニコラ・ヨキッチ、スロベニア出身のルカ・ドンチッチ、ギリシャ出身のヤニス・アデトクンボなどなど、国籍もプレースタイルも異なるスターたちがリーグの中心を担っている。1990年代のように一人のスーパースターが支配するリーグではなく、多くのスターが共存するリーグ。それが、現代NBAの姿なのである。そんな現代NBAは、ジョーダンの時代を知る人にこそ、もう一度見てほしい。そこには、日々新しい伝説が生まれているから。
【参考】
※1:https://thedigestweb.com/basketball/detail/id=107575
※2:https://www.basketball-reference.com/leaders/fg3_career.html
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