
“地方では難しい”という言葉が、全く似合わないチームだ。
長崎ヴェルカ。
ジャパネットホールディングスを親会社に事業運営会社を設立し、2021-22シーズンに新規参入すると、クラブ創設からB3→B2→B1ストレート昇格という快挙を成し遂げた。
クラブ創設からストレート昇格を果たしたクラブは、後にも先にもヴェルカだけである。同時期にB3から新規参入した新鋭・アルティーリ千葉も2024-25シーズンに昇格が決定し、2025-26シーズンからB1を戦う。
ヴェルカは戦力の充実はもちろん、長崎スタジアムシティ内に昨年開業した新アリーナ「HAPPINESS ARENA」でも、開業前から続くホームゲームの完売記録を更新し続け、昨季末にはB1リーグ戦60試合連続完売を達成。まさに“総合力の勝利”を体現するクラブだ。
なぜ長崎ヴェルカだけがそれを実現できるのか、27歳の若さでアシスタントGMを務める渡辺怜氏に話を聞いた。

写真:HAPPINESS ARENA(ハピネスアリーナ)満員の客席/提供:長崎ヴェルカ
▶「長崎ヴェルカのフロント・渡辺怜に聞く<前編>】アシスタントGMってどんな仕事?
▶【中編】なぜ、27歳でプロチーム“アシスタントGM”になれたのか
「土台」を作ってきた
── クラブ創設からB3→B2→B1とストレート昇格できるほど勝てたのはなぜだと思いますか。参入初年度の天皇杯では、B1のサンロッカーズに勝利したことも鮮烈でした。
渡辺:私もB1に上がったシーズンからなので、あくまで聞いてきた話と、入ってから個人的に思っていることですが、いろんな理由があるなかでも、やはり土台をしっかり作ってきたことが大きいのかなと思います。
── 土台というと。
渡辺:新しい本拠地「HAPPINESS ARENA」ができるまでも、佐世保のジャパネットの福利厚生施設をヴェルカ用の体育館に作り替えてもらい、使用できました。設備投資はとても重要な要素だと思います。
あとは「人」ですね。
長崎ヴェルカ社長兼GMの伊藤拓摩が集めてきたスタッフ、選手も、B3に合わせずB1で戦えるメンバーを揃えています。それなりにお金はかかるんですが、その初期投資をしてでも土台を作り、フィロソフィーを作ってそのもとで戦ってきたからだと思います。
── 伊藤さんが社長兼GMという、事業とバスケットどちらも責任者である点も大きかったですか。
渡辺:そう思います。事業側もチーム側も同じ意志を持ち、共通理解のもとで動いてきたというのも、このヴェルカの土台の一つだと感じます。
── 多くのチームもそれを理想としながら現実的には難しいのに、なぜ伊藤さんにはできるのでしょうか。
渡辺: 個人的には、理想のリーダーだと思いますが、タイプとしては、マネージャーだなとも感じてます。ヘッドコーチ経験があるからか、事業側のスタッフに話すときもコーチらしい話し方をするなあと。フィロソフィーやコンセプトワークをとても大事にして、そこに沿っているか沿ってないかという基準で物事を判断します。
私がアメリカにいたときはそれが普通だと思ってたんですが、日本では実はなかなかいないタイプのリーダーで、それが彼をリーダーたらしめている部分だなと思います。

写真:社長兼GMの伊藤拓摩氏/提供:長崎ヴェルカ
「HAPPINESS ARENA」での観戦体験を
── お客さん視線で“長崎ヴェルカのホーム観戦ならでは”という要素はありますか。
渡辺: 新アリーナの「HAPPINESS ARENA」での観戦体験だと思います。競技だけでなく、ワクワクをデザインするということを大事にしています。
私自身も、かつてアメリカのアリーナで試合を観て“やっぱり違うな”とワクワクした体験が、自分にとって大きな価値となっているので。

写真:「HAPPINESS ARENA」でのホームゲームの様子/提供:長崎ヴェルカ
── 収容人数約6,000人ですよね。可変型のレイアウトで席数も柔軟に変更できると聞いて、地方都市にとって理想的な設計で、他のスポーツチームや文化団体、住民にとってもありがたい場所だと思いました。
渡辺: はい。私も10年前に“10年後、長崎にこのアリーナできているよ”と聞いても信じなかったと思います(笑)。やっぱり私の子供の頃のバスケット観戦は、多くて数百人の代々木体育館のイメージだったので。
なぜこんなにバスケやっている人は多いのに、人が観に来ないのか不思議で仕方ありませんでした。それが約10年前のBリーグ開幕が“バスケットで人を集めることもできる”と思ったことは、流れを変えるきっかけだったと思います。
長崎ヴェルカの“HAS IT!”とは
── ヴェルカの試合を観戦するとき、これを知っていれば楽しめる、というポイントがあれば教えて下さい。
渡辺: 伊藤は、目指すプレースタイルを“HAS IT!”と言ってきました。
ハード(Hard)、アグレッシブ(Aggressive)、スピード(Speed)、イノベイティブ(Innovative)、トゥギャザー(Together)の略なんですが、ハードにプレーして、どんな状況でも頑張るし、そして速いバスケットを展開しますという宣言です。
観客のみなさんが、そういう視点でチームのプレーを見れるようにデザインしたという伊藤の言葉を聞いて、なるほどと思いました。
─ 確かに、バスケットに詳しくない人も、勝ち負け以外で試合を語れる視点ができますね。
渡辺: そうなんです。“今日確かにヴェルカの選手頑張ってたよね”とか、“速いバスケはできてたけど勝てんかったよね“みたいな会話になるから、それもひとつのエンターテイメントになりえるよねと。

写真:2階席から会場を眺める伊藤拓摩氏/提供:長崎ヴェルカ
─ 今後のクラブの目標を教えてください。
渡辺: 私たちは、エンターテインメントを通して地域創生を実現したいと思っています。ヴェルカのバスケットから、どうやってワクワクを広げていけるかという視点を大切にしながら、みんなでチャレンジしていきたいと思います。
─ 渡辺さん個人の目標はなんですか。
渡辺: 壮大すぎてまだ一桁くらいの達成度ですが、私の目標は、バスケットボール事業をもっと大きく成長させて、いずれ日本代表がアメリカ代表に勝つ世界を創ることです。
─ ありがとうございました。なぜか私も励まされました。“HAS IT!”にやっていきましょう。

写真:長崎ヴェルカ アシスタントGM渡辺怜氏/提供:長崎ヴェルカ
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