
いま、Bリーグは、選手だけでなく、事業や経営サイドにも注目が集まる。
2026-27シーズンから始まる新体制“B.革新”では、競技成績だけでなく、クラブの売上や地域との関係性、経営の健全性といった“総合力”が、リーグ所属カテゴリを決める重要な評価軸となるからだ。
アリーナ環境、観客動員、財務基盤など、クラブの価値は「勝敗」だけでは測れない時代に入っている。
難しい舵取りを迫られるなかで、B1チームのフロントはどんな仕事をしているのだろうか。
親会社にジャパネットホールディングスを持ち、2021–22シーズンにB3参入後、B2、B1にストレート昇格という史上初の歴史的快挙を果たし注目を集める長崎ヴェルカ。そこで“アシスタントGM”という、少し変わった役職で働く27歳、渡辺怜さんに話を聞いた。
GMと事業は相反する立場
── 渡辺さんが務める「アシスタントGM」とは、どんな仕事なのでしょうか。
渡辺:一言でいうと、“社長兼GMの伊藤拓摩のサポート”です。
GM業側で言えば、例えば選手と契約した後の手続き、エージェントとのやりとり、引っ越しの手配などもやります。事業面では、いろんなミーティングに出させてもらいながら、実際に手をいろいろ動かして企画するというよりは、クラブを運営・経営していくうえで、どういう観点で意思決定しているのか、伊藤の下で学んで吸収させてもらっています。

写真:長崎ヴェルカ社長兼GMの伊藤拓摩氏/提供:長崎ヴェルカ
── GM(ゼネラルマネージャー)と事業サイドは、簡単に説明するとどういう違いですか。
渡辺:ざっくり言えば、事業部はお金を稼ぐ側、GMはお金を使う側です。
GMは強いチームを作るうえで良い選手を獲ってこなければいけないし、良いコーチ、良い施設も必要なので、チーム編成を行うための予算を付けてくれという立場ですね。事業側は、事業計画の中で収入の見込みを立てつつ、社長やオーナーとその可否を会話します。
長崎ヴェルカでは、ある意味でその相反する立場を、伊藤が社長兼GMとしてバランス感覚を持ってやっているので、そこも学ばせてもらっています。
── 渡辺さんは、いまの“アシスタントGM”の仕事はいつからされてるんですか。
渡辺:2023年からなので2年目ですね。それまでは2年間、同じB1西地区に所属する大阪エヴェッサでチームマネージャーをしていましたが、長崎ヴェルカの社長兼GMの伊藤に声をかけてもらって、いまの仕事をしています。
学生時代、アメリカのウェストバージニア大学でスポーツマネジメントを学んでいたので、事業サイドをやりたいと学生時代からずっと思っていましたね。
「選手の生態を知っている」強み
── バスケットの選手経験もあるんですか?
渡辺:はい。國學院大學久我山高等学校を卒業後、米国ショアラインコミュニティカレッジで2年間選手をしました。その後、ウェストバージニア大学に編入して、チームのマネージャーを務めながら、スポーツマネジメントを学びました。
── アメリカの大学バスケは、日本のプロ顔負けの規模の運営だと聞きますね。
渡辺:専用チャーター機で試合会場に移動していました(笑)。選手13人にマネージャーも13人いましたね(笑)。
──すごい(笑)。そのチームのマネージャー経験は、現在のアシスタントGMの仕事にも生きていますか?
渡辺:そうですね。選手の生態を知っているというのは、自分の強みになりうるとは思います。
やっぱり選手が商品なので、この商品をどうブランディングしてどう見せていくかという点、現場の感覚とか熱量は、バスケット経験がなかったり、事業側だけにしかいなかったりすると見えづらい部分もあるのかもしれません。
── 事業サイドには、選手経験がある人は少ないですか?
渡辺:バスケット経験者はいますが、プロに近いチームでマネージャーをやっていた人は長崎にはまだいませんし、他のチームにも少ないですね。
離島の子どもたちに様々な体験機会を
── 社長兼GMの伊藤さんに学びつつ、具体的に、渡辺さん自身が手掛けている活動はあるんですか。
渡辺:自分が伊藤に提案して始めた“VELCARES(ヴェルケアーズ)”という地域貢献活動です。
── どんな活動なんでしょう。
渡辺:去年から始めた取り組みでは”B-RAVE ONE”というプロジェクトでは、離島の中学生を長崎市に招待し、長崎ヴェルカが試合をする会場(ハピネスアリーナ)で試合をしてもらうという企画を実施しました。
本土に比べて離島の子どもたちは、エンターテイメントも職業のロールモデルも少ないなど、経験の数が少ないという課題を島の先生や企業の方に聞き、地元のプロチームとして何か役に立てないかと思いました。
試合をしてもらうことと、長崎ヴェルカのホームゲームを観てもらうこと以外にも、去年はスタジアムシティの建設中だったので建設現場を見てもらったり、選手たちや社長兼GMの伊藤拓摩と交流してもらったり、子どもたちの試合では、アリーナDJとして音楽を流す仕事をお願いしてみたりもしました。
離島の子どもたちに多くのことを体験してもらうことも、テーマにしていたので。
── どのくらいの頻度で実施されているんですか。
渡辺:来てもらうのはシーズン中に1回なんですが、事前にクリニックに行ったり、通年で島の何らかの繋がりを持てるようにはしています。
── 地域の課題に沿った、とても意義のある活動ですよね。その活動を追ったYouTube動画も質が高くて驚きました。
渡辺:そうですね。これまで2回実施したんですが、今後も持続可能なプロジェクトにしていくためにも、1回目の様子を質の高い動画にして公開することで、みなさんがイメージできるようにしておきたかったんです。
── アシスタントGMですが、しっかり事業も担当してますね。
渡辺: 自分は事業側、ビジネス側に興味があるので、現場を知っているという強みを活かしながらも事業に携われるのはありがたく、自分のキャリアにとっても大きなプラスになりうるかなとは思います。
── GMは勝つため、事業サイドは経営のためだと考えると、“アシスタントGM”の渡辺さんの多様な仕事は、どこで評価されるんでしょうか。
渡辺: 難しい質問ですね(笑)。手探りではありますが、上司である社長兼GMの伊藤と日々会話の中で、私からいろんな提案をしていますが、“そういうことをやってほしいわけじゃない”と言われたことはないので、方向性は合ってるんだと思っています(笑)。
個人的には、チームの勝利によって自分が評価されるというよりは、事業側でどれだけ貢献できるかを期待されている割合が大きいなと思っています。

写真:ホームゲーム前のリハーサルに立ち会う渡辺怜さん/提供:長崎ヴェルカ
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