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虫賀姉妹が全豪OPジュニア複8強。プレースタイルを模索する愛央とコロナ後遺症に苦しむ心央「ちゃんと最後負けて終われた」<SMASH>

虫賀心央(むしかみお/妹・左)と愛央(まお/姉・右)の双子。全豪オープンの会場で。写真:内田暁
「負けたのが悔しくて、泣きすぎて過呼吸になったんです」と姉の愛央が振り返る日から、4年半の年月が経った。

 小学生の頂点を決する、全国小学生テニス選手権の決勝戦。優勝したのは、準優勝者と同じ苗字で、同じ歳の心央。“最強の双子”と呼ばれた虫賀姉妹の姿は、今年1月、そろって全豪オープン会場のメルボルンパークにあった。

 二人にとって今大会は、初めて出場するグランドスラムジュニアである。洋の東西を問わず、多くのジュニアは初めて夢見る会場を訪れると、良くも悪くも、いつもと異なる心持になりがちだ。

 ところが二人は、「あんまり」(心央)、「他のITF大会でも対戦したり会う子ばかりだから」(愛央)と、どこまでも平常心。アメリカのフロリダ州を拠点に活動して、はや3年。二人にとって国際大会を戦うことは、とりたてて珍しいことでもなかった。

 5歳で揃ってテニスを始めた二人は、「テニスにかかわらず、世界を知るのは良いこと」という父親の教育方針もあり、幼い頃から海外志向が強かったようだ。盛田正明テニスファンドの存在を知ったのは、小学5年生の時。「全国大会でベスト4以上」という応募資格を知り、姉妹でその地位を目指した。

 日比野菜緒も輩出した木曽川ローンテニスクラブ出身の二人は、世界へ羽ばたく先輩の姿を隣のコートで見ながら、切磋琢磨してきたという。

「木曽川では、ずーっと同じグループで、いっつも二人で練習していた」。そう声を重ねる姉妹だが、プレースタイルや性格は正反対。
  姉の愛央は右腕の強打を武器とし、妹の心央は、多彩なショットと戦略性が持ち味。ややのんびり屋の姉に対し、妹は自他ともに認める「勝ち気」。

 そんな二人の共通点は、満場一致で「負けず嫌い」。並走するように強くなったため、「ピリピリしたり、気を使ったりすることもなかった」と、姉妹はハモるように笑った。

 渡米後は、「喧嘩ばかりしているからと、グループを分けられた」と苦笑いする二人だが、歩幅は同調していた。だが昨年、妹の心央をアクシデントが襲う。

「6月のチュニジアの$1,5000大会でコロナに罹って、そこからずっと後遺症で体調が悪かったんです。筋力も落ちたし、倦怠感と眩暈がひどくて。一応大会には出ていたんですが、全然ダメで……」

 コロナの後遺症の苦しみは、真の原因が判然とせず、いつ治るかも分からない未来の不透明さにある。他者には理解されにくいことも、孤独感に拍車をかけただろう。心央の場合、病院であらゆる検査を受けたが、「数値はどれも正常だった」。それでも大会に行けば体調を崩し、意識を失い倒れたことも幾度もあったという。
  体力への不安は、ラリーの組み立てを得意とする、彼女のテニススタイルにも影響を及ぼした。精神的に、粘れない。本来ならショートクロスなどを使って相手を崩したい場面でも、一本で決めにいく。

「今ちょっと、迷いの中で……ねっ?」勝ち気だという妹が、不安そうに姉に同意を求めた。

 一方の姉の方も、今回グランドスラムジュニアという高みに来て、改めて感じたことがあったという。

「普通のITFジュニア大会でも、背が高かったりパワーがある子はいる。ただここに来て感じたのが、みんなフットワークが良い。ボールを取れる子が多い」

 結局は、そういう子が残っている。だからこそ、打つだけではこの先は勝ち残れない……姉は姉で、自分の立ち位置を認識した上で、プレースタイルを模索しているようだった。

 姉は、持ち味の攻める姿勢に加え、ポイントの組み立ての大切さを知り始めた。妹は、自信を持つテクニック以外にも、決めきるパワーを欲している。

 日本を離れ、互いに種々の経験を重ねる中で、「最近、プレーが似てきたよね」と二人は視線を交わしながら笑った。
  虫賀姉妹のグランドスラムデビュー戦は、シングルスは両者とも初戦敗退、ダブルスはベスト8という結果となった。

 それ以上に妹の心央にとって大きいのは、予選を勝ち上がり本戦に出られたこと。そしてダブルスも含め、棄権することなく、最後まで戦い抜けたことだ。

「久しぶりに、ちゃんと最後負けて終われた。そういう意味では良い経験でした。大好きな(アシュリー・)バーティーの試合や練習も見られたし、良い一年のスタートです」。敗戦直後は険しかった心央の表情が、最後は柔らかくなっていた。

 コロナ後遺症のためジュニアランキングが下がった心央は、今後は一般のITFサーキットに絞り回っていくつもりだという。一方の姉の愛央は、ジュニアランキングも上げつつ、プロの大会も混ぜていくプランだ。

 これまで二人三脚だった二人の道は、しばし分かれることになる。それでも、プレースタイルが徐々に似通っていきたように、目指す高みが同じ限り、いずれ足跡は重なるはずだ。

現地取材・文●内田暁

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