
望月慎太郎が17歳でツアー本戦出場を果たした舞台裏。常に上のレベルの大会出場を狙え【山中夏雄コーチ】<SMASH>
錦織圭のアメリカ留学をサポートした盛田正明テニスファンド(MMTF)のコーチとして、アメリカのIMGアカデミーに常駐し、日本のジュニアたちの成長を支えている山中夏雄氏。このコラムでは日本のトッププロたちが、いかにして成長してきたのか、日米テニス界の違いなどを教えてもらう。今回は望月慎太郎がプロ転向時に300位台にまで世界ランキングを上げることができた、大会出場の考え方について。
———◆———◆———
ジュニアの頃から積極的に一般の大会に出るようにしていました。(望月)慎太郎が、初めてフューチャーズに出たのは15歳の時です。1回戦負けでしたが、15、16歳でまずはフューチャーズに出ておくことが大事です。
簡単には勝たせてくれないので、課題を持ち帰って練習することになります。フューチャーズは賞金も低く、ホテルも良くはありません。そういうことを経験し、早くこのレベルから抜けたいと本人が思うようにもなります。
16歳の内にチャレンジャーにも出場し、さらに上のレベルの選手と対戦しました。この時、「意外に自分もできるぞ」という感覚も生まれます。普段の練習から、このレベルの選手と打てる機会があれば、練習と試合がリンクして、「できる」という感触をつかめます。そして、チャレンジャーの方が高待遇なので、よりこの舞台でプレーしたいとも思うわけです。
17歳の時にはATPツアー250のシンガポール大会の本戦にワイルドカードで出場しました。この時のランキングは639位。なぜツアーに出ることができたのか、舞台裏をお話します。
数週間前からエジプトのフューチャーズに出場していましたが、シンガポール大会の予選にもエントリーしていました。コロナ禍ということもあり、ウィズドローが多かったので、出場の可能性があるかもという期待を抱いていました。
明日エジプトを出発しなければシンガポールの予選サインインに間に合わないという日、フューチャーズ1回戦に負けたため、急いで荷造りをしてその日の夜に空港に向かいました。この時はまだ、予選のドローには入れていません。しかし、可能性に賭けて行くことにしたのです。
シンガポールの空港に着いた時は、予選2番アウトで、PCR検査を受けてホテルで待っていた時にとうとう予選に入れました。明日が試合というハードスケジュールでしたが、プロになればよくあることなのでこれも経験です。
そうしていると、大会側が本戦ワイルドカードを出してくれるという連絡が来ました。ウインブルドンジュニア優勝という成績もあったと思いますが、ここまできた行動力も加味されたと思います。
本戦では302位の相手に1回戦で負けました。ここまで行動したのに負けたことに加えて、IMGアカデミーで一緒に練習している選手が勝ち星を挙げたこともあり、この敗北をすごく悔しがっていました。この経験が、約1か月後のATPマスターズのマイアミ大会予選突破の原動力になったと思います。選手の成長とは、この繰り返しなのでしょう。
慎太郎の経験から皆さんに伝えたいことは、少しでも早く上のレベルの大会を経験した方がいいということです。負けたとしても、そのレベルで勝つ方法を作り上げていく方がテニスのレベルは上がります。
私は慎太郎のランキングが1000位を切った時ぐらいから、フューチャーズとチャレンジャーの両方にエントリーして、常にチャレンジャー予選に出場できるチャンスをうかがっていました。ランキング的にははるか上のツアー予選のエントリーも加えていたわけです。それほど、上のレベルで戦う経験は選手を成長させてくれます。
シンガポールに出場後は、慎太郎も「チャンスがあればツアーにも行くぞ」という考え方に切り替わっていました。17歳でツアーに出場できたことが、技術面だけでなく気持ちの面でも飛躍する切っ掛けになったのです。
フューチャーズやチャレンジャー、更にはATPツアーも日本で開催されているので、若い選手に出場の機会が与えられると成長につながると思います。
文●山中夏雄(盛田正明テニスファンド・IMGアカデミー常駐コーチ)
Follow @ssn_supersports