
卓球指導者のほとんどは、戦績はどうあれ、学生時代に卓球に打ち込んだ経験を持っている。
その選手としての充実の時期がなければ、どうしてその後、卓球指導の道に進もうと思うだろう。
福島県本宮市に、なんと28歳から卓球を始めて現在、小・中学生を教えるクラブの指導を務める男がいる。
原拓也さん、現在42歳。
現在、原さんが指導するそのクラブは、2025年の福島県クラブ選手権(小・中学生の部)で優勝、そして4月の全農杯全日本ホカバ福島県予選でも、ホープス男子でクラブ生が優勝するなど、有望な選手を輩出している。
話を聞いた。
写真:原拓也さん(本宮卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部
息子が卓球始めたのがきっかけ
私自身は中高はハンドボールをやっていて、当時は正直、卓球をやろうとは思いませんでしたが(笑)。
ただ、近くに卓球がずっとあったので、息子が始めたときに、ちょっとラケット借りてやってみようと思ったんです。
父が、私の息子とちょっとラリーするとき、私が息子の後ろに並んで父が驚いていました(笑)。
「球出しを練習してくれ」
確かに、球出しは打つのとは別の技術ですから。
写真:多球練習の様子/撮影:ラリーズ編集部
もうご高齢なので、コロナ禍で外に出るのが難しくなり、5年ほど前から、代表を私がやることになったという流れです。
技術面のアドバイスが言えなかった
いろんな動画を見て、いろんな人の考えを聞いて勉強しました。父親に教わったり、長男にも“これ、どういうこと?”と聞いてみたり。今でこそ少しはわかってきたつもりですが。
本宮卓球クラブのコーチたちに、初心者だからとないがしろにする方がいなくて、“なんで、ラケットに当てたら横に飛んでいくのか”みたいな私の質問にも“こういう回転が、こうやってラバーに食い込んで、こう反発するからこっちに飛ぶ”と、丁寧に教えてくれました。
子どもたちから“わかりやすい”と言われたときは、単純に嬉しいですね。僕が子どもたちの会話の中で気づかされる部分もあるんですけど(笑)。
写真:練習を見守る原拓也さん(本宮卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部
“中間管理職”のように
もちろん基本的なところは指示するんですけど、うちのクラブにはコーチ陣がいるので、任せるところは任せて、私一人だけの考えにならないようにしています。
写真:コーチを務める原さんの父/撮影:ラリーズ編集部
写真:原拓也さん(本宮卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部
全農杯全日本ホカバ福島県予選会振り返り
写真:ホープス男子1位 小澤佑眞(本宮卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部
普段あまり自分を表現しない選手なんですけど、今回は6年生で最後というところもあって、すごく元気を出して自分を出して、全日本に通ってくれたのが嬉しかったですね。
うちは、男子が多い年と女子が多い年が昔からあって、女子が少ない頃にコロナ禍になり、そのまま女子が増えずに来てしまった感じです。
写真:鈴木愛(本宮卓球クラブ)/撮影:ラリーズ編集部
教える人はいるんですが、子どもがいない。
本宮市の中で“本気のクラブだから練習が大変”という評判もあるので、敷居を低くするために頭を悩ませているところですね。
いまいる小学生をないがしろにもしたくないですから。
写真:試合後にグータッチ/撮影:ラリーズ編集部
平日は仙台で働く
ところで、原さんは専業指導者なんですか。
3年前から職場が仙台になったので、いまは平日は仙台にいて、金曜夜に車で1時間半かけて、この本宮市にやってきて指導をしています。
副賞「天のつぶ」に込めた思い
本宮卓球クラブは、自前の卓球場を持っていない。
公民館で練習した後、全農杯全日本ホカバの副賞で贈られた福島県産米“天のつぶ”おにぎりを保護者たちが作ってくれて、クラブ生、コーチ、保護者たちが囲んで食べるひとときがあった。
写真:福島県産米「天のつぶ」おにぎり/撮影:ラリーズ編集部
写真:おにぎりを頬張る子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
1位と2位の選手に副賞として贈られた福島県産米「天のつぶ」は、粒がしっかりしていて食べごたえがあり、香りが立つことが特徴で、米どころ福島県を代表する県産米のひとつだ。
写真:福島県産米「天のつぶ」/提供:JA全農福島
「栽培時に倒れにくい品種なんです。雨風に負けずまっすぐ穂を天に伸ばす“天のつぶ”のように、卓球を頑張る子どもたちにも成長してほしいという願いも込めました」と、JA全農福島の担当者は力を込める。
写真:とても楽しそう/撮影:ラリーズ編集部
炊きたての美味しいおにぎりを頬張る子どもたちに混じって、原さんは控えめに笑っていた。
どんな経験者も、最初の日は素人だ。
わかりきった事実が、収穫期の美しい穂のように素朴に揺れている。
そのまま、まっすぐ天に伸びてほしい、子どもも、大人も。
写真:手を振る本宮卓球クラブの子どもたち/撮影:ラリーズ編集部
写真:チームの旗に書かれた「この一球!」の文字/撮影:ラリーズ編集部
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取材・文:槌谷昭人
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