「後ろを向くな」亡き夫に背中を押されて<全農杯2023年全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部 広島県予選会>
SHIKISAI(シキサイ)という、選手が小学6年生女子3人だけの小さなチームがあった。
2023年5月に行われた、全農杯全日本ホカバ広島予選会の話だ。
この3人が卒業したらクラブはどうするんだろうというのが、まず浮かんだ疑問だった。
通常、全国大会を目指すような強豪ジュニアクラブは、途切れなく各世代が在籍しているものだ。
「また誰かがここに入りたいと声をかけてくれれば続けるし、誰もいなかったらSHIKISAIは終了かな」柔らかな表情で笑うのは肖(旧姓:阿部)香津美さんだ。
「私には自前で教える卓球場もないし、やりましょうって人を集める力もないので、時の流れに任せます。いまの3人には、中学以降は自分が目指したいところに迷わず行きなさい、任せますと伝えています」。
写真:肖香津美(SHIKISAI)/撮影:ラリーズ編集部
香津美さん、と名前で表記することを許してほしい。
“肖さん”と呼ぶと、亡くなった香津美さんの夫が浮かぶからだ。
中国電力コーチだった夫・肖健成
2020年11月29日、肖(旧姓:阿部)香津美さんの夫、肖健成さんは8年6ヶ月のがん闘病生活の末に、上咽頭がんでこの世を去った。
2001年に来日してから約20年間、中国電力卓球部のコーチを務めた名指導者だった。
写真:肖健成コーチ(写真中央)/撮影:千島寛
現在の中国電力卓球部主将の成本綾海は、肖さんが亡くなった日のことを覚えている。
「亡くなった日の朝、ご自宅に向かうときすごく天気が悪かったんですけど、弔問を終えてご自宅を出たとき、すごく晴れていました。私たちはその後(日本リーグJTTL)ファイナル4に向かう予定だったので、肖さんが元気くれたのかなあと」
写真:成本綾海(中国電力)/撮影:ラリーズ編集部
成本は今もラケットケースに、そのとき肩につけて戦った喪章を大切にしまっている。「あのとき、みんな絶対勝つんだって力が入りすぎて、決勝で負けてしまったんですけど」
写真:中国名「肖力」と刻まれた喪章/撮影:ラリーズ編集部
「練習でうまく行かなかったときも、ダメなことは言わずに“いま、状態悪いだけだから大丈夫ですよ”と、落ち込まずに頑張ろうと思える声かけをしてくれました」
写真:肖健成コーチ(写真中央)/撮影:千島寛
「卓球を離れると本当にお茶目な人でした。練習後にハーゲンダッツアイスをめぐって部員とジャンケン大会して、肖さんは“自分が絶対勝つよ”って自信満々だったのに、結局全敗して落ち込んだり(笑)」
“泣くつもりなかったのに言葉にするとやっぱり込み上げますね”と、成本は涙をぬぐって笑った。
香津美さん妊娠中に肖さんの癌が発覚
中国四川省出身の肖健成さんは、13歳からジュニア中国代表に入り、19歳から中国協会の派遣でクウェート、カタール、バーレーンで計6年間選手・コーチ・監督生活を送った後、2001年2月に広島にやってきた。
いくつもの国を指導者として渡り歩いてきた情熱的な指導者・肖さんと、中国電力卓球部に入部したばかりの香津美さんは出会った。
写真:肖健成コーチ(写真中央)/撮影:千島寛
“国が違うと大変”という、香津美さんの両親の反対も押し切って結婚、二人の娘に恵まれた。
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