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「日本一安い卓球場料金で日本一を目指す」「怒られて嬉しい選手はいない」全日本チャンピオンを輩出した三重県・松生卓球道場の秘密

怒ることがほとんどなくなってから訪れた変化

――松生卓球道場の会員数って、今どれくらいいらっしゃるんですか。
松生瞬:一番多いのが、中学生から始めた子どもたちに向けた中学生コースで40人超、いろんな会員さんや教室も含めると、200人を越える方に来ていただいてます。
――よく回りますね。
松生瞬:うまく回ってるのかわかりませんが(笑)、困っている人がいないか周りに常に気は配りながら、とにかく走り回ってます(笑)。

松生卓球道場
写真:父・松生幸一館長もひたすらボール拾いを続けていた/撮影:ラリーズ編集部

「怒られて嬉しい選手はいない」

――初心者から全国トップを狙う子までがひとつの卓球場で楽しめる今の松生卓球道場は、地域型の卓球場にとって一つの理想であると思います。なにか方針はありますか。
松生瞬:怒られて嬉しい選手はいなくて。特に負けて悔しいのは選手のほうなんで、試合の結果で怒ることは、ほとんど無くなりました。

ただ、人としての行動については言います。例えば、自分が負けたとき、“勝ったで〜”と目の前で言われたらイヤじゃないか、とか。

父(松生幸一館長)がよく言っていた言葉に“スイングは個性、でいい。最低限のことができてたら、あとは気持ちがあれば上手になるから”って。

“笑顔で試合しておいで、試合を最高に楽しんでおいで”って僕自身が言えるようになってから、結果が出るようになってきた気がします。本当に最近ですけどね。

松尾瞬
写真:松生瞬(松生卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

――変化するきっかけがあったんですか。
松生瞬:朝から晩までここにいるようになって。週1回来てくれるお客さんが“畑で採れたから”って野菜を持ってきてくれたり、新商品をお店に置いたら、ほな私買ってくわって買ってくださったり、ケーキを子どもたちに差し入れに持ってきてくださったり。

こうやって回ってるんやなっていうことが身に沁みてわかってきたんです。

人に感謝できるようになってくると、全部がうまく回るようになりました。

ああ、僕はもっと早く気づけば良かったなという思いもあって、子どもたちには“周りの人への感謝の気持ちを持ちなさい”と常に言っていますね。

伯藤久庵
写真:取材中にも「伯藤久庵」のチーズケーキの差し入れが/撮影:ラリーズ編集部

――ところで、それまで長く会社員を続けながら、去年42歳で卓球場を継いだのはなぜなんでしょう。
松生瞬:父が体調を崩して、道場に来られなくなってしまって。

まずは、僕が会社にお願いして定時で上がらせてもらって、道場で教えるようにしました。23時くらいまで教えてから、そこから会社の仕事をするようになって3ヶ月くらい経つと、周囲から“痩せたね”と言われようになり、僕自身もちょっと疲れが溜まってきていて、これはマズいなと。

そこから嫁さんを説得して(笑)、卓球場を継ぐことにOKをもらった感じです。

――会社員を辞めることへの葛藤はなかったんですか。
松生瞬:いつかは継ごうと思っていましたから。それまでもずっと夜と土日は手伝ってきましたし。

ただ、会社員のままいれば、給料も上がってきてボーナスも楽しみになる年齢じゃないですか(笑)。“そもそも俺、給料あるんか”と思いつつ、決めました。

松尾瞬
写真:松生瞬(松生卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

――指導者としては、なにか変わりましたか。
松生瞬:そうですね。自分がサラリーマンコーチだから、という気持ちは、戸上や前出を育てているときもどこかにありました。

本当は帯同してあげたいのに、僕の仕事で帯同できないときも結構あって。

今は練習試合に行ったり来てもらったり、というのが頻繁にできるようになったことは、大きいかもしれないですね。

松生卓球道場
写真:松生卓球道場の練習風景/撮影:ラリーズ編集部

――今はどんなスケジュールですか。
松生瞬:朝は9時半からレッスンが始まって、夜11時くらいまでここにいます(笑)。

でも会社員の頃より、いい疲れなんです。手探りながら、どうやったらみんなに喜んでもらえて、助けてもらえて、自分が思った方向に突き進めるか、なので。

松尾瞬
写真:松生瞬(松生卓球道場)/撮影:ラリーズ編集部

安い料金設定の理由

――子ども教室、月謝3,000円ですか。料金、相当安いですよね。
松生瞬:田舎はこんなものだと思ってます。

これでも、去年7,8月から電気代があまりに高くなり、10月にちょっとだけ値上げをさせてもらったんです。これ以降絶対に値上げをしないためにどうしたら良いかと考え、津市内の企業さんを中心にスポンサーのお願いに回りました。

僕自身が前職で営業だったこともあるのか、快く応援していただける企業さんも見つかって、ありがたい限りです。

松生卓球道場
写真:松生卓球道場の料金表/撮影:ラリーズ編集部

――実績からすると、アスリートコースなどを作る方法もあると思いますが。
松生瞬:卓球を中学校から始めた子が強くなる機会を失っちゃうなと思うんです。僕はそこはまとめて見たいんです。
卓球好きな子やったら、みんなで助け合いながら頑張ったら、みんないい結果に繋がるって方向に持っていきたいんです。

なんかカッコいいこと言ってますね、実際はできてるかどうか(笑)。

ただ、本当に、みなさんに助けてもらってるだるだけなので、子どもたちには“結果で恩返ししよう、結果がダメでも喜んでもらえる試合をしよう”と言ってます。

松生悠飛(松生TTC)
写真:気持ちを込めて試合をする松生悠飛/撮影:ラリーズ編集部

地方でもできるんだ

――三重県の卓球、その地元への思いが強いですね。
松生瞬:全国の卓球場さんに比べても、まだまだです。三重県自体も、もっとレベルアップしていけると思っています。

ただ、「地元にいても強くなれるんだ」ということが証明したいという気持ちはありますね。松生卓球道場は、都会の有名クラブに負けずに、“日本一安く、日本一の選手が生まれる卓球場”を目指して(笑)。

松生卓球道場
写真:松生卓球道場/撮影:ラリーズ編集部

取材を終えて

「私も、こういうところに子どもを預けたいなと思いました」同行した卓球未経験のスタッフがポツリとつぶやくほど、そこはアットホームで雰囲気に包まれていた。

お昼も回ったので、前日の全農杯全日本ホカバ三重予選会で初優勝した水野宙・路歩兄弟に、卓球道場の食堂で、副賞の松阪牛カレーを同じく副賞の三重県産米「結びの神」のご飯で食べてもらった。

松生卓球道場
写真:三重予選会のカブ男子優勝の水野宙(写真左)、バンビ男子優勝の水野路歩(写真右)/撮影:ラリーズ編集部

「お肉が美味しい」「僕はおにぎりのほうが好き」

松生卓球道場
写真:ペロリと松阪牛カレーを完食する兄/撮影:ラリーズ編集部

松生卓球道場
写真:三重県産米「結びの神」で握ったおにぎりのほうが好きだった弟くん/撮影:ラリーズ編集部

「無理しなくていいぞ、残ったぶんは先生が食べるから(笑)」

優しく見守る松生瞬さんの表情を見ながら、卓球と同じく卓球場もまた、人間性を表す鏡なのだと実感した。

松生卓球道場
どうもありがとうございました、また全農杯全日本ホカバの会場で!

動画はこちら

取材・文:槌谷昭人(ラリーズ編集長)

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