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“レジェンド”水谷隼の武器 ナックルフリックのやり方|頭で勝つ!卓球戦術

卓球技術・コツ “レジェンド”水谷隼の武器 ナックルフリックのやり方|頭で勝つ!卓球戦術

2021.09.01 文:若槻軸足(卓球ライター)
卓球ライター若槻軸足がお届けする「頭で勝つ!卓球戦術」

多くの人が待ちわびていた東京五輪が閉幕した。日本代表は卓球競技で、混合ダブルスの金、女子シングルスの銅、そして男女団体でそれぞれ銀、銅と出場選手全員がメダルを獲得するという非常に素晴らしい結果となった。

その中でも日本中、いや世界に衝撃を与えたのが、混合ダブルスでの水谷隼・伊藤美誠ペアの金メダルだろう。

水谷・伊藤
写真:水谷隼(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)/提供:ITTF男子選手にも打ち負けない伊藤の両ハンド攻撃、それをお膳立てする水谷の台上技術、非常に息のあったコンビでひとつひとつの技術レベルには目を見張るものがあった。

中でも今回注目したいのが、水谷が随所で見せた「ナックルフリック」だ。時折見せるこのプレーに対して、相手選手はうまく処理できずかなりの確率で得点になっていた。今回はそんな彼の「ナックルフリック」について、私なりに解説したいと思う。

このページの目次

  • [5 若槻軸足が書いた記事はこちらから]()

ナックルフリックはなぜ得点になるのか

水谷隼(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)
写真:水谷隼(木下グループ)と伊藤美誠(スターツ)/提供:ITTF水谷選手の行っていたナックルフリック。通常のフリックであれば台上の短いボールに対して前進回転をかけて返すので、相手ラケットに当たりさえすればボールはネットを超えて返球されることが多い。しかしこのナックルフリックは文字通りナックル、つまり無回転のボールになるので、相手は通常通りのラケットの角度ではネットミスとなってしまう

加えて、水谷選手はこれを「飛びつき」という動作で行っていた。通常の足の使い方である「3歩動」というものは、反復横跳びのような形で2本の足が交差しない動き方になる。一方で「飛びつき」は2本の足を交差させるやり方で、より遠くのボールに素早く対応できる。

すなわち「フォア前への飛びつき」という動作になるのだが、この場合は基本的にクロスへのフリックを待つのが一般的である。卓球台にガバっと覆いかぶさるような格好でクロスへ強烈なフリックをする、北京五輪金メダリストの馬琳氏も得意としていたプレーだ。

体の使い方的にもクロスへ行くのが自然なのだが、そこをラケットを開いてストレート方向へ持っていくので、相手としては逆をつかれる格好となるのだ。ちなみに同じフォア前を飛びつく動作から、クロスへツッツキをするプレーもゲームの中で見せていた。それも数本見せておくことで、ストレートへのナックルフリックの効果がより高まるのだ。

逆をつかれた上にナックルのボールであるという2段構えの攻撃となり、相手としては非常に返球に困るいやらしいボールとなるのだ。

ナックルフリックのやり方

狙うべき場面

では実際に、レジェンド水谷のナックルフリックに挑戦してみよう。

水谷隼
写真:水谷隼(木下グループ)/提供:ITTFまず使い所を考えてみる。フォア前に来たボールに対してということだが、試合の中で多かった展開は2つだ。

ひとつは伊藤の巻き込み系のサービスに対して相手がフォア前へストップしたときだ。3球目攻撃という形でナックルフリックを繰り出している。そしてもうひとつが、相手選手の下回転系のサーブを伊藤がストップし、相手が水谷のフォア前へダブルストップをしたときだ。この場合は4球目でナックルフリックをしている。

この2つのパターンの共通点としては、「ブチギレのストップ」に対して行っているわけではないということだ。伊藤の巻き込み、つまり逆横回転サーブに対してのストップなので、そこまで下回転は強くないことが予想できる。

4球目のパターンのときも、伊藤は必ずバック面の表ソフトでストップをしているので、これまた強い下回転でダブルストップが来るとも考えにくい。

少なくとも試合を観る限りでは、相手は切るストップではなく合わせるストップだ。なので基本的には3球目あるいは4球目で、それほど強い下回転ではない、ナックル気味のストップに対して選択をするのが良さそうだ。

ラケットと足の使い方

ではいよいよ実際のやり方だ。3球目ないし4球目でフォア前にストップが来た。狙うべきポイントはバウンドの頂点だ。

もしバウンド直後をとらえられるのであれば、ダブルストップをした方が無難だ。頂点より打球点が遅れてしまったのであれば、フリックもストップも難しいので無難にツッツキを選択すべきだろう。頂点を捉えることができないのであれば、ナックルフリックという選択肢はなくなる。

そしてラケットの使い方だ。面を相手のバック方向へ開いて、ストップと同じラケット角度で、ボールに触ったあとに手首を返さずにそのままの角度で押し込むようにして打球する。

手首を使ったり、肘を曲げたりするとボールを擦ることになり前進回転がかかってしまう。押し込むようなイメージでボールを運んでやるのだ。ちなみに水谷選手はラケットを真横方向に振って、流し打ちに近い形で行っているが、その通りにやるのはおそらくかなり難しいと思われる。

なのでラケットのスイング方向としては、前方からやや斜め左方向へなでるような形がよいだろう。ちょうど時計の10時の方向あたりにラケットを動かし、面を開いて押し込むのだ。

そしてこのラケット使いを、飛びつきの動作でおこなう。フォア前に来ると判断したら、右足に体重を乗せて力をぐーっと溜めてから、床を蹴ってコートに覆いかぶさるようにし、左足の着地と同時に打球をする。

そして打球したあとに右足も着地する、というイメージだ。打ち終わりは台よりもかなりフォア側方向へ体があるので、おそらくクロスへ返球されたら返すのは難しいだろう。

ただこの技術は、戻りのことまで考えると打球が中途半端になるし、戻れないくらいまで台の深くまで覆いかぶさることで、相手にプレッシャーを与えて判断を遅らせるという効果もある。もう返ってきたときはしょうがないというくらいの気持ちで、思い切りよくやることが大切だ。

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