【卓球】カットマンの時代到来か ホープスV平塚を例に

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先月(7月)開かれた小学生の全国大会「全農杯全日本卓球選手権大会ホープス・カブ・バンビの部」(通称「ホカバ」)で、ホープスの部(5、6年生)で優勝を飾ったのは、カットマンの平塚健友(フェニックス卓球クラブ)だ。平塚は「カットマンになって勝てるようになった」と話す。攻撃型の選手と比べ少数派のカットマン。その魅力や苦労はどういうところにあるのか。カットマン経験のある取材者自身の経験も踏まえて考察したい。(取材・文/二株麻依)

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粘り強さが強み「カットマン」

平塚健友(フェニックス卓球クラブ)
写真:平塚健友(フェニックス卓球クラブ)

「カットマン」とは、守備型のプレースタイルの選手のこと。伊藤美誠や平野美宇のように台の近くで早い打点で攻撃的に打ち合うのではなく、基本的には台から距離をとって大きく動き回り、相手の攻撃ボールに対して上から下にラケットを振り下ろしながら回転をかけ、粘り強く返球する戦い方の選手のことを指す。リオ五輪金メダリストの丁寧(中国)を破った経験のある佐藤瞳や、佐藤とダブルスを組み世界選手権で銅メダルを獲得した橋本帆乃香もカットマンである。

カットマンのメリットと難しさ

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写真:Sergey Pakulin

カットマンへの道は、卓球をはじめたばかりの子どもたちや、中学に入って卓球を始めるという人が、自らの意思または指導者のすすめがあって選択することになる。他の選手とは全く違う練習メニューをこなさなくてはならないので、自動的になれるものではない。

カットマンになるメリットとしては、主に次の3つが挙げられる。
・競る場面で精神的に優位に試合を進められる。
(リスクある攻撃をわざわざ仕掛ける必要がないから)
・ダブルスで攻撃型の選手と組むのに相性がいい。
(ペア同士が物理的にぶつからない。攻撃・守備の役割分担が明確になる)
・チームに1人いると攻撃型の選手の練習台になり、チーム全体の攻撃スキルが上がる。

メリットは多く魅力的に見える。
だが、現実的に、カットマンになることを選択する選手はごく少数だ。

全日本ホカバ常連のチームの監督によると、「カットマンでここまで(全国大会)勝ち上がるのは、なかなか難しい」と話す。

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きつい練習をこなして強くなっていく

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カットマンが勝っていく難しさはこういうところにある。

①技術が完成するまでに時間がかかる(短期間で結果は出にくい)
私(取材者)自身が小学生でカットマンになった時、コーチからは「人の3倍は練習が必要」と言われた。カットマンは他の選手より動く範囲が広く、フットワークが生命線になる。フットワーク練習は相当な量をこなさなければならないし、下半身を中心としたトレーニングも必要。さらに、動きながら回転をうまく操り、相手を翻弄しミスを誘う戦略とセンスも必要だ。こうしたことから、一般的に攻撃型の選手と比べると、技術の完成までに時間がかかると言われている。

②教えられる指導者が限られてくる
カットマンを育てられる指導者は、多いとは言えない。上述の通り、カットマンには専用の練習メニューが必要であり、特に、細かい足の運び方や、ボールタッチなど感覚的な部分の指導は、経験者でないと教えにくいからだ。指導者自らがカットマン経験者というパターンが多いが、そもそもカットマン人口が少ない分、教えられる人も限られている印象だ。

③本人の性格が影響する
技術の習得に時間がかかるので気が短いと向いているとは言えない。また、長時間の試合に耐えられる精神力も必要だ。とにかく「我慢強さ」が求められる戦型なのだ。しかし、これについては、カットマンになってから後天的に身につくこともあるのではと個人的には思う。

本人も指導者も覚悟と根気が必要であり、指導者は見極めが重要となってくる。

ハマれば可能性無限大

平塚健友
写真:平塚陽一郎さん(写真左)と平塚健友選手(写真右)

今年の男子ホープスで優勝した平塚健友(フェニックス卓球クラブ)は、試合後のインタビューで「カットマンになって勝てるようになった」と話す。
平塚は3歳で卓球をはじめたが、最初の1年半の間は、県大会で全く勝てなかった。そんな平塚のことを、父でありコーチの陽一郎さんは”おっとりした性格”だと教えてくれた。おとなしく勝負強い方ではない。でも勝たせたい。そんな思いで、カットマンとして育てることにした。

5歳でカットマンとしてのスタートを切った平塚。陽一郎さんの見極めは正しかった。

平塚健友(フェニックス卓球クラブ)

メキメキと力をつけ、1年半後には大会で初勝利。
その後、5回の全日本ホカバ出場。
最後の年で日本一に輝いた。

決勝戦のベンチでは、優勝が決まった瞬間、陽一郎さんの涙ぐむ姿も見られた。
「粘り強く戦うスタイルが、息子の性格には合っていたのだと思う」と話してくれた。

カットマンはハマれば勝っていける。長い目で見れば、大きく伸びる可能性がある戦型とも言える。

(次のページへ続く) 「守るだけじゃ勝てない令和のカットマン」

守るだけじゃ勝てない令和のカットマン

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写真:平塚健友(フェニックス卓球クラブ)

カットマンの基本的なプレースタイルは、”守って勝つ”。だが、最近のカットマンは相手のミス待ちをするのではなく、はじめから攻撃的なプレーを仕掛ける場合も多い。カットマンが攻撃に出ると、相手は精神的に追い詰められる。試合の流れを引き寄せることができる。
平塚も現在は練習時間の7割を攻撃練習にあてているという。攻撃を組み合わせたプレーで変化をつけ、勝っていくスタイルが今の主流なのだ。

今回のホカバでは、ホープス優勝に輝いた平塚のほか、カブの部準優勝の岡田蒼空(OKATAKU)、妹の岡田希愛(OKATAKU)もカットマンだ。
今後も平塚に続くカットマン勢が卓球界を席巻することを期待したい。

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写真提供:Rallys