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ピッチで結果を出すために。選手目線で語られるアスリート×語学の重要性

ジェフ千葉やセレッソ大阪などで活躍した元Jリーガー・下村東美さんが語る”語学とスポーツ”の関連性。前編ではご自身の生い立ちや言語環境について語って頂きました。後編である今回は自身のプロ生活を振り返って頂き、そこで取った行動や、なぜアスリートにとって語学力を身につける必要性があるのか、などを語って頂きました。

ジェフ千葉在籍時は英語を頻繁に使っていた

英語だけでなくポルトガル語も学ぼうと思った理由の1つに、Jリーグにブラジル人選手が多いということが挙げられます。自分自身の引退後に役に立つかもと考えたことも理由ではありますが、ブラジル人とプレーする機会は間違いなくあるだろう、勉強して損になる事はないと感じたんです。

例えばサッカーにおいては、練習中や試合中によく指導者から、『声出せ!』という指示がとぶことがあります。これはいま僕が指導している小学生はもちろん、中学生や高校生でもあることで、プレー中に声を出したいと思っている選手はたくさんいると思いますし、自分でも声を出した方が良いというのはわかっているものの、具体的にどういった声を出していいのかがわからない人が多いかと思います。

「そこ寄せろ!」とか「右切れ、左切れ」などポジショニングやプレーの指示などを細かく伝えたいときに、自分の意図を端的に伝えることは慣れないととても難しいんです。ピッチ上では色々な局面が瞬時に変わっていきますからね。これに関しては日本語でも外国語でも同じだと思います。自分もだいぶ苦労しました。

1年目から2年目の途中ぐらいまではやっぱりその声がとっさに出てこない。監督からも「お前は全然しゃべれんなぁ」って言われましたね。僕はボランチやセンターバックとしてプレーしていたので、指示を味方に端的に伝えるというのが大事なポジションだったこともあるのですが、特に味方の外国人選手に対しては、端的に意図を伝える能力に加え、言語の部分も合わせて両方できないと、自分の指示を伝えられないなと思ったんです。そこはサッカー選手としてプレーの技術以外に求められる要素の一つですね。「言葉の技術」と言ってもいいかもしれません。それも、ポルトガル語を取得しようと思った理由です。

セレッソ大阪の時はブラジル人のブルーノ(・クアドロス)が後ろにいて日本語やポルトガル語で僕にいろいろと指示をくれて、僕からは左に入るゼ・カルロスや、横にいるファビーニョにポルトガル語で伝えるという環境でもありました。ブルーノは今でもそうですが、その頃から本当に勉強熱心で頼もしい人物でした。

自分自身のキャリアの終盤に、海外でプレーするという選択肢も模索しましたが、かないませんでした。一方12年間のプロ選手としてのキャリアの中でたくさんの外国人選手と出会い日本で活躍できるかどうか見てきましたが、来日して日本での生活やサッカーの面での適応するのは多くの場合大変だったように感じました。だからこそ、同じ仲間として、自分が間に入ることで、日本にやってきた選手たちがチームの中でより良い活躍をしてほしいという思いはありました。もちろん自分自身の勉強も兼ねているのですが、根本的にはそういう考えで積極的に話しかけて仲良くなろうと。そういう思いでコミュニケーションを取っていたつもりです。

最も英語を喋っていたときは2007年から2009年のジェフ千葉に在籍していた時期かもしれません。2007年にチームを率いていたアマル・オシム監督(ボスニア・ヘルツェゴビナ)は英語・クロアチア語・フランス語を操っていましたし、アレックス・ミラー監督はスコットランドの方だったのでもちろん英語でした。少々スコットランド訛りが強い英語だったので、聞き取るのには苦労しましたが(苦笑)。

選手も非常に多国籍で、イリアン・ストヤノフ(ブルガリア)、ネナド・ジョルジェビッチ(セルビア)、エディ・ボスナー(オーストラリア)、ミルコ・フルゴビッチ(クロアチア)、ミシェウ(ブラジル)、レイナウド(ブラジル)、ネット・バイアーノ(ブラジル)...。本当にたくさんの外国人選手やスタッフがいました。やはり外国人監督や外国人選手たちと直接コミュニケーションをとる機会を得られるというのは、語学の習得に非常に大きなことだったと思います。言葉を伝える時に、通訳を介すか介さないかの違いで、コミュニケーションの深さに大きく違いがでるように感じます。通訳の表現次第で細かいニュアンスが変わってしまうこともあるので、ダイレクトにキャッチボールができるという事は人と人とのつながりとしてとても重要なことだと思います。

監督からは練習中や試合中に、『こういうことをみんなに言ってくれ』と伝えられることもありました。

実際の現場では通訳を介すことにより、指示の理解に多少のギャップが生まれることも起こりうると思うんです。通訳からの言葉はもちろん大事ですが、その言葉によって何を1番伝えたがっているのか?とか、その言葉の裏で何を伝えようとしているのか、というところまで考えないと指導者と選手の間で狙いを共有できないと思います。

海外でプレーをしたかったら絶対、先に語学に取り組むべき

もし海外でプレーしたいという目標がある選手がいたら、絶対、事前に語学に取り組むべきだと思います。チャレンジするとなったときに実際に行けるかどうかは別としても、勉強していたことは決してマイナスになる事はありません。だからしっかりと準備すべきだと思うし、そこで海外へ行けなかったとしても、その後色々な局面で活かすことができます。引退してからも仕事の幅が広がるというのは十分に考えられます。

下村東美氏

僕自身の高校時代の話になりますが、僕は元日本代表の中田英寿さんに大きく影響されました。マレーシアのジョホールバルで日本代表がW杯への初出場を決めた時、高校2年生だった僕にとって、彼は日本代表のチームの中心選手で画面越しにいる遠い存在でした。でも冷静に考えてみると年齢は4つほどしか違わない。なのに彼はプロサッカー選手であり日本代表であり、W杯終了後にはセリエAへと渡りました。天と地の差ですよ(笑)。そして会見や取材の際に、彼がイタリア語を喋る姿を見たときはある意味プレーよりも衝撃的でした。テレビでその姿を見た時に「俺はこのままサッカーだけをしていたらダメだな」、そういう感覚になったのを覚えています。テレビを通してサッカーのプレーを注目して見ていたはずなのに、その感覚を持ってからは、「サッカーの事だけを考えるだけではいけない。他の面でももっと努力しないとダメだ…」という風に思うようになったんです。

英会話に真剣に通おうと決めたのも、この出来事が大きなきっかけになったと思います。

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