• HOME
  • 記事
  • サッカー
  • 「俺がやらなきゃ誰がやる」。鹿島アントラーズ・関川郁万が迎える真価の問われる1年

「俺がやらなきゃ誰がやる」。鹿島アントラーズ・関川郁万が迎える真価の問われる1年

レネ・ヴァイラー新監督を迎え新たな路線へと舵を切った鹿島アントラーズ。なかでも開幕から2試合連続でスタメン起用された関川郁万選手は、大きな注目を集めています。

空中戦と球際の強さに定評がある関川選手は、かつて鹿島のCBコンビとして活躍した昌子源選手や植田直通選手の系譜を継ぐ存在。サッカーライターの安藤隆人氏は、将来の日本代表CBに推します。

鹿島不動のCBとして期待される関川選手のプレースタイルやプロ入りまでのストーリーを安藤氏に綴っていただきました。

■クレジット
文・写真=安藤隆人

■目次

負けん気の強さと圧倒的なフィジカルが武器
昌子、植田の系譜を継ぐ
不動のCBになるために真価が問われる1年

負けん気の強さと圧倒的なフィジカルが武器

鹿島アントラーズの高卒4年目CB関川郁万(せきがわ・いくま)にとって、今シーズンは大事な1年になるだろう。2019年に流通経済大柏高から加入をした関川は、2年目にデビューを果たすとリーグ戦15試合に出場した。しかし、昨年は13試合の出場にとどまるなど納得の行く結果を出せていない。

プロ4年目となった今年、最終ラインの要としての存在感を発揮せんと彼のモチベーションは非常に高い。プレシーズンマッチのいばらきサッカーフェスティバルの水戸ホーリーホック戦でスタメン出場を果たした関川は、雨の中でも安定した重心移動を見せて、鋭い寄せとボール奪取力を発揮した。

さらに成長を感じたのはビルドアップの面で、スリッピーなピッチでも正確なボールコントロールと積極的な縦パスを見せた。相手に寄せられてもいなしながら、ボランチやFWに攻撃のスイッチとなるパスを送り込む姿は、落ち着きと視野の広さを感じさせるものだった。

個人的に、関川は将来の日本代表CBになりうる存在だと思っている。高校時代から、負けん気の強さと、圧倒的なフィジカルが魅力だった。空中戦や対人プレーに絶対の自信を持ち、フィジカル自慢のFWがいると聞けば、「自分の方が上だということを示さないといけない」と果敢に勝負を挑んだ。

印象に残っているのは、関川が高校2年生の時に対戦した、前橋育英のFW宮崎鴻とのバトルだ。1学年上の宮崎は、日本人の父とオーストラリア人の母を持ち、184cmの恵まれた体格と屈強なフィジカルを武器にしており、空中戦の強さは高校年代でもずば抜けていた。

そんな相手に対して関川は闘志を剥き出しにして、エアバトルを挑んだ。果敢に立ち向かう姿は、見ていて楽しかったことを覚えている。そして、この勝負のなかで関川は自分の『ある癖』に気づいた。

「僕は左足の踏み込みでジャンプをしていました。それだと自分より左側にいる相手に対して、競り合う時に体が伸びきってしまい強いヘディングができません。状況によって右足で踏み込まないといけないと感じ、紅白戦などで意識的に使うようにしました」

右足の踏み込みでのジャンプを習得していくうちに、ボールの軌道や相手の状況を見て、踏み込む足を使い分けられるようになった。さらに、両足を使った踏み込みができるようになったことで好影響が出てきたという。

「キックにも効果が出ていて、右足の軸がしっかりとできるようになったことで、左足のキックの威力や蹴るボールの種類が格段に増えました。体重がきちんと乗った状態で伸びるボールだったり、相手のボランチとCBの間に落とすボールだったりが蹴られるようになり、左足のシュートも迷わず打てるようになりました」

ライバルとの凌ぎのなかで自ら磨いていった長所は、彼のプレーの幅を一気に広げ、CBとしてのスケールを大きくさせていった。

昌子、植田の系譜を継ぐ

空中戦と球際に強いこだわりを持って日々の練習に取り組む関川。その姿は、高校時代の昌子源(現・ガンバ大阪)、植田直通と非常に通じるものがあった。

「同じ相手に2度負けるのは、自分の努力が足りないということ。僕は下手ですけど、負けっぱなしは絶対に嫌なので、そうならないように努力することが必要です」(昌子)。

「目の前の相手に空中戦や球際で、絶対に負けてはいけない。相手を潰すつもりで競り合っていますし、負けたら次は絶対に負けはないという気持ちでやっています」(植田)。

「競り合いで負けたら自分の存在意義がなくなる。同じ相手に何度もやられることは絶対にありえないですし、強い相手がいると闘争本能と負けず嫌いの気持ちに火がつくんです」(関川)。

これは3人が高校時代に口にしていたものだ。この言葉を聞いて、「3兄弟なのではないか?」と思うほど、言葉の強さ、そこに込められたパッションと意思までも非常に似ていた。関川も、鹿島への入団が決まる前から昌子や植田に似ている部分を薄々感じていたようで、高校2年生の時のインタビューで「テレビで見ていても『似ているな』と思っていて、気にして見ています」と口にしていた。

そんな関川にとって印象に残っている出来事がある。それは2018年のロシアW杯だ。当時、高校2年生だった彼は食い入るようにテレビを見ていた。

日本はグループステージを1勝1分1敗で終えて、2位で決勝トーナメントに進出。初戦でベルギーと対戦し、2-2で迎えた試合終了間際に高速カウンターから失点を喫した。その場面で最後まで食い下がったのが昌子だった。

「昌子選手は、日本が得たCKを決めて試合を終わらせる気持ちでゴール前まで上がっていたと思います。クルトワにキャッチをされてから、全力疾走で自陣のゴール前まで走って…。(GKを除いて)最後の1人になるまで追いかけ続けて、あと一歩が届かなかった。失点後に何度も地面を叩いて全身で悔しがる昌子選手の姿が頭に焼き付いていて、最後の最後まで諦めずに全力でプレーをした結果だからこそ、あそこまで悔しがれるのだと思います」

「僕も失点した後に悔しがることはありますが、あの昌子選手と比べると、ただ悔しがっているフリをしているに過ぎないなと。悔しがるに値する本気のプレーをしていない。昌子選手が見せた悔しがり方に、日の丸を背負うことがどれだけ意味があり、責任があることなのかを痛感させられました」

一方で植田はメンバー入りこそしたが、この大会で1秒も出場することができなかった。

「あの植田選手ですら出番をもらえない厳しい世界なのだと思いました」と2人からいろいろな意味で世界の厳しさを教えてもらった。

そして高校3年生になった翌年に鹿島入りを決めると、より2人に対する想いは強くなった。

「2人に共通するのが『メンタルの強さ』。プレッシャーをはね除けて、勝利への執着心を前面に出す。これが鹿島のCBが持たなければならないメンタリティなのかと思いました」

「2人のCBが世界に羽ばたいたということは『鹿島のCBになる選手はハイレベルで、世界に通用する』というイメージを持たれる。僕自身も『CBを育てるのは鹿島』だと思っています。1年目から遠慮をしていたらすぐに飲み込まれてしまう世界だと思うので、2人のように臆することなく自分をどんどん出していきたいです」

関連記事