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智将ペケルマンの教え子たちは貧困層を救う模範に?サビオラらアルゼンチンの“黄金世代”の今に迫る

ペケルマンの薫陶を受けたサビオラ(中心)、ダレッサンドロ(右)、マキシ(左)といった面々は、いまどこで何をしているのだろうか。(C)Getty Images
今年1月から、ハビエル・マスチェラーノ(37歳)が、U-20アルゼンチン代表監督として新しいキャリアをスタートさせた。

それまで指揮してきたフェルナンド・バティスタが、昨年11月末にベネズエラ代表監督になったホセ・ペケルマンのもとでアシスタント・コーチとなったために退任。その後任として、「へフェシート」(マスチェラーノの愛称で“小さなボス”の意)が抜擢された。

これをもってアルゼンチン代表は、2017月から指導を務めるU-15代表監督のディエゴ・プラセンテ(44歳)とU-17代表のパブロ・アイマール(42歳)、2018年からA代表監督を任されたリオネル・エスカローニ(43歳)、そして2020年からゼネラル・コーディネーターを務めるベルナルド・ロメオ(44歳)を含め、全ての指揮が「ペケルマン・ボーイズ」の手に託される形となった。

智将ペケルマンの教え子として、アルゼンチン・ユースに黄金期をもたらした彼らが、育成世代を含む代表チームの再建と強化に取り組むプロジェクトは非常に魅力的で、興味は尽きない。だが、マスチェラーノのU-20代表監督就任と同時に気づいたことがあった。この指導陣のなかには、2001年U-20ワールドカップ(W杯)の優勝メンバーが含まれていないのだ。

自国開催となったU-20W杯を制覇したあのチームは、まさに個性派集団。当時はそれを巧みにまとめ上げたペケルマンとそのスタッフたちの手腕が称えられた。それと同時に天賦のリーダーシップを持った選手が多く、指導者としての素質を兼ね備えた人材が揃っているとも評された。

ところが、実際のところ、本格的に指導者のキャリアを始めたのは、現時点ではレアンドロ・ロマニョーリ(40歳)のみなのだ。では、他のメンバーは今、いったい何をしているのだろうか。

今回は黄金世代と言われたメンバーから、現役時代に欧州のクラブでプレーし、A代表としてW杯にも出場した何名かの「今」を紹介したい。

まず、つい昨年まで現役として第一線でプレーを続けていた猛者たちをクローズアップする。マキシミリアーノ・ロドリゲス(41歳)、レオナルド・ポンシオ、ファブリシオ・コロッチーニ(ともに40歳)、そしてヘルマン・ルクス(39歳)だ。

4人とも欧州でのキャリアを終えてからアルゼンチンに戻り、持ち前の主導力からチームの中核となり、30代後半に突入してからも熟練したプレーで観るものを楽しませてくれた。派手さこそなかったものの、ピッチ内外で若い選手たちの手本となり、アルゼンチン国内のサッカーを支え、盛り上げてくれた真の大物だったように思う。
4人の引退をもって、当時のメンバーで今も現役としてプレーしているのはウィリー・カバジェロとアンドレス・ダレッサンドロ(ともに40歳)の2人だけとなった。

カバジェロは2020-2021シーズンをもってチェルシーを去り、昨年12月初旬にサウサンプトンと1か月間の契約を締結。その後に今シーズン終了までの残留が決まった。サウサンプトンではラルフ・ハーゼンヒュットル監督から信頼される存在となっており、本人も「自分の経験をチームのために活かしたい」と意気込んでいる。

一方、ダレッサンドロは2020年12月、それまで12年間所属したブラジルの強豪インテルナシオナルに別れを告げてからウルグアイの名門ナシオナルに移籍。昨年末に退団を発表した時はいよいよ引退かと思われたが、今年1月、なんとインテルナシオナルへの復帰が決定したのだ。

復帰戦ではFKからいきなりゴールを決め、サポーターを歓喜させ、チームメイトたちからも祝福された。ブラジルで愛されたアルゼンチン人選手は多いが、ダレッサンドロはその代表的な存在だ。

また、彼はインテルナシオナルのホームタウンであるポルト・アレグレの人々とのつながりが深く、機会があるごとにボランティア活動を行なっている。一昨年もコロナ禍で職を失った貧困層の人たちのために、食料品や日用品を集めて寄付するチャリティー運動や炊き出しをした。

インテルナシオナルとの契約は4か月間で、ちょうど41歳の誕生日を迎える4月に最愛のクラブで現役を引退するシナリオが出来上がっている。サポーターから溺愛されるキャプテンの引退は、さぞ感動的なものとなるに違いない。

そのダレッサンドロとリーベルプレートのジュニア時代から一緒にプレーし、2001年U-20W杯では得点王とMVPになった“エース”のハビエル・サビオラ(40歳)は、現在ヨーロッパ西部のアンドラ公国に居を構えている。

現役時代と全く変わらないフィジカルを維持するサビオラは、同国のフットサル2部に属するシデコFCエンカンプでプレー。昨年5月には得点王争いに絡みながら4度目となるリーグ優勝を果たした。

フットサル選手として活躍を続ける一方、ロマネラ夫人と慈善活動に力を入れるサビオラは、アルゼンチン北東部のパラナ市で貧民街に住む人々のためのサッカー場建設に資金面で協力。今年1月のオープニングイベントに駆けつけ、チャリティーマッチに参加して地元の人たちを喜ばせた。
そんなサビオラとともに2001年U-20W杯優勝の立役者となった前述のロマニョーリは、2018年に古巣サン・ロレンソで現役を引退した後、同クラブで強化部のマネージャーに就任。昨年6月に一度クラブを離れたが、不振のチームを立て直すプロジェクトに欠かせない存在として復帰。今年から同クラブのレセルバ(サテライトチーム)の監督を務めている。

ちなみに、ロマニョーリの後任としてサン・ロレンソのマネージャーを任されたのは同じく2001年優勝メンバーのマウロ・セット(39歳)で、かつてU-20代表でともに戦った2人による古巣再建が始まっている。

14年間イタリアでプレーした後、2018年に引退したニコラス・ブルディッソ(40歳)も、サッカー界で生きている。彼は引退の翌年にボカ・ジュニオルスでマネージャーに就任するも、クラブ幹部の交代によって1年弱で退任。現在はイタリアに拠点を戻し、フィオレンティーナで強化技術部長としての経験を積んでいる。
その他、生まれ故郷にサッカー施設を作ったマウロ・ロサレスや、貧しい子どもたちを対象としたサッカークリニックやトークイベントに参加するアレハンドロ・ドミンゲス(ともに40歳)のように、引退後の肩書きにこだわることなく、自分のできる範囲で社会のためになる行動を起こす者もいる。

前述のマキシとポンシオは、アマチュアとして地方リーグへの参戦が決定。地元では集客面での貢献も期待されている。年々貧困層が増えるアルゼンチンにおいて、大衆文化であるサッカーを通じて人々の生活を支援する働きは模範的と言っていい。

ペケルマンから得た学びを、それぞれが異なる形でサッカー界に還元し続ける2001年のカンペオンたち。もしかしたら近い将来、「ペケルマン・ボーイズによる代表再建プロジェクト」に加わるメンバーも出てくるかもしれない。

文●チヅル・デ・ガルシア text by Chizuru de GARCIA

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