松田陸の壁を越えられるか?セレッソ大阪の新たな右サイドバック・毎熊晟矢
地元・長崎でサイドバックとして開花
開幕戦の89分に、【3-4-2-1】の2シャドーの一角としてデビューを果たした。その後新型コロナウィルス感染症拡大の影響でリーグが中断すると、約4カ月ぶりの一戦となった第2節のギラヴァンツ北九州戦で毎熊は、なんと右ウィングバックでスタメン出場を飾った。
第3節のアビスパ福岡戦でチームは【4-2-3-1】に切り替えると、右サイドバックで2試合連続スタメン出場。以降は右サイドバックで固定されるようになった。
このコンバートを決断した手倉森誠監督の頭の中は想像できる。と言うのも、筆者も高校時代の舞熊のプレーを見て、サイドバックをやったら面白いのではないかと思っていたからだ。センターフォワードでプレーする彼を見ていて、スピードがある上にスペースの感知力、スペースと人を繋げる能力があり、しかもサイズがあるためサイドバックでも十分に順応できるのではないかと考え、実際に当時の取材ノートに記していた。
それでも大学までずっとFWとして歩んできたのだから、実現しないだろうと思っていた。まさかプロ入り直後に実現をしたことは驚きだった。実際に映像を見ると、まさに水を得た魚のように躍動している彼がいた。
サイドを激しくアップダウンするサイドバックではなく、エリアによってポジショニングを変化させ、かつそのポジションを巧みにつなぎ合わせながら、リズムメイクとチャンスメイク、フィニッシュワークをハイレベルでこなす。
特にビルドアップのポジショニングは絶妙で、アウトサイドレーンとインサイドレーンを巧みに行き来しながらボールに絡む。アタッキングサードに入るとこれまで隠していたFWの顔を前面に出し、ボックス内に潜り込んで決定的なラストパスや強烈なシュートを狙っていく。
一方の守備面では179cmの高さと空中戦の強さを生かして、クロス処理などで存在感を放つ。コンバート当初はポジショニングのミスやスライドのミスが散見された。しかし徐々にチーム戦術の理解度やサイドバックとしての知識を深めていくと、ボールの落下地点や相手のパスルートを読みながら、スペースを埋めるポジショニングを取るようになった。
おそらく彼の中で「自分がFWだったらこの動きをされたら嫌だな」という想像を働かせながら、守備のやり方をアジャストさせたのだろう。これまでの成長過程を全て右サイドバックというポジションに昇華させ、ハイスペックなサイドバックへと劇的な変貌を遂げた。
万能型サイドバックが松田陸の壁に挑む
天職を見つけた毎熊は、ルーキーイヤーでJ2リーグ36試合出場(スタメンは32試合)の3ゴール4アシスト。昨年は38試合出場(全てスタメン)の3ゴール10アシストをマークするなど出色の活躍で見事にJ1への切符を勝ち取った。
2022年シーズンは自身初のJ1の舞台。松田陸の壁は高いが、彼の身体能力とサッカーIQがあれば十分に主役になれる可能性はある。『多様性』に富んだ万能型右サイドバックの真価はここから発揮されるだろう。
■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)
1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。
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