松田陸の壁を越えられるか?セレッソ大阪の新たな右サイドバック・毎熊晟矢

2022シーズンのJリーグが、18日に行なわれる川崎フロンターレvsFC東京の“多摩川クラシコ”で幕を開けます。川崎の2クラブ目となるリーグ3連覇を阻むチームが現れるのか。ストップ・ザ・フロンターレが1つのポイントとなるでしょう。

また、新シーズンの楽しみの1つとして新戦力の台頭も挙げられます。今シーズンはどんな選手たちが活躍するのでしょうか?

サッカーライターの安藤隆人氏に、今シーズン期待する選手を紹介していただきました。今回は、V・ファーレン長崎からセレッソ大阪に加入した毎熊晟矢(まいくま・せいや)選手です。

■クレジット
文・写真=安藤隆人

■目次

新進気鋭のサイドバック
学生時代はムービングストライカー
地元・長崎でサイドバックとして開花
万能型サイドバックが松田陸の壁に挑む

新進気鋭のサイドバック

今季ブレイクが期待される選手は枚挙にいとまがない。なかでも、J2のV・ファーレン長崎からJ1のセレッソ大阪に完全移籍したDF毎熊晟矢(まいくま・せいや)には大きな期待を寄せている。

プロ入りから2年間を過ごした長崎で右サイドバックとして大ブレイクを果たし、新シーズンから初のJ1に挑戦する。

C大阪の右サイドバックと言えば、ずば抜けた身体能力と高いアップダウン能力を持つベテラン・松田陸がいる。2016年にFC東京からC大阪に移籍をすると、昨年までの6年間でJ1リーグ200試合に出場するなど、まさに不動の存在だ。

だが、今年で31歳となる松田とポジションを争う若き力の獲得は、チームにとって必要不可欠だった。そのなかで期待の星として白羽の矢が立ったのが毎熊だ。

身長は179cmと平均的なサイズだが、アジリティと縦へのスピードに絶対の自信を持っている。さらにビルドアップやチャンスメイク、フィニッシュワークなど幅広いプレーはC大阪において攻守の起爆剤となりうる存在だ。

なぜ彼がここまで多様なプレーができる選手になったのか──。それはベースとなるプレースタイルとポジション変遷によるものだった。

学生時代はムービングストライカー

東福岡時代の毎熊は攻撃のマルチロールだった。メインポジションは、ポストプレーと抜け出しを得意とするセンターフォワードだが、このポジションには184cmの高さとフィジカルの強さを誇った餅山大輝(昨年までヴェルスパ大分)がいた。

2年生まではBチームのセンターフォワードを任され、3年生になってAチームに昇格。すると、プレミアリーグEAST第2節で餅山が負傷をしたことで、第3節にスタメンのチャンスが巡ってきた。2ゴールを挙げて勝利に導くと、ここからレギュラーの座を掴み取り、夏のインターハイは全試合でスタメン出場。チームは優勝を成し遂げた。

しかしこの大会で毎熊はノーゴール。一方、餅山は全試合途中出場ながら3ゴールを挙げ、さらに1学年下の佐藤凌我(東京ヴェルディ)も頭角を現してきたことにより、毎熊は控えに回った。

それでも彼の能力は、筆者にとって非常に魅力的に映った。インターハイでは、ゴールという結果こそついてこなかったが、彼のアジリティとランニングの質の高さは凄まじかった。

【4-3-3】の1トップを務め、前線で自由に動き回る。しかもただ動いているわけではない。ボールの動きと味方との距離感を常に頭の中で計算しながら、近づいてショートパスを交換したり、離れて味方のスペースを作り出したり、1発で相手の背後を狙ったりと、人とスペースをつなぐ柔軟性の高いプレーをするムービングストライカーだった。

「動きながらプレーをすることが得意なんです。個でどんどん打開していくより、周りを上手く使いながらプレーすることが好きです」

インターハイでは前述の通り、ゴールという結果が残せず、最終的にはレギュラーを奪い返された。しかし「自分も餅山や先輩の木戸皓貴(現・モンテディオ山形)さんのようなポストプレーや前線でタメを作るプレーをしないとヒガシでFWとしてレギュラーを掴むのは難しいのではないかと思う時期もありました。でも、自分は自分のプレーをしないとその先を考えたときに厳しいと思う」と、毎熊は決して『自分』を捨てることをしなかった。

その意思が桃山学院大で開花する。フィニッシュ、ラストパス、中継のパスだけでなく、前線での体を張ったプレーも身につけるなど、何でもできる万能型ストライカーとしてチームの絶対的エースとなった。その活躍が認められ、出身地の長崎に加入した。

地元・長崎でサイドバックとして開花

開幕戦の89分に、【3-4-2-1】の2シャドーの一角としてデビューを果たした。その後新型コロナウィルス感染症拡大の影響でリーグが中断すると、約4カ月ぶりの一戦となった第2節のギラヴァンツ北九州戦で毎熊は、なんと右ウィングバックでスタメン出場を飾った。

第3節のアビスパ福岡戦でチームは【4-2-3-1】に切り替えると、右サイドバックで2試合連続スタメン出場。以降は右サイドバックで固定されるようになった。

このコンバートを決断した手倉森誠監督の頭の中は想像できる。と言うのも、筆者も高校時代の舞熊のプレーを見て、サイドバックをやったら面白いのではないかと思っていたからだ。センターフォワードでプレーする彼を見ていて、スピードがある上にスペースの感知力、スペースと人を繋げる能力があり、しかもサイズがあるためサイドバックでも十分に順応できるのではないかと考え、実際に当時の取材ノートに記していた。

それでも大学までずっとFWとして歩んできたのだから、実現しないだろうと思っていた。まさかプロ入り直後に実現をしたことは驚きだった。実際に映像を見ると、まさに水を得た魚のように躍動している彼がいた。

サイドを激しくアップダウンするサイドバックではなく、エリアによってポジショニングを変化させ、かつそのポジションを巧みにつなぎ合わせながら、リズムメイクとチャンスメイク、フィニッシュワークをハイレベルでこなす。

特にビルドアップのポジショニングは絶妙で、アウトサイドレーンとインサイドレーンを巧みに行き来しながらボールに絡む。アタッキングサードに入るとこれまで隠していたFWの顔を前面に出し、ボックス内に潜り込んで決定的なラストパスや強烈なシュートを狙っていく。

一方の守備面では179cmの高さと空中戦の強さを生かして、クロス処理などで存在感を放つ。コンバート当初はポジショニングのミスやスライドのミスが散見された。しかし徐々にチーム戦術の理解度やサイドバックとしての知識を深めていくと、ボールの落下地点や相手のパスルートを読みながら、スペースを埋めるポジショニングを取るようになった。

おそらく彼の中で「自分がFWだったらこの動きをされたら嫌だな」という想像を働かせながら、守備のやり方をアジャストさせたのだろう。これまでの成長過程を全て右サイドバックというポジションに昇華させ、ハイスペックなサイドバックへと劇的な変貌を遂げた。

万能型サイドバックが松田陸の壁に挑む

天職を見つけた毎熊は、ルーキーイヤーでJ2リーグ36試合出場(スタメンは32試合)の3ゴール4アシスト。昨年は38試合出場(全てスタメン)の3ゴール10アシストをマークするなど出色の活躍で見事にJ1への切符を勝ち取った。

2022年シーズンは自身初のJ1の舞台。松田陸の壁は高いが、彼の身体能力とサッカーIQがあれば十分に主役になれる可能性はある。『多様性』に富んだ万能型右サイドバックの真価はここから発揮されるだろう。

■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)

1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。

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