日本の活路は“必然の誘発”にあり?森保ジャパンの伸びしろと限界値

日本代表の11月シリーズは、ベトナム代表、オマーン代表にそれぞれアウェーで勝利。ワールドカップ本大会に向け、出場圏内となるグループ2位に浮上した。

その一方で、森保ジャパンに懐疑的な声は、常につきまとう。

「格下のベトナムになぜ1点しか取れないのか?」「デビュー戦で途中出場の三笘薫に救われただけじゃないか」「森保監督にこのまま続投させて大丈夫なのか?」

それら指摘の多くは、確証をもたないファンの戯言として流れてしまう。「勝負の神は細部に宿る」とは岡田武史前監督の言葉だが、我々は日本の“細部”をつぶさに捉えているだろうか。ピッチで起きた現象を見つめることで、必ず明らかになるものがある──。

これまで、Smart Sports News編集部に4本の論考を掲載してきた分析家・五百蔵容は、試合に現れた事象を“細部”まで分析することで、日本の現在地と今後を見据える。

「いい連戦でしたが、伸びしろがすごくあるという良さではなかった」

五百蔵氏は一言、そう総括した。ベトナム戦、オマーン戦で見えたものとはなにか。今回は、五百蔵氏へのインタビュー形式で真意に迫る。

■目次
最終予選を突破したとして、本戦は大丈夫なのか?
森保ジャパンは、得点が入らない構造のチーム
意図的に相手のカウンターを誘発させる仕組みがない
カウンター狙いのチーム=タレント依存しがち
森保監督が田中碧、遠藤航、柴崎岳を重用する理由
オマーン戦で三笘薫を投入した本当の理由
伊東純也が試合中1回しかなかったチャンスを決めた
日本はこのままバイタルへの侵入を許し続けるのか?
ハリルと森保は似てる?今のチームに伸びしろはない?

インタビュー:北健一郎
構成:本田好伸
写真:浦正弘

※記事内の表記
WB=ウイングバック
CB=センターバック
SB=サイドバック
SH=サイドハーフ
WG=ウイング

最終予選を突破したとして、本戦は大丈夫なのか?

──10月のオーストラリア戦はこれまでの4-2-3-1から4-3-3へシステム変更して結果を出したなかで、この先はどう戦うのかという状況で迎えた11月のアウェーシリーズ。ベトナム戦とオマーン戦はどういう位置付けの試合だったと感じていますか?

五百蔵容(以下、五百蔵) まず、ベトナム戦もオマーン戦も、チームの準備段階から試合にどのように落とし込んでいくかをうまく進められていたという全体的な印象です。

五輪代表もそうでしたが、森保一監督は、本番前の2日間は必ず非公開練習をしていると聞きます。どうやら、そこで戦術練習をしているようです。親善試合や最終予選ではないときは、戦術の落とし込みは緩めで、選手が判断する余地が大きいように見えますが、本番はそうではない。もう少し戦術を落とし込んで、選手が判断する余地を狭めたうえで運用を任せているように思えます。

選手に判断を任せる「委任戦術」についてはこれまでもお伝えしてきましたが、選手に全てを考えさせるというより、本番にあたる試合では、ある程度相手の弱点を落とし込んで、そこから選択させるやり方をしています。相手の分析もかなりしたうえで臨んでいます。そのことは、最終予選を戦ってきた過程で、十分に見てとれました。

敗北スタートとなった9月のオマーン戦は立ち上がりから良くありませんでした。オマーンの4-3-1-2への対応をどこまで精緻にやっていたか疑いたくなる内容でしたが、分析してみると、全体的には準備をして、選手に判断させながらも、しっかりと枠組みを作って臨んでいました。その後、最終予選を重ねるうちにルーティーンやリズムが出てきているということは、特に今回の連戦で感じたことです。

──今回は合流時にトラブルがあり、合わせる時間がありませんでした。

五百蔵 そのとおりですが、日本もオーストラリア戦で新しいシステムを試したばかり(4-3-3に変えていた)わりには、比較的準備ができていたと思います。ベトナムは2019年にアジアカップで戦ったときと形もゲームプランも同じでした。5バックで守って前線は残る形で、カウンターを返してくる。

3センターのプレー精度や組織力は前より良くなっていましたが、日本は攻略のポイントが絞れていて、いい感じで試合には入れていました。1点しか奪えなかったものの、相手のやり方を踏まえた準備をして、ゲームをにぎりながら戦えていました。オマーン戦も苦労はしましたが印象は同じで、しっかりとした準備のうえで戦えていたと思います。

こう話すと最終予選突破に向けて今のところ順調のように聞こえると思いますが、突破することと、本戦でどう戦うかはやはり別物です。相手を分析しながら準備して戦えたと感じた一方で、このままでは厳しいということも逆に、感じる戦いでした。

■W杯アジア最終予選|日本vsベトナム|ハイライト(引用:DAZN/2021年11月12日)
https://youtu.be/_g2L33Xd1sE



森保ジャパンは、得点が入らない構造のチーム

──「このままでは厳しい」という話に触れる前に試合を振り返りたいと思います。下位のベトナムを相手に、コンディションの難しさがありつつ1点しか取れなかった。最終予選を突破する意味では結果が出ましたが、1-0の要因はどこにありますか?

五百蔵 基本的に、今の代表はあまり点が入らないチームだということです。

──どういうことでしょうか?

五百蔵 シンプルに言うと、ショートカウンターのチームということです。森保ジャパンは、カウンター状況で仕留めきることが基本スタイルです。五輪代表もそうでしたから、森保監督の志向がそこにあると思います。一般的に考えられている、「自分たちで主体性をもってボールをにぎって、崩して得点を取ることを狙いながら、カウンターもうまく交えて得点を挙げていくサッカー」を、実はしていません。

比較的格下相手にグループワークで崩すことはできても、同格かそれ以上、それこそオマーンのような相手に対しては、「得点機=カウンター機会」をどう作るかにかかっている。その状況を得られる相手かどうか、準備と選手の判断が噛み合うかどうか次第になってきます。

──カウンターを基本にするスタイルだと、得点機会は減ってしまう?

五百蔵 後ほど細かくお話ししますが、カウンター機会を生み出す仕組みを作ることで解消できる側面はあるものの、今のところ、日本のやり方としては得点が入るだろうという機会が少ないチームと言えます。

もちろん、ベトナム戦はVARでオフサイドになったシーンで2-0にできていたら、相手はもう少し形を崩してきたと思うのでカウンター状況を作りやすくなったかもしれません。ただ、伊東純也の仕掛けもロングカウンターですし、1点目も、相手が5バックではなく3バックで上がってきたところでゴールキックを日本が奪い、質的優位(アシストをした左の南野拓実と右の伊東)を活かして3バックの脇を簡単に抜いたショートカウンターでした。

ベトナムの5バックを構成するWBとCBとボランチに対して前線からどうプレスをかけるか、3センターに対してどう数的優位を作るか、相手の2トップが残るところに対してどう監視するかはできていたので、ベトナムの好きなようにやらせないプランが準備されていて、ゲーム全体は日本が主導権をにぎれていました。

ただし、ベトナムは1点取られたくらいではあまり出てこないで、プランを変えずに事故を狙い続けてくるため、ゲーム展開は変わりませんでした。日本は対策もできていて、選手も試合中に明確な基準のなかで判断してゲームを支配できていたものの、カウンターで得点機を狙うので、ボコスカ点が入るような構造の試合ではなかったと言えます。

昔のイタリア代表は「1点取れば良し」みたいなプランでしたが、おそらく今の日本も基本はそうだと思います。ベトナム戦がまさにそういった試合でした。

そしてそれが、いろいろと問題含みだなと。

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