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【新時代サッカー育成対談】幸野健一×守山真悟|新時代サッカー育成対談「勝利は本当に大事なのか?」|後編

 

掲載協力・WHITE BOARD SPORTS


■登壇者

・幸野健一|プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
・守山真悟|関西地域委員兼大阪府実行委員長

■ファシリテーター

・北健一郎|サッカーライター/ホワイトボードスポーツ編集長


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一つの要素を取り出したトレーニングは動きが画一的になる

──「サッカーはサッカーでしかうまくならない」とよく話していますがこれはどこでそういった考えに至ったのでしょう。

幸野 ヨーロッパでサッカーに触れていればそれが当たり前です。でも日本に帰ってくると例えばリフティングをするだとか、ドリブル専門のスクールがあったりとか、サッカーの要素を一つ取り出してそれに特化してやるものはヨーロッパや南米にはありません。サッカーはサッカーでしかうまくならないし、それを一つだけ抜き出してやっても意味がない。サッカーの「認知・判断・実行」の「実行」の部分だけをやっても仕方ないわけで、そこに「認知」と「判断」が伴わないといけない。むしろ「認知」と「判断」のほうが先にあるので「実行」よりも大事とも言えるので「実行」だけを練習する意味がないとずっと思っています。

──この考え方に対して、守山さんはどう思われますか?

守山 仰るとおりだと思います。

幸野 借りてきた猫のように大人しい(笑)。

守山 サッカーはサッカーをすることでうまくなるというのは私たちもまさしくコンセプトにそこを挙げています。ただ幸野さんは若い頃から日本が見本にしている現場を肌で感じているから理解が早かったと思いますけど、私たちのような日本から出たことがないサッカー人というのは、ここで教えてもらってきたサッカーがルーツで、それ以外を知らないまま育ち、そのまま指導者になり、その知識で子どもたちに指導している。なので今幸野さんが仰った逆の現象が起き続けていると思います。その中でようやく、インターネットや「スカパー!」さんや「DAZN」さんで身近に世界のサッカーをリアルタイムで観られる環境が整ってきています。そこで指導者の中でもアンテナの高い人たちは「あ、違うな」とか「なんでこうなるんだろう」と強い興味を抱いた人たちがそこのゾーンに来ている。まさしくそんな感じで進化していると思います。

──15年ほど前の守山さんのインタビューにもありましたが、戦術的ピリオダイゼーションという言葉は当時からありましたか?

守山 ありませんでした。というか、あったかもしれないけれど知らなかったというのが正しいですね。15年くらい前からピリオダイゼーションの原型のようなものを普通にやっていたんです。私たちも自分で言った通り、技術を一つ取り出して、体力だったら走りの素走りとか、体力という要素だけを取り出してトレーニングしていたんですね。それでも日本国内での試合なので鍛えたもの勝ちみたいになるのである程度は勝てる。でも勝っていって上の方へ登ると今度はまた勝てなくなってしまい、勝っているようで実は負けているという現象が起きていました。その中で親しい指導者、先輩たちが「サッカーってそうじゃないんだよ」と本気で伝えてくれました。私たちの一番の強みはそもそもそういう環境が自分たちにあったことです。

──そういう環境とは?

守山 僕で言うと、スタッフと本音でぶつけ合える環境ですね。“自分たちPDCAサイクル”が毎日回っている感じです。毎日PDCAによる改善がずっと行われていて、その中で「これは教わってきたことだけど、違和感があるよね」とか「やられるシーンは毎回同じだよね」とか「伸びないって悩んでいるときの現象って一緒だよね」とか、こうやって改善してみたらどうだろうかといろいろな気づきを自分たちで持っていた。今思えば私たちの教わってきた監督や指導者はすごく遠いイメージで、質問もできないし、言ってるものは正しいものだと信じ込んでいたので、疑問も持たない。話をしてもうまいこと話さないと向き合ってくれなかった。

私は大学でそれがコンプレックスになって「サッカーって苦しいものだ」とか「日本式で鍛えたらその先にうまさがある」と信じ切っていました。でも自分がいざ指導者になってみると最初は正しいと思っていたものも「そうじゃないな」と思って改善を繰り返していくと、サッカーがうまくなって、チームがうまくなっていく。その中でポジションごとに配置されている子どもたちがキチンと特性が出てうまくなっていってチームが勝てるようになっていったというところです。

──最初はテクニックを磨くことを頑張っていたけれども、強豪クラブと戦って勝てなくて、次に何が必要かというところで「少し戦術的な要素を取り入れよう」とか、だんだんブラッシュアップしていったような形だったのでしょうか。

守山 その通りですね。一つの要素を取り出してトレーニングをすると、その動きそのものはうまくなるので、ゲームでそのシーンだけは勝てるようになる。わかりやすく言うと「ドリブルのテクニックがあるよね」と言ってるけど、そのテクニックがゴールに結びついていなかったりとか。同じことを叩き込むので動きが画一的になってしまう。いわゆる集団でボールを奪い合うときに同じルートになったり、同じ戦い方になるのでうまいチームに負けてしまう。

──このリップエースの指導方針が正しいとか正しくないは置いておいて、来年度のJリーグ内定者にリップエースの出身者が高卒3人、大卒1人で合わせて4人いるそうですね。

幸野 これはすごいことですよね。ジュニアユース年代まで持っているクラブから同じ時期に4人がプロになるというのはとてつもない話。そんな町クラブは普通あるわけないですし、それについては大会の成績はどうでもよく、それがクラブとしての結果ですし本当の意味での勝利。全てのクラブがそこを目指すべきだと思いますし、選手を育成することの方が大会に勝つことよりずっと大事だということ。その価値観の方が魅力あるとなってくれれば「勝利は本当に大事なのか?」というテーマにあるように変わってくるきっかけになると思います。

──ゴールをどこに設定するかという問題ですよね。

幸野 そう。結局、多くのクラブは勝利をすることによって次の年からそのクラブに入りたいと思う子どもたちが多くなって経営が成り立つという循環から逃れられないんですよ。それがあるからどうしても勝利を必要として、子どもたちに来てもらいたいとなってしまう。これを見ている親御さんの中にも「勝ちたい」と思う方はたくさんいると思いますけど、チームが強いということよりも中身をちゃんと見て、しっかりとした育成で選手が伸びているところを選ばれた方が僕はいいと思っていますし、願いでもあります。

──ちなみに高卒3人がJリーグに内定したときの代は強かったのでしょうか。

守山 そのときの代は高円宮杯の全国大会に出場しています。

──いつもの学年と何か違うなというのはありましたか?

守山 意思が強かったです。性格がいいというか、真っ直ぐというか、そういう選手の人数が多かったです。

──チームを他に経由しているとはいえ、先ほどケンさんが話していたようにその学年で一番すごい選手たちがいっぱい集まっているというクラブじゃないところから輩出していてとてつもないことだなと思うのですがこうなった要因はどこにあると思いますか?

守山 決して私たちが育てたというような感覚はありません。それよりもその子のポテンシャルがそのまま生きた感覚です。先ほども言ったように僕らはどちらかというとサッカーは苦しいもので、そうしないと試合に出られないとか、そうしないと負けてしまうとか、どちらかというと脅迫概念でした。もちろんスポーツなのでプロという道に関してはそうだと思いますけど、基本、私たちを選んでいただいている選手たちがジュニアのときにJクラブさんのセレクションを受けてダメだったからと門を叩いてくれる選手が最近は多いです。でもその子たちには「全然ダメじゃないんだよ」というところからスタートしているので、「あなたはあなたらしくすればいいんだよ」というのを意識させています。


幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント

著書
パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方

1961年9月25日、東京都生まれ。中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やスタジアムを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

守山真悟(もりやま・しんご)

プレミアリーグU-11関西地域委員兼大阪府実行委員長/RIP ACE SOCCER CLUB代表

1979年、滋賀県生まれ。草津東高校、桃山学院大学でサッカーを続け、大学4年時の2002年に、同期の今村康太と一緒に大阪府堺市でRIP ACE SOCCER CLUB(リップエースサッカークラブ)を創設。「サッカーがうまくなるとは、サッカーをすることである」という考えに基づく「戦術的ピリオダイゼーション」をいち早く実践し、オリジナルの動作理論と組み合わせた指導を続けている。迷彩柄ユニフォーム・豹柄ビブスを着用する見た目のインパクトを放ちながら、社会で通用する選手を育てるという自立型人間の育成を教育指針に掲げ、子どもたちの心を鍛えることを重視して活動している。

北健一郎(きた・けんいちろう)

WHITE BOARD編集長/Smart Sports News編集長/フットサル全力応援メディアSAL編集長/アベマFリーグLIVE編集長

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

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