
主要国では6月から7月にかけて解禁されてきた欧州サッカーの移籍市場はまもなく閉幕を迎える。各クラブが新シーズンへの補強に奔走してきたなか、今夏はステップアップを求めて新たなクラブへの移籍を目指す選手や、日本から成長を求めて海外挑戦を決断した若手の有望株の移籍が目立った。前回に続き、この移籍市場で動きを見せたサムライたちのこれまでや、新天地で期待される役割について述べていきたい。(文・井本 佳孝)
遠藤航(シュツットガルト→リバプール)

遠藤航(写真:ロイター/アフロ)
今夏最大のサプライズで、晴れてビッグクラブの一員となったのが現日本代表キャプテンを務める遠藤航。2018年夏にベルギーのシント=トロイデンから海外キャリアをスタートさせた遠藤は、日本時代の“守備のマルチロール”から脱却を図りボランチ1本で勝負を挑む。2019年には当時ドイツ2部のシュツットガルトに移籍を果たし、チームの1部昇格の立役者に。2020-21シーズン、2021-22シーズンと2年連続デュエル王に輝くなど、日本人が欧州レベルでの中盤の攻防でトップクラスに立てることを証明した。
2021-22シーズンからはシュツットガルトの主将に就任し、同シーズンの1部残留を決めるゴールを決めるなど、クラブの象徴の一人になっていた遠藤は今夏ドイツに留まると見られていた。しかし、この夏にジョーダン・ヘンダーソンやファビーニョなど中盤に移籍が相次いだリバプールが移籍市場で後釜探しに苦戦。アンカー探しが急務となっていた中で経験豊富な日本代表が獲得候補に急浮上。プレミアリーグでのキャリアを夢としていた遠藤の希望をシュツットガルトが受け入れる形で電撃加入が決まった。
リバプール加入後の遠藤は第2節のボーンマス戦にいきなりベンチ入りを果たすと、味方の退場というアクシデントもあり後半途中に緊急投入。デビュー戦で及第点のプレーを残すと、続くニューカッスル戦では先発デビューを飾り、後半13分までプレーした。南野拓実以来のリバプール所属選手となった遠藤の勝負はここからで、世界トップレベルのスピードと強度を誇るプレミアリーグで、かつ資金力があり、大物選手を獲得可能なビッグクラブで生き残っていけるか。30歳でキャリア最大の挑戦を迎えた遠藤の今季は日本サッカー界最大のトピックの一つである。
吉田麻也(シャルケ→ロサンゼルス・ギャラクシー)

吉田麻也(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)
前日本代表主将の吉田麻也は2010年冬にオランダのVVVフェンローへ移籍して以来、イングランドのサウサンプトン、イタリアのサンプドリア、ドイツのシャルケでキャリアを築いてきた。かつては鬼門とされてきた日本人DFの欧州挑戦は吉田の奮闘なくしては語ることはできない。その後に続いた冨安健洋や板倉滉など日本の守備陣の海外でのキャリア成功の道標となったのが、長年日本の最終ラインを支えた吉田であることは言うまでもない。
そんな吉田が35歳を迎えたシーズンで新天地に選んだのはアメリカのロサンゼルス・ギャラクシー。かつて元イングランド代表のスーパースター、デイビッド・ベッカムがプレーしたチームで、日本を含めて6カ国目の挑戦を決断した。経験豊富な吉田には負傷離脱したウルグアイ代表DFマルティン・カセレスに代わる新たなDFリーダーとしての役割が期待されており、今夏にはリオネル・メッシも参戦するなど盛り上がりを見せるMLSの舞台で吉田の挑戦には期待が高まる。
中村敬斗(LASKリンツ→スタッド・ランス)
2022-23シーズンの欧州サッカー界において、ブレイクを果たした日本人選手の筆頭格と呼べるのが中村敬斗。ガンバ大阪からオランダのトゥウェンテに加入して以来、ベルギー、オーストリアと国を変えながら継続的な結果は残せずにいたが、昨季はLASKリンツで31試合に出場し14ゴール7アシストと大爆発。その切れ味鋭いドリブルは森保一監督にも評価され、A代表に選出されるなど海外で自分の殻を破ったシーズンとなった。
中村は今夏のステップアップが噂されており、ドイツのフランクフルトなどが候補に浮上していたが、リーグ・アンのスタッド・ランスに完全移籍で加入した。昨季から在籍し、チームの主力に君臨する伊東純也との日本代表ウインガーコンビには期待がかけられており、開幕から右に伊東、左に中村と両翼を日本人が担っている。初のフランス挑戦となる中村はさらなる選手としてのスケールアップを目指し、オーストリア時代と同様にゴールやアシストといった目に見える結果で存在感を示したい。
町野修斗(湘南ベルマーレ→ホルシュタイン・キール)
出場こそなかったものの、昨年のカタール・ワールドカップに怪我の中山雄太に代わり招集され、Jリーグでは日本人最多の13ゴールと飛躍のシーズンを過ごした町野修斗。古橋亨梧や上田綺世といった日本代表でポジションを争うストライカーが欧州の地で結果を残したなか、23歳の町野も海外への挑戦を決断し、ドイツ2部のホルシュタイン・キールに完全移籍で加入した。
初の海外挑戦となった町野だが、開幕から出場機会を掴むと、ここまで全4試合に出場し2ゴールと絶好のスタートを切る。またチームも3勝1敗で3位につけるなど、1部昇格に向けて悪くない出だしを見せており、町野はまずはコンスタントに結果を残し最低でも2桁ゴールを目指したい。チームの1部昇格や自身が個人昇格を果たしての1部へのステップアップは今後可能性としては考えられ、日本では有数のストライカーに成長を果たした町野が1シーズンでどのような成績を残すのかは見ものである。
鎌田大地や上田綺世のように欧州チャンピオンズ・リーグへの挑戦を求めた選手や、遠藤のようなビッグクラブからの引き抜き、また、Jリーグでの実績を引っ提げて海を渡った町野のように、それぞれの選手が現状のキャリアからのさらなる飛躍を求めて動くケースが見られてきた。新天地を求めた選手たちがそれぞれのキャリアをどのように進め選手としての価値を高めていけるかは見どころとなる。
(前編はこちら)
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