
来年のラグビーワールドカップに向け「ラグビー熱」を再び高めていこうという熱い思いを語ってくれた北海道ラグビーフットボール協会の田尻稲雄会長。北海道”ラグビーの日”のメインイベントとなる早稲田大学対明治大学の試合は、苦労しつつも札幌ドーム開催にこだわった。その思いとは。(取材・文/二株麻依)
100年の伝統「早明戦」
――早明戦とは、どんな戦いなのでしょうか。
田尻稲雄(以下、田尻):早稲田と明治のスポーツの戦いなんですけれども、ラグビーの場合は1923年からなので、100年ほどの歴史があります。日本の大学ラグビーの礎を築いてきた両校は、長い歴史の中で、数々の有名選手、日本を代表する選手を輩出してきました。伝統を引き継いでの試合だからこそ、お互い絶対に負けたくない、負けられないという思いを持って戦っています。相手に対してはもちろん、先輩たちにも負けない試合をやろうと思うと、気持ち的にも相当盛り上がっていくんですよ。試合前に泣き出すぐらいの興奮度合いです。
――いま早稲田大・明治大のレベルはどれぐらいでしょうか。
田尻:4~5年ぐらい前だと、帝京大学が一強と言われていましたが、最近はきっちりした体づくりに取り組み始めたことから、強さのレベルとしては、帝京、早稲田、明治がだいたい横並びになりました。差が一挙に縮まったので、接戦が予想されます。
地方で味わうプレミア感。札幌では5年ぶり
――早明戦が地方で見られるのは貴重な機会なのではないでしょうか。
田尻:そう、プレミアなんですよ、早明戦というのは。北海道でやってもらいたいと言ってすぐ来てもらえるゲームじゃないので。お互いのOB会の人たちの中で、どこで開催するかを話し合って決めていて。今年良かったから来年も、というわけにはなかなかいかなくて。みんな自分のところでやってほしいと、全国のOBたちが思っています。今回の札幌開催は、3年ぐらい前から決まっていました。コロナ前ですね。だいたい5年おきぐらいに来てくれている感覚です。
苦労しつつもドーム開催にこだわる理由
――招待する側の苦労もあったのではないですか。
田尻:そうですね、一番はお金がかかることです。協会では、ラグビーの普及活動の一環で招待試合を大事にしていて、旅費を出しては北海道で試合をしていただくということを、これまでも行ってきたんです。しかし、札幌ドームを使うとなると、金額が全然違います。そこで協会関係者が必死になってスポンサーを探したり、集客をかけました。
今回のイベント、実は、私たち協会が最大限頑張ってどの程度集客できるのかも検証しているんです。観客席に他のラグビー場とは桁違いの贅沢なシートを設けて差別化を図るなど。これでうまくいけば、今後札幌ドームを使う機会をどんどん増やしてイベントを仕掛けていきたいと思っていて。それができるかどうかは今回の成功にかかっているんですよね。
――札幌ドームでラグビーの試合が行われるのは、2019年のワールドカップ日本大会以来ということですが、札幌ドームで開催するメリットはあるのでしょうか。
田尻:他の会場と比べると、環境が全然違うでしょう。この間も早稲田の監督の大田尾さんが見学に来られましたが、この施設の立派さ、それから、屋内だけれど天然芝でプレーできるグラウンドを見て、素晴らしいということで。選手たちも、興奮するでしょうね。このピッチを見て、グラウンドを見て、相当な気合いの入り方に変わっていくと思うんですよ。最高の環境でプレーできるというステータスを感じてもらえれば、ここで負けられないときっと思うはず。すごく緊迫したゲームになると予想していますし、お客さんが興奮するようなゲームになってくれれば良いと思います。
これからの子どもたちに夢を!
――運営側として、どんな期待や思いがあるのですか。
田尻:早稲田と明治のラグビーを見た子どもたちが、憧れを抱いて、将来自分も早稲田に行きたいとか、明治に行きたいとか、関東でラグビーやりたいとか、札幌ドームで試合したいとか。いろんなことを考えて夢が膨らむ、そういった大会にしたいと思いますね。やっぱり一流の選手を生で見て、こういう選手になりたいと思うところから始まるので。そういう機会を、札幌ドームで、ラグビーの大会を通じて作りたいんです。なかなか一流選手のプレーを地方にいながら生で見る機会はありませんから。すごく貴重な良い経験になると思います。(続く)
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◼️プロフィール
田尻稲雄(たじり・いなお)
1948年生まれ。北海道小樽市出身。メディカルシステムネットワーク創業者・代表取締役社長。社会人チーム北海道バーバリアンズ設立者で、全国クラブ大会で4度の優勝に導く。2019年から北海道ラグビーフットボール協会会長を務める。座右の銘は「人類には、ラグビーをする人間か、しない人間かの二種類の人間しかいない」。
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