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十文字高校サッカー部・山﨑亜沙「すべてを出し切る」_CROSS DOCUMENTARYテキスト版

2023年5月27日、インターハイ関東予選1回戦。前の年、インターハイ本大会と冬の選手権で準優勝を果たしている東京の名門・十文字高校サッカー部が初戦の舞台に立った。かつてはこの高校女子サッカー2大大会を制覇し、日本代表にも多くの選手を送り込んできた十文字にとっては、勝って当たり前の試合。

 

だが・・・勝負はPK戦にもつれ込んだ末、敗戦。ピッチ上のイレブンはもちろん、ベンチのメンバー、観客席で見守っていた部員たちが、まさかの事態に泣き崩れる。そんな彼女たちに、石山隆之監督が、厳しくも優しい眼差しで語りかける。

 

「今日は思い切り泣いて良いと思う。それから、もう一度立ち上がろう」

 

まだ、冬の選手権が残っている。キャプテンの三宅万尋や、ベンチリーダーの岩田理子が、大粒の涙を零しながらも前を向いた。

 

「過去は変えられない、だから未来を変えるしかない」

 

あの日から半年、冬の選手権を一ヵ月後に控えた十文字高校サッカー部を訪ねる。日暮れの冬の空に響き渡る、彼女たちの掛け声が聞こえてきた。屈辱の敗戦からの再起。十文字高校が今磨いているのは、持ち味でもある、パスを繋いで相手を崩す攻撃的なサッカーだ。

 

 

その中で、キーパーソンとも言える存在が、センターバックの3年生・山﨑亜沙(やまざきあさ)。

 

山﨑たち3年生にとっては、冬の選手権が高校最後の大会。もう後悔はしたくない・・・ 各々に課題を抱えながらも、彼女たちは毎日練習後の走り込みを自分たちに課し、週に1度、3年生だけのミーティングを開いてきたという。

 

1、2年生も加え、部員60人で行った夏合宿では、あえてサッカーボールから離れる時間を作り、海で遊び、バーベキューを楽しんだ。学年の垣根を越えて絆を深めたチームは、この頃から目に見えて変わっていく。

 

そして9月に出場した皇后杯では、大学やクラブチームの強豪に勝利すると、冬の選手権予選も突破!確かな手応えを得たのである。再起だけでは物足りない。目指すは全国制覇だ。

 

そんな山﨑が、冬の選手権本大会で求められているのは、守備だけではなく、パスで攻撃を組み立てるための正確な足元の技術。しかし、そもそもディフェンススキルには定評があったが、肝心のパスが思うように通らない。石山監督はその原因を、彼女の内面にあると感じ、すぐに指摘する。

 

『明るいはずの君が、練習、試合で全然明るくない。自信もない、思いっきりやれてもいない。一生懸命、ベストを尽くしなさい。失敗したって死なないから大丈夫』

 

ミスへの恐怖心が、彼女を委縮させていたのだ。果たして、残り僅かな時間で、ベストを尽くす準備は出来るのだろうか? 山﨑の視線が、同じ3年生のメンバーの表情を追う。

 

「やれると信じて、やるしかないです」

 

12月27日、冬の選手権3日前。十文字高校のサッカーグラウンドで、最後の全体練習が行われた。ミニゲームで、自分たちのパスサッカーを綿密に確認していく。練習後には全員で円陣。この日、18歳の誕生日を迎えた、キャプテンの三宅万尋を祝福する。

 

「みんなで最後まで、後悔が残らないよう、すべてを出し切りましょう!」

 

お礼の代わりに激を飛ばしたキャプテン。真っ先に抱き着いたのは山崎だった。そして3年生たちにとって、学校のグラウンドを使うのはこれが最後。山﨑は感慨深げにグラウンドを見渡す。

 

「(付属の)中一の頃からこのグラウンドに通って、大変なことも沢山あったけど、みんなとサッカーが出来て幸せでした」

 

12月30日。いよいよ冬の選手権、全日本高等学校女子サッカー選手権が開幕する。部員60名全員で挑む十文字高校。初戦の相手は、京都府代表の京都精華学園高校。十文字は前半早々に先制するが、持ち味のパス回しが、どこかぎこちない。攻撃の起点になるはずの山﨑のパスも、フォワードに届かない。

 

すると、バックパスの処置を誤り、それが失点に繋がってしまう。試合は3対1で勝利したものの、到底納得の行く内容ではなかった・・・

 

「残念」

 

宿泊先ホテルでのミーティングで、石山監督はそう切り出した。特にセンターバックの二人、山﨑と米口和花の消極的なプレーには、声を大にして叱る。

 

「何度だって言うよ。やってミスなら、それは仕方ない、納得だよ!だからやろう!ビビるな!」

 

表情に悔しさを滲ませる山﨑が、他の3年生たちを集める。

 

「このままじゃ面白くないから、ちゃんと無失点でビビらず、勝ちにいく!」

 

仲間に宣言し、やっと火がついた。

 

 

翌日の2回戦、相手は福井工大附属福井高校。前半4分、十文字のコーナーキックに、山﨑が積極果敢に飛び込んだ。これが相手のオウンゴールを誘い、貴重な先制点を手繰り寄せる。その後も、十文字はボールを失うことを恐れず、山﨑を起点にディフェンスラインから速いパスを繋いで相手を翻弄する。これこそ、ずっと積み上げてきた彼女たちの攻撃的パスサッカーだ。

 

前半24分には、ラストパスがキャプテンの三宅万尋に通り、弾丸シュートのゴール!終わってみれば、6対0、会心の勝利。名門・十文字がついに覚醒した。だが、山﨑は自らの手綱を締める。

 

「まだ全然完璧じゃないので、もっと強くなりたいです」

 

この後、十文字の勢いは止まらない。強豪と当たる準々決勝、準決勝をわずか1失点で勝ち上がった。インターハイ関東予選1回戦負けのチームが、わずか半年後に全国大会の決勝に駒を進めたのだ。

 

決勝前日の練習では、山﨑が誰よりも大きな声で、チームを鼓舞していた。その様子に、石山監督は目を細める。

 

「彼女は、みんなの気持ちに闘志を植え付ける、という意味でも伸びてきている選手で、この大会中にも伸びています。(明日が)楽しみです」

 

 

2024年1月7日、決勝。十文字高校の相手は、奇しくも1年前の決勝で敗れ、優勝を譲った因縁のライバル、静岡の藤枝順心高校。悲願の全国制覇へ、決戦の火蓋が切って落とされる。

 

試合は開始早々、十文字が王者の洗礼を浴びる。前半4分に先制点を奪われると、前半終了間際には追加点を許してしまう。後半、後がない十文字は、持ち味のパスサッカーで果敢に攻撃を仕掛け、藤枝順心を防戦一方に追い詰める。センターバックの山﨑も前線に上がり、ゴールを狙う。だが、あと一歩が届かない・・・ それでも、最後の1秒まで戦う執念を見せ、全力を振り絞る。

 

そして試合終了、無情のホイッスルが鳴り響いた。

 

3対0・・・準優勝のメダルをかけた山﨑亜沙が、大粒の涙を零す。

 

「この1年、辛いことの方が多くて・・・ でもみんなで折れないで、ずっとやって来て、ここまで来れたのに・・・ 結局最後は負けちゃって、何も残せなかったのが悔しいです」

 

 

続けて、石山監督や仲間との出会いに感謝した山﨑は、最後に言った。

 

「(十文字でのサッカー生活が)こんなに楽しくなるとは思ってなかったです。やっぱり幸せでした」

 

試合会場の外で、山崎たち3年生が、後輩たちを抱きしめる姿を目撃した。後輩に託す、全国制覇の夢。その継承の儀式の様だった。十文字高校サッカー部、センターバック、山﨑亜沙。卒業後はアメリカに留学し、プロを目指すという。

 

 

TEXT/小此木聡(放送作家)

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