スーパースターの最後の仕事。御田寺圭コラム

夢を掴んだ者から夢を託す者へ

夢を掴んだ者は、だれかに夢を見せる者になり、そして次の夢を託す者になる。

このバトンリレーは理想的だが、いつでもうまくいくとはかぎらない。むしろ人間社会では、このリレーが阻害されてしまう残念な場面を見るほうが多いかもしれない。上に立つ者が、時間の流れに逆らい、いつまでも最前線でのさばったまま、自分の名誉や立場かわいさに、若者たちに越えられるどころか、その挑戦を邪魔することさえある。

上に立つ者が「敗れる役」「越えられる役」を引き受けない場所では、若い才能が閉塞し、進歩しなくなっていく。

今回のオリンピックでは、ショーン・ホワイトにかぎらず、二人といない最高の存在が敗れ、新しい才能が追い越していく場面がいくつもあった。それは、かれらの姿に幾度となく感動を与えられてきた者にとって、あまりにも寂しく心痛むシーンであるが、私たち人間が紡いできた歴史の姿そのものでもある。歴史のバトンがただしく受け継がれ、新しい世界がひらかれる兆しである。

かれらが敗れ、越えられたことは、ひとつの終わりであり、同時に始まりだ。

自身のキャリアのラストランにさえ、自分のためだけに滑るのでなく、未来の若者たちのために偉大な仕事を成したショーン・ホワイトに心からの敬意を表しながら筆をおきたい。

(*1)出典:平野歩夢らとの世代交代 引退ホワイトは「求めてきた」「自分なら…と思わず去れる」|https://the-ans.jp/beijing-olympics-2022/219490/|THE ANSWER|2022年2月12日
(*2)出典:Shaun White gives tearful interview at Winter Olympics after final competition of his career|https://www.usatoday.com/story/sports/olympics/beijing/2022/02/10/shaun-white-tearful-interview-final-snowboarding-competition/6746964001/|USA TODAY|2022年2月10日

■プロフィール
御田寺 圭(みたてら・けい)

文筆家・ラジオパーソナリティー。会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「現代ビジネス(講談社)」「プレジデントオンライン(プレジデント社)」などに寄稿多数。著作に『矛盾社会序説』(2018年)。
Twitter:@terrakei07。「白饅頭note」はこちら

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