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「認知向上」だけでは弱い。プロスポーツクラブが、スポンサーメリットを最大化する方法(文:みる兄さん)

クラブ側の「人材不足」という課題

広告効果がデジタル化され、データとして成果を求められる流れが強まるなか、これまでのような「応援」や「認知度向上」を目的としたスポンサーシップよりも、自社の課題を解決することを目的とした「アクティベーション型のスポンサーシップ」を求める企業は増えていくと予想されます。

しかし、クラブとスポンサー企業の間でアクティベーションを実行するには、大きな課題があります。それは、クラブに人的リソースが足りていないこと。コロナ禍で企業全体が苦境に陥るなか、今の時代に合う「課題解決」を提供できる人材は、どの業界でも不足しています。事業部の人手が足りないクラブは、スポンサーシップの強化への取り組みは重要だとわかっていながらも、新たな取り組みに踏み出せないと聞きます。

こういった状況では、マーケティングの概念としてよく用いられる「STP(セグメント/ターゲット/ポジショニング)」を活用することがおすすめです。対象となるお客さま(スポンサー企業)のタイプを分けて、誰に向けて、何をやればよいか、何をやらなくていいか、を明確にした戦略を取ることで、本質的なアクションに移れるからです。

各クラブの状況とアクティベーションの特長からすると、前述したスポンサーシップのピラミッド構造の中でも、1,000万~5,000万円前後のオフィシャルパートナーのスポンサー企業を「何社増やせるか」「そして継続してもらうか」がクラブの事業基盤を拡張することになるのではないでしょうか。

ではクラブは、年間1,000万~5,000万円のスポンサー企業にどのようにして価値を作ればいいでしょうか?

残念ながら、企業の置かれている状況や目的、課題はそれぞれなので、魔法のようなマーケティングの必勝パターンはございません。

1点だけはっきりしているのは、「認知度向上」を価値として伝えても、他の広告宣伝の施策と比較すると優先度が低くなってしまうということです。

おおよそ1000万~2000万円の広告宣伝費だと、大規模イベントのサブスポンサーや、銀座、表参道、大阪など主要都市の交通広告ジャック、新聞の1面広告などが競合になります。対象とする顧客がプロスポーツクラブのサポーター層と親和性が高ければ、競合に対して優位性があります。しかし、ほとんどの場合は他の広告媒体に負けてしまうのではないでしょうか?

ならば、クラブはどうすればよいのか?

スポンサー営業を受ける企業の立場からすると、クラブが持っている資産は、「地域特性」「選手コンテンツ」「サポーターの熱量」の3つが価値です。しかし、それぞれの資産は単体で効果を発揮するのではなく、相互に組み合わせることで価値が増幅されると考えられます。

先ほど紹介したakippaやアダストリアのケースは、企業が持っている特性と抱えている課題や目的に対し、クラブが持っている資産を掛け合わせて生まれた代表的な例です。

この形を増やしていくには、クラブ側に企画ができる「プランナー」と、コンテンツに落とし込む「クリエイティブディレクター」が必要になってきます。企業の置かれている課題をヒアリングし、クラブが持っている資産の組み合わせでベストなアクティベーションを形にするわけです。

しかし、クラブが「営業」ではなく、「プランナー」や「クリエイティブディレクター」を採用するのは難易度が高いと思われます。

スポンサー契約は終わりではなくむしろ始まり

そこで、私がお節介にも提言したいのが、Jリーグクラブ主催で「スポンサーシップのアクティベーションを開発するハッカソン(※)」を実施し、「プランナーとクリエイティブディレクター人材を探す」という枠組みです。

※ハッカソンとは、ソフトウェア開発分野のプログラマーやグラフィックデザイナー、ユーザインタフェース設計者、プロジェクトマネージャらが集中的に作業をするソフトウェア関連プロジェクトのイベントである。個人ごとに作業する場合、班ごとに作業する場合、全体で一つの目標に作業する場合などがある。時にはハードウェアコンポーネントを扱うこともある。ハッカソンは1日から一週間の期間で開催することがある。
(出典:Wikipedia|ハッカソン|https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%AB%E3%82%BD%E3%83%B3|2022年2月7日)

もともとはシステム開発で行われるイベントのことを「ハッカソン」と言っていましたが、近年では、ビジネスや学生などの間でも、課題解決やオープンイノベーションの場として用いられる活動です。

海外クラブでは、FCバイエルンミュンヘンが、2018年1月29日から22日の4日間、本拠地のアリアンツ・アリーナで初めて「FCバイエルン HackDays」というハッカソン大会を開催しています。40カ国1,300人に上る応募者の中から220人の参加者が選ばれ、SAP、ドイツテレコム、アウディ、アディダス、DHL、シーメンスといった6つのスポンサーを絡めた提案を行ないました。
(出典:FCバイエルンミュンヘン|https://fcbayern.com/fcbayerntv/de/video/2017/11/video_hackdays|2022年2月7日)

スポーツ好きをTwitterで公言している僕の周りには、マーケティングや企画プランニングの職に就き、なおかつスポーツへの興味関心が高い人たちがいます。また、スポットコンサルのような副業プラットフォームが増えており、企業で仕事をしながら副業として他企業を支援する働き方が増え始めています。

海外の事例を見ると、スポーツのスポンサーシップに取り組む企業は権利料(クラブなどに支払う金額)の約2倍の予算をかけ、スポンサーシップを活用したオリジナルプロダクトの開発やコンテンツ制作、広告配信を実施しているそうです。

一方、日本では、スポンサーシップの権利料のみで予算を想定してしまい、スポンサーシップで得た権利を生かしたコンテンツ制作予算を確保していないケースが多いと聞きます。プロスポーツクラブがスポンサー企業に対して、アクティベーションを成功させるには、スポンサーシッププランに加えてコンテンツ開発費を提示することも重要です。

近年、「クラブと企業のスポンサーシップの関係は変化を迎えている」との論説を目にすることが増えました。スポーツ庁は、スポーツの成長産業化を実現していくことを目的に、SPORTS TECH TOKYOと共同で『INNOVATION LEAGUE(イノベーションリーグ)コンテスト』を開催しています。ここでは、スポーツとテクノロジーを掛け合わせた新しい取り組み事例がノミネートされています。また、受賞項目の一つにスポンサーシップの新しい形を表彰する「アクティベーション賞」があり、先進的な方法で企業ブランドの向上やビジネスの拡大に活用している取り組みが評価されています。

しかし、クラブの事業運営の実態を考えると、成功事例にフォーカスするよりも先に、アクティベーションを形にできる人材とクラブのマッチングを進め、実行できる環境を整えることが先ではないか、と感じています。

よく、クラブ側の人や強化部、もしくはファン・サポーターがこんなことを気にしています。

スポンサーアクティベーションに選手を参加させすぎると、「試合に向けたコンディションを重視したほうがいい」「選手の仕事はスポンサー活動ではなく、勝利を手にするための練習だ」という声が、いまだにあります。

しかし、クラブのスポンサーシップの価値を高めていくことは、事業収益の増加につながり、結果的にクラブの強化につながるわけです。各クラブの成功事例を見ていると、負担にならない程度に選手のSNSやコンテンツを活用したソリューション(解決策)を実現していくことも必要だと思います。

賛否はあると思いますが、僕のようなサポーターも、「クラブの一員(ステークホルダー)」としてスポンサー企業を盛り立ていくことが重要ではないでしょうか。クラブとサポーターの関係は「企業とお客さん」ではなく、「価値を共創するパートナー」であり、スポンサーシップの価値を高めることも、サポーターの一つの役割ではないかと感じています。

例えば、大分トリニータと浅田飴のスポンサーシップはサポーターのSNSでの声がきっかけで生まれました。

『片野坂元監督はテクニカルエリアで声を振り絞って選手に指示を送るため、声がガラガラになってしまいがちだった。それを受けて8月中旬、ある大分サポーターがツイッターで“ぜひ浅田飴さんに監督ののどを守ってほしい”という趣旨のつぶやきをしたところ、浅田飴の公式ツイッターアカウントが反応してJリーグサポーターを中心に拡散した』

『その縁もあって同社の商品をトリニータ側に送ったところ、翌週の第30節・徳島ヴォルティス戦で片野坂監督が浅田飴薬用のど飴(指定医薬部外品)の缶を手に指示する写真がまた拡散したのだ。気づけば9月にはスポンサー契約を締結。その勢いに乗ってトリニータはJ1昇格……というSNSが発達した今ならではの“ほっこりエピソード”となった』

(引用:Number Web|スポンサーのはずが今や大分サポ。トリニータと浅田飴の幸せな関係。|https://number.bunshun.jp/articles/-/833020|2022年2月7日)

ただし、サポーターを巻き込んでスポンサーを盛り立てる活動は、強制的にやることではありません。クラブとしてはアクティベーション支援をしてくれるボランティアサポーターを募り、コミュニティ化していく方法がいいかもしれません。近年はサポーターのSNS発信が活発なので、ピッチ内外でスポンサーシップの価値を高める取り組みにつながっていくといいですね。

終わりに

クラブのスポンサーシップは、「サッカー好き」×「地元出身の社長」が地域貢献の名のもとに、特に見返りを求めない支援が中心だった時代から、「スポーツクラブの資産」と「企業のビジネスにおける課題や目的」を掛け合わせて価値を作っていく方向へと変化しています。企業の予算が限られているなか、他のイベント協賛や雑誌とのタイアップ・新聞広告などと比較したうえでも、より企業のブランド価値に寄与するプランを組み立てることが必要です。「スポンサーシップによってブランド価値を高めたい」と要望を聞いたとしたら、「〇〇人の人の目に触れて認知が高まります」ではなく、その企業のヴィジョン/ミッション/バリューを紐解いて、企業ごとに抱えている課題や目的に対して提案をしていくことが重要です。

スポンサー側の立場で「企業のブランド価値」を課題とした際、地域に根付き、熱量の高いサポーターがいるクラブと長期的な関係を結ぶことに可能性を感じています。ブランドの価値は、投票行動とも似ているので、”自分たちが応援しているクラブを支援してくれる(スポンサーとして)ブランド”として、「共感や同調」(ブランド論の中で重要視されるキーワード)な関係を育む取り組みは価値があります。

働き方が多様になっている今の社会の流れに乗り、クラブ内だけで解決するのではなく、外部の資産を活用してクラブとスポンサー企業の課題を解決していく方法を探ることが、より良いスポンサーアクティベーションを生み出していくきっかけとなるのではないでしょうか?

・アクティベーションのために外部の知見をスポットで活用する
・選手の知的財産(コンテンツ出演/SNS発信)を活用する
・サポーターもスポンサーシップの大切さを理解して協力する

この3つの活動を実施することで、Jリーグ(特にJ2クラブ)のスポンサーシップはまだまだ拡張できると信じております。僕は僕のできることとして、推しの横浜FCのスポンサー企業に関するツイートをRTすることで支援していこうと思います。

■プロフィール
みる兄さん

事業会社でブランド戦略やSNSマーケティングを担当する傍ら、匿名で映画評やマーケティング関連の執筆を行なう。横浜育ちで生粋の横浜FCサポーター。

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