スポーツライターは、廃業するしかないのか? スポーツメディア2021年冬のリアル
「2021年の売上は、ライター時代の数倍になりました」
──一方、こうした状況下においても収益を倍増させている人物もいる。複数のメディア運営を手がける北健一郎氏だ。
「僕は2009年から本格的にフリーランスになって、本や雑誌をメインに活動してきました。2011年ぐらいに立て続けに本が当たって、30歳手前で1,000万円以上稼げるようになりました。だいぶ調子に乗っていたと思います(苦笑)。
ただ、2014年のブラジルW杯後から明らかにサッカーに対する興味・関心が薄れてきた。本は発行部数が少なくなるから、1冊あたりの単価も下がる。副次的な収入源だったテレビ・ラジオのコメンテーターの仕事も目に見えて減りました。
追い討ちをかけたのが、サッカーのWEBメディアへの急激なシフトです。原稿料の相場が1文字10円程度だった紙媒体に比べて大幅に下がって、ライターは量を書かなければ稼げないという仕組みになってしまった。
このままじゃ大好きなサッカー、フットサルに関わる仕事ができなくなると危機感を覚えて、個人ではなくチームで仕事をするというやり方に変えました。
WEBメディアが主流になる流れはこの先変わらない。であれば、自分たちが運営する側に回ろうということで、今は複数のメディアの運営に関わっています。
2021年は売り上げで言えば、ライター時代のピーク時に稼いでいた金額の数倍になっています。1人だったら、これだけの仕事量を抱えるのは不可能だったでしょう。チームだからこそできている。
ライター・北健一郎として突き抜けたかった、勝負したかった気持ちはありますが、そこは割り切っています。ただ、ライターとしての信頼や経験があることは、メディア運営における僕の大きな強みです。最高のライターになるより、最高のチームになれたらと思っています」
「若い人には、ある意味狙い目だと思いますよ」
──業界経験の長いB氏は、「時代に対応できない人間はどこの業界だろうと苦しむ」と手厳しい。
B氏「メディア人は売り手市場ですよ。今の時代、編集者をやっていれば嫌でもSNS運用を学ぶことになりますから。SNS運用を身につけたらあとはもう引く手数多。フリーランスでも働けるし、マーケティングの会社や代理店への転職もあり得ます。
大量にあふれる情報の美味しいところを抽出してどう発信できるか、という能力は編集者をやるのが一番身に付く。文字がオワコンと言われても、文字だろうが音声だろうが動画だろうがやることは変わらない。
結局は、情報としてなにが一番美味しいかを分かっているかが問われる。そこをないがしろにして、ただライターだけを続けているひとは難しいでしょう。そういう人ってメディア業界じゃなくても、時代に適応できずに苦しむんじゃないでしょうか。そこはあまり業界とか関係ないのではないかと。
僕らが若い頃は金子達仁さんっていうアイコンがいて、スポーツライターを目指す若い人がたくさんいましたけど、今はそういうアイコンになる人がいない。スポーツライターを目指す人が本当に少なくなっていて、現場で20代のライターを探すのが難しい。
その代わり、スポーツマーケティングやスポーツビジネス業界を目指す人が増えた。そういう大学や専門学校も増えた。でも最初に言ったように、ニーズを考えられるライターならば将来的にマーケティングやビジネス業界に転職するのはそんなに難しいことじゃないですよ。だから今の若い人にはある意味狙い目だと思いますよ」
「スポーツ専業に戻る可能性は、低いと思います」
──本業としてスポーツに関わることに限界を感じ、業界の外に出た人物もいる。マーケティング支援会社に在籍しながら、スポーツメディアのアドバイザーを務める澤山モッツァレラ氏もその一人だ。
「僕の場合、そもそも業界にいたのかどうかもわかりませんけど(笑)。オフィシャルな取材パスは持ってませんし、業界飲み的なものにも呼ばれないし。はみ出し者の気分は、常にありました。『業界の外に出た』と言われてもなと。
前置きはおいといて、『いわゆるスポーツライター』が構造的に苦しいのは間違いないでしょう。1本いくらの労働集約型産業で、本数が必要となる体力勝負。原稿料や経費が潤沢に出る時代でもなく、実入りは減りやすい。僕の周囲でも、苦しい話は見聞きします。
拘束時間は長め、移動時間も多い。いろいろな場所を旅できる魅力は代えがたい一方、ファンから名指しで攻撃されるなどストレスも大きい。僕はSNSでも比較的発言が広がりやすいタイプだったので、昔は2ちゃんねるでもよく叩かれました(苦笑)。
ある時期に体調を崩したことをきっかけに『この業界、自分には務まらないな』と判断し、編集者一本から徐々に軸足を移してきました。2010年には有料メルマガを業界に先駆けて導入し、一定の収益基盤を作りながら企業のマーケティング支援を行なってもいました。
そういう意味で、今持っているスキルの基盤は当時から磨いていたのかもしれません。今の状況をクリアに見通してたわけではなく、結果論でしかないですが。インハウスエディター(企業に属する編集者)が需要を集め始めている状況に間に合ったのは、ただただ幸運だったと思います。
本業の仕事には、内容・フィー含めて満足しています。優秀な方々と一緒に働ける日々は、スポーツ現場に負けず劣らず刺激的ですね。スポーツ専業に戻る可能性は、低いと思います。今さら戻っても、現場一本でやってきた人たちの知見に太刀打ちできるとは思えませんし。
今後は、培ってきたメディアプランニング、コンテンツマーケティングの知識を提供する形でスポーツ界に関わっていければと思っています。IT企業がチームを買収する事例が続いており、外部から支援できる可能性は以前より上がっているのかなと。
いつか、心のチームであるサンフレッチェ広島さんと一緒に仕事できたら最高ですね」
あとがき
いかがだったろうか。スポーツメディアにおける代表的なプレーヤーを網羅したとは言えないが、語られている言葉は紛れもなく「リアル」だ。
現場一本で食っていくのは難しい一方、軸足をずらすことで生活を安定させつつ貢献することも可能。実際に北健一郎氏は、会社を立ち上げて多くのフリーランスに仕事を供給する立場にもなっている。
とはいえ、北氏のようなポジションは例外的な成功事例であることは否めない。根本的にはスポーツメディア自体の業界がシュリンクしていること、現場で取材し続ける書き手が「1本いくら」の契約であり、消耗品のように使われていることに原因がある。
一時期よりも減ったものの、スポーツメディアを志す方はまだまだ多い。しかし、以前と違い夢ばかり追える状況でなくなっていることは直視すべきだろう。飛び込んだ上でどのようなポータブルスキルを獲得するか、あるいは獲得した上で飛び込むか、いずれにせよ覚悟が求められることに代わりはない。
これが、2021年におけるスポーツメディア冬のリアルである。
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