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遠藤敦(スポーツファーマシスト)。「修造系薬剤師」が、スポーツ界に革命を起こす。
日本のドーピング認識の甘さ
——今までの活動で苦労されたことを教えてください。
今まで薬剤師はスポーツの世界にいませんでした。ある程度スポーツドクターが対応していたからです。チームに営業にいっても間に合っていますと言われてしまいます。また、選手のところにいってもドーピングというワードを聞いた時点で自分はやっていないから大丈夫です、と断られて相手にされませんでした。
なので、ドーピングの相談だけでなく、幅広くサポートできるようにする形で徐々に動けるようになってきたというところです。スポーツ選手にどれだけ役に立っているかは分かりませんのでまだまだこれからだと思います。
——反対に嬉しかったことを教えてください。
選手に頼られて感謝されるのは嬉しいです。遠征先でチームドクターの治療が受けられない場合には現地の病院で診察を受けることになるわけですが、その時に先生と話してもらいたいと選手から電話がかかってくることもあります。治療方針とどういった薬を使う予定かを聞いて、検査にあたっても安心できるように情報提供します。これをやらせてくれるということは相当選手に信頼されているのだと思います。あとは専門外のことについて相談してくれるお医者さんもいたりして、調べて返答して感謝してもらえることはありがたいですね。
——この仕事をする上で印象的だったできごとを教えてください。
意外とドーピングをする方法についてネット上に載っているということです。ドーピンググルという、薬の選択や量の調整する指導者的な立ち位置の人がいて、そういった人達が情報を流しています。ドーピングするといってもただ薬を入れればいいわけではなくて、副作用が少ないように、見つかりにくいようにする必要がありますから。
安易にドーピングをやってしまう人が出ないようにするためにもやめてほしいです。あとは意外と禁止薬物は買えてしまうという事実です。やればすぐ見つかりますし、効果は薄いのですが、簡単な男性ホルモンは通販でも買えてしまいます。日本人は武士道精神があるからドーピングをしないと言われていますが、もしかするとまだそういった環境であることを知らないだけなのかもしれません。
——今後日本でドーピングが広がっていかないためにもしっかりとした予防・認知をさせていく必要がありそうですね。
日本でどれだけ認識が甘いかを表すデータがあります。去年の東京国体でスポーツチームにアンケートをしました。ドーピング検査の可能性がある大会の試合会場に入るにあたって、自チーム持参の薬箱の中身のドーピング検査を受けているかと薬箱に実際に何が入っているかを確認しました。すると禁止物質が入っている薬が薬剤師などのチェックを受けないままチームの薬箱に入っていた例が約3%ありました。それが日本で毎年10例くらい起きている失格の原因になるのだと思います。
——知らず知らずのうちにドーピングをしていて失格になってしまえば、選手のそれまでの努力が水に流れてしまうわけですから、問題だと思います。
制度が始まった当初、僕らスポーツファーマシストはスポーツ現場にいらないと言われていましたが、そういった事実がある以上、やはり必要だと再認識し、頑張らないといけないなと改めて考えさせられた出来事でした。
——ドーピングが発覚した際にはどういったペナルティが課されるのでしょうか。
出た薬物の種類、尿の中に出た値、何回目かを総合的に判断して決まります。風邪薬であれば3ヶ月の資格停止で済みますが、薬によっては2年間資格停止になってしまうこともあります。一番選手としていい時期に2年間資格停止になってしまうと本当にきついですし、大きな損失だと思います。
例えば2011年にラグビー選手が塗り薬で失格になったことがあったのですが、大学を卒業して社会人チームに入る時にそれが発覚して、22~24歳の選手としていい時に練習試合にすら出られなくなるということがありました。
薬剤師として選手の力になりたい
——ここからは遠藤さんのプライベートについてお伺いしていきたいと思います。もしこのお仕事をされていなかったら何をしていたと思いますか。
そのまま機械工学を勉強していたかもしれませんし、トラックドライバーをしていたかもしれません(笑)全く関係ないものが2つ合わさると面白いものになると考えています。例えば薬剤師×トラックドライバーということです。なぜトラックドライバーかというと薬剤師は化学の知識があります。
そうなると特殊な危険物を運ぶことができる運転手に簡単になることができるからです。ガソリンを運べる人は多いですが、例えば硫酸を運べる人は多くないだろうと思ったんです。珍しい物質を運ぶには当然難しい知識が必要になりますし、そういった化学の知識がある人はトラックドライバーをやろうとは思わないだろうと考えていました。あとは一時期大道芸人をやっていたこともあります(笑)
——趣味を教えてください。
ロードバイク、料理、掃除、洗濯、アイロンがけなどですかね。
——すごく家庭的ですね(笑)
他にも写経をしてみたり、大道芸人をやっていたので、ボールやコマを回したり、バルーンアートをやったりします。
——ご自身の魅力を一言で表してください。
暑苦しいです。「修造系薬剤師」を目指しています(笑)薬剤師のイメージはクールな感じだと思うので、たまにはそういう人がいてもいいのではないかなと思います。
——スポーツファーマシストならではのエピソードがあれば教えてください。
一般的な知識を得たいフリをして何気なくバレないドーピングのやり方を聞いてくる人がいます。今は非常に厳しい中で検査が行われています。50mプールの水の中に目薬を1滴垂らしただけでも検出されてしまうくらい厳しいです。なのでやり方を教えてくれと言われても困りますね。もちろんもし可能だったとしても教えませんよ。
——最後に読者の方にメッセージをお願いします。
意外と薬剤師は便利なので、使ってください(笑)
2020年に東京オリンピックが来ます。これを読んでいる方の中にはそこでメダルを取っている人もいるかもしれません。僕達は選手の力になりたいと考えています。そのためにも僕達をどんどん使ってもらって無理難題を言ってください。全力でサポートします。
<了>
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