小林悠馬(ウィンドサーファー)は、逗子の海から世界へ羽ばたく
今回はウインドサーフィン・小林悠馬選手にお話を伺います。小林選手は2013年に日本ツアー年間王者を獲得する他、海外でのW杯に参戦するなど、国内外でご活躍されています。現在はサーフメーカー・STARBOARD JAPANに所属し、営業をしながら選手として活動されています。
ウインドサーフィンとの出会い
——小林さんがウインドサーフィンを始めるまでの経緯を教えてください。
僕は神奈川県の逗子で生まれ育ちました。出身の学校も逗子小学校、逗子中学校、逗子高校とすべて逗子が付きます(笑)
近くに海があり、父がインストラクターをしていたこともあって小学校5年生の時から本格的にウインドサーフィンを始めました。でも初めて乗せてもらったのは3歳の時です。
他のスポーツはサッカーをやりたかった時期がありましたが、なかなか真剣に始める機会がなく、そのうちにウインドサーフィンにのめり込んでいったという感じです。
——ウインドサーフィンのどのようなところに惹かれたのでしょうか。
初めは風が弱い時に海に出て、徐々に練習をしていくのですが、うまくなるとハーネスと呼ばれる紐を腰に巻き、それをセール(帆)に引っ掛け、体を預けてバランスを取れるようになります。そうするとプレーニングという滑走状態に入ることができます。小学校5年生の夏に少し真剣に練習をして、一瞬滑走状態に入ることができた時からウインドサーフィンに魅せられました。あれは陸上では味わえない感覚で気持ち良いです。
——まだウインドサーフィンという競技について知らない人も多いと思うので、簡単に教えて頂けますか。
ボードにセールという帆が付いていて、風を受けて水上を走るスポーツです。ヨットとの大きな違いは動きの自由度が高いということです。ボードとセールを繋ぐジョイント部分が360度自由に動くので、例えばジャンプしながら回ったりすることも可能です。僕が主に競技としてやっているフリースタイルは波があってもなくても飛んだり回ったりする種目です。
——小林さんがご活躍されているフリースタイルについてもう少し詳しく教えてください。
技の難易度、完成度、格好良さ、スピード、高さなどを総合的に判断して得点が決まります。採点の仕方は体操やフィギュアスケートに近いと思います。
プロの試合は5ムーブの2ピックアップといって、5回試みた技のうち、いい点数2つが選ばれ、得点になります。行きと帰りで演技を行い、点数の合計を競います。
——You Tubeに技の動画をアップされていますが、得意な技はありますか。
(※)「Shaka(シャカ)」と(※)「Culo(クロ)」という技です。海外では当たり前の技ですが、日本人でシャカをできる人は数名しかおらず、クロもおそらくちゃんとできるのは僕だけだと思います。難易度としても難しい方に入る技です。すべてうまく決めることができれば合計で80点近い点数を獲得することができます。例えばこの前の本栖湖の試合だと他の上位選手は50~60点ほどだったので、差を付けて勝つことができました。
※「Shaka(シャカ)」↓
※「Culo(クロ)」↓
世界の大会に出ると1勝することも厳しい
——ウインドサーフィンの日本のレベルはどのくらいなのでしょうか。
正直世界の大会に出るとトーナメントであれば1勝することも厳しいです。今年の目標はまず1勝して、それからまた後を勝ち上がっていければと思っています。
——ウインドサーフィンをやっていて一番面白いと感じる部分はどこですか。
様々な技がある中で、難易度の高いものを決めた時です。技も難しさだけでなく、完成度も見られています。100%綺麗に技を決めることができると気持ちがいいですね。
——反面競技歴が長い分、苦労もあったのではないですか。
苦労したことは怪我です。僕は足の靭帯を2回切っているのと、手の甲の骨折をしています。靭帯は技のやり方が良くなくて、着水の仕方が悪かったために切ってしまいました。ジャンプする技は時速40kmほどのスピードで4~5mの高さまで飛び上がって回転して着水するので、水とはいえかなりの衝撃ですからね。
手はトリック(技)をやろうとした時に不安定な風が吹いて、持ち手の部分にぶつけたのだと思います。咄嗟のことだったので、細かいところまでは覚えていませんが、強い衝撃があって関節の角が欠けるような形で折れてしまいました。
でもいずれの怪我も子供の時のもので、最近は回避できるようになりましたね。
——もしこれを読んだ方がウインドサーフィンをやりたいと思った時はどこでできますか。
日本にはウインドサーフィンのショップは全国各地に結構あって、湘南ですと逗子・鎌倉・江ノ島、葉山や三浦海岸にもあります。横浜や千葉にもあります。インターネットで検索すればたくさん情報も出てきます。道具もスクールをやっているところであれば基本的には揃っているので、着替えとタオルくらいでほとんど必要なものはないと思います。
——どういった人がウインドサーフィンに向いていますか。
正直誰でもできます。小学校低学年の子供から70歳以上の高齢な方まで年齢層も幅広いです。人に合わせて道具の種類も多様です。競技としてやる上では手足の長い人が向いていると思いますね。
——小林さんご自身は指導されたりしないのですか。
僕は元々逗子ウインドサーフスクールというところに所属していて、父もそこでインストラクターをしていたんです。僕自身も中学生くらいからインストラクターのお手伝いをしていました。フリースタイルはできる人が少ないというのもあって、僕がスクールを開くこともあります。
——夏に向けて海でのスポーツはより注目されますよね。
最近は(※)スタンドアップパドルサーフィン(以下:スタンドアップ)が人気なのですが、実はウインドサーフィンのショップがやっていることが多いんです。スタンドアップをやりに来たお客さんでも気持ち良さそうにウインドサーフィンをやっている姿を見て、そちらをやりたいと言うお客さんが増えていますね。
※スタンドアップパドルサーフィン:大きなボードの上に立ち、パドルで漕いで進むウォータースポーツ。
——どうしても海のスポーツは夏のイメージがありますが、冬の間はどうされているのでしょうか。
冬もウエットスーツを着てやりますよ。むしろウインドサーフィンは強い風が吹く冬の方がシーズンだったします。かなり寒いですけどね(笑)
それでも最近のウエットスーツは進化しているのでやっている本人はだいぶ暖かいですが、観ている観客の皆さんの方が寒いと思います。
——大会出場のために海外に行かれることも多いですか。
そうですね。今年の夏だと7月末にアフリカ大陸近くにあるスペイン領のカナリア諸島のグラン・カナリー島で行われるW杯に出場します。だいたい滞在期間は2週間程度です。
昨年からW杯に参戦させてもらっているのですが、世界との大きな差を感じましたね。今はヨーロッパと南米が強く、チャンピオンもベネズエラの選手です。ベネズエラの近くにはオランダ領ボネールという島があります。そこの近くの選手が強いです。環境もしっかり整っているので、子供の頃から始めることができます。
——日本は季節によってコンディションが大きく変わると思います。海外とは環境面でも違いがありそうですね。
海外では毎日一定の風が吹いている場所があり、同じコンディションで練習することができますが、日本にはなかなかそういったところはありません。
1週間の間で風が全然吹かないということもあります。もし吹いたとしても強弱がバラバラです。例えばカリブ海の方ですと、ずっと同じ風が吹き続けているところがあります。そこで毎日2時間ずつでも練習ができればどんどん上達しますよね。実際に僕も短期間ですが、滞在していた時はうまくなりました。日本と海外ではコンディションの良し悪しから来る練習量の差が多いと感じています。
逆にあまり試合会場のコンディションが良くなくても悪い環境に合わせることに馴れているので、それなりのパフォーマンスを発揮することができます。今世界で勝ち目があるとすればそういった悪いコンディションの試合だと考えています。
——その中でも小林さんが得意なコンディションはありますか。
風向きにはオンショア(海→陸)、オフショア(陸→海)、サイドショア(横)という種類があります。一般的には波を斜めに降りてくるので、サイドショアが乗りやすいと言われています。しかし、僕はオンショアの風が得意です。これはホームである逗子の海がそうだからです。
今年の4月に逗子でフリースタイルの大会を開催したのですが、やはり外から来ると波に乗りにくいみたいです。
——海に出られない時はどのように過ごしているのでしょうか。
基本的に雨が降っていても風さえあれば海に出られます。風がなくても波があればスタンドアップをやったりします。
——そうなると海に出る以外にトレーニングをすることはないということですか。
はい。でも海外選手は身長がそこまで高くなくても、屈強な身体をしていたので、僕ももう少しトレーニングをしようとは考えています。
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