川嶋勝重が振り返る、ボクサー人生。「待遇がよかったら、ここまで続かなかった」
自分をいじめることが好きで、追い込める人がボクシングに向いている
——ご自身はセンスがないとおっしゃっていましたが、ボクシングに向いているのはどんな人でしょうか。
自分をいじめることが好きで、追い込める人です。野球などのチームスポーツは練習からみんなで頑張っていこうとします。それがいい部分でもありますが、どこかで誰か他の人がやってくれるという気持ちも生まれてしまいます。逆にボクシングは一人で追い込んでトレーニングするので、それができない人は難しいですよね。もちろんリングの上に立てば自分しかいなくて、誰も助けてくれませんから。
——自分を追い込むためのモチベーションはどこに持っていましたか。
初めは試合に勝ちたい、格好いいところを見せてやりたいという気持ちだけで頑張れるのですが、戦いを重ねていくとリングに上がること自体が怖くなっていきます。たくさん応援してくれている人がいる前で負けてしまったらどうしよう、という怖さが出てくるので、それがモチベーションとなって練習に励むようになっていきました。殴られることより負けることへの怖さがあるから、続けられたのだと思います。僕の若い頃と同じようにまだ勢いだけでやっている後輩達は大抵リングに上がった瞬間に極度の緊張に襲われ、何もできずに終わってしまうことが多いです。もちろん普段以上のものが出せてしまうことはどのスポーツにもあると思いますが、格闘技の場合は逆で、いつもやっていることの5~6割しか出せないことがほとんどでしょうね。
——事前に相手の研究などはするんですか。
それはします。ある程度相手の研究をして、どういう試合の流れになるかは読んでおきます。事前に想定していた流れ通りになるとそれが手応えになります。もちろんやってみて想像以上に相手が強いと感じることもあります。でも対戦しながらその場合の対処の方法を考えるなど、意外と試合中は冷静にいろいろなことを考えられているものです。ただ、試合の後半になってくればパンチを受けて頭もぼーっとしてくるので、だんだんがむしゃらに打つだけになっていきます。
終盤は計算のない打ち合いをしていたとしても、序盤から中盤にかけてはお互い駆け引きをしながら、戦っているということが試合の映像を観てもらえば分かると思います。一見殴り合っているだけに見えますが、本当はいろいろ考えているんです。
——引退した後、1年間空白の時期がありますが、その間は何をしていたのでしょうか。
何もしていなかったです。競馬場には行っていましたね(笑)
——現在のアクセサリーショップを開いた経緯を教えてください。
引退してから何かしないといけないと思いつつも、何をしていいか分からなかったんです。現役の時から商売を始める人も多いですけど、僕の場合は何も考えていませんでした。元世界チャンピオンの場合はジムを開く人も多いですが、僕は同じことをやるのが嫌いなんですよ(笑)散々今までやってきて、またボクシングをするのはつまらないと考えていました。それで変わった仕事として、アクセサリーの職人をすることにしました。
でも僕は人見知りなんです。最初はお客さんが来てもどう話しかけていいのか分からなかったです。元々ボクシングを始めた頃にやっていた配達の仕事も人とほとんど話す必要がないから選びました。運転するだけで常に一人でいられますから。でも今はお客さんと話すのが好きです。
——時間が空いた時にしている趣味はありますか。
特に趣味がなくて、家にいるのが好きなんです。時間があると家でずっと掃除や洗濯をしています。世界戦の午前中も掃除機をかけていました(笑)気分良く試合に臨みたかったからですかね。
——今も体を動かすことはありますか。
今は週1回、パーソナルトレーナーとしてキックボクシングのジムに行っています。そこで少し体を動かすくらいです。
——最後に読者の皆さんにメッセージをお願いします。
僕が世界チャンピオンになれたくらいなので、誰にでもチャンスがあると思います。自分なんかに能力はないと思っている人も多いかもしれませんが、特に若い人にはまだまだ可能性があるので、いろいろなことをやってみてほしいですね。
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