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コミュニティでフットサル女子をブランディング!ULVOが社会に生み出す価値
駅前のビルの屋上にコートがあるのも珍しくなく、ここ10年ほどの間でフットサルをやる環境というのは大きく増えてきたように思える。そして、競技としてではなく、交流のためのツールとしての選択肢の1つとしてフットサルは用いられるようになっている。
その中で女性が楽しむことに特化したフットサルコミュニティが“ULVO”だ。代表を務める山本美樹さんは大学時代にULVOを立ち上げ初心者でも楽しめるように女性だけの練習会や、あくまで“女子が主役”のMIXフットサルを開催したりしている。
しかし、この活動は単にフットサルを楽しむことだけが目的ではない。山本さんが描く未来について伺った。
進学の目的を冷静に考えたことが契機に
もともと小学校と高校でフットサルをやっていた山本さん。父親がコーチだったことからテニスも並行してやっていたというスポーツ少女だった。ULVOを興すことを考えるきっかけになったのは大学1年生の時に始めた予備校でのアルバイトだ。
「その予備校は第一志望に合格すれば良いんじゃない、大学は通過点にしかすぎないという考え方を持っていました。将来やりたいことがあって、それに必要なことを学ぶために大学に行くということです。でもほとんどの受験生がそこをわかっていないじゃないですか。私もその1人で。だから高校生と接する中で私自身も“なぜ大学に入ったのか”を考えるようになりました。」
青山学院大学経営学部に進学にした山本さんは学部の勉強を生かしたいという思いから、事業を興すことを志すようになる。そのために大学1年生の頃からボランティア、学生団体、起業セミナーなどに参加していき、事業の形を模索していった。
「私のやりたいことは私にしかできないと思っていたので。自分ができること、やりたいこと、世の中から求められていること、という3つが重なる部分。それってなんだろうと考えたら、フットサルをきっかけに世代間交流ができて、何のために働くのか、勉強するのか、ということを一緒に考え、気づきを生み出し、更に身体を動かしてリフレッシュできる場をつくることでした。
それを学生がやっている団体の活動という枠だけで行うのではなく、ビジネスとしてやりたいなと。当時は「女性 フットサル」で検索をしても、最後の更新が5年前の女子チームの検索サイトしか出てこなくて。女性がフットサルをやりたいと思っても、やれる場所が出てこないんです。それはチャンスと思いました。他にどこもやっていないんだったら、作ればいい。ここで私たちが仕掛けて、“女性フットサルといえばULVO”というのを確立できれば、あとから何でもできるとなって、始めたんです。」
一番初めに行ったのは中高生30人と大学生・社会人30人、計60人の女性を集めたフットサル交流イベント。各世代を混ぜるような形でフットサルをやった後、そのまま場所を移動して、グループワークを行った。その時の写真を見返して気づいたのは“フットサル女子はかわいい”ということ。ポニーテールの女性が楽しみながらフットサルをする姿に可能性を見出した瞬間だった。
「今までフットサルとかサッカーの業界にプレーする女子の姿が可愛いみたいな文化がなかったから、それを作ってしまおうと。そういうブランディングをして、女性という切り口からフットサル業界を変えようと思いました。イベントをやり始めてから本当にいろんなことに気づいていって、業界自体に改良の余地はあると思いました。だからULVOは女性という切り口からフットサル業界の課題も解決していこうと思っています。」
ULVOが解決できる、業界の問題点
現状、フットサルに限らず、スポーツをする場を広げていく活動は個人の有志が企画して行っていることが多いが、業界もフットサルに外から人を入れる施策をもっと行っていく必要があると山本さんは語る。
「コート、アパレルメーカー・ブランド、メディアもそうかもしれないですけど、結局フットサルをやっている人向け視点でのコンテンツが多いんです。今フットサルをやっている人たちを市場の中で取り合いをしているから、裾の尾を広げないと。実際それで潰れている会社やコートもありますからね。フットサルに興味がない人たちをいかに入れていくかが重要だと思うんです。」
その点、ULVOは女性のフットサル参加へのハードルを低くしているという点で業界の問題解決に貢献していると言えるだろう。
ではフットサルに入ってきた人にいかに持続的に関わってもらうか。ここについては業界内の人材育成に問題があると山本さんは指摘する。
「例えばフットサルコートのスタッフで個人フットサルを回す人がいますが、中には前日にアルバイトで採用されて、業務に入っている人がいたりして、研修がないところもあるんですよ。時間を計ってチーム分けをするだけだから簡単だと思っているのかもしれません。でもホスピタリティの考え方を持って、人を楽しませるというところまでやらないと。普通の飲食店だったら潰れてしまいます。
今フットサルの人口が減っているのは、10年前に盛り上がりを作っていた30代の人たちが40代になって、家庭を持って、あまり土日に来られなくなり、辞めていっているから。その一方で今20代の人たちが入ってこようとしているところで雑な運営をされたら、楽しめなくて定着しないですよね。
そのわりにどこでも“初心者歓迎”と書いてあったりして、でも実際のところは経験者ばかりで殺伐としている、ということはよくあります。そうなるとフットサルはやりづらいと思われてしまいます。」
一度しかない“初めて”という機会を最大限に楽しんでもらい、フットサルに人を定着させられるかはすでに業界の中にいる人物の手にかかっているのだ。
「『フットサルをしたい』というのは、あくまで目に見えている顕在的ニーズなんです。でも、ULVOのメンバーになぜフットサルがしたいのかを掘り下げてみると、友達がほしい、身体を動かしたい、誰かに会いたい、ULVOに来たら褒めてもらえる、といった声です。別にフットサルがしたいわけではないんですよ。その見えない潜在的ニーズに働きかけるようなサービスをしたいんです。だから運営の時も気をつけていることはたくさんあるし、この子は何を求めて今日ULVOに来たんだろうというのは、すごく考えます。
うちの練習会は10人も集まらない時もありますけど、リピートしますからね。人数が少なければ私も一人一人に教えられますし。『先週より上手くなってるじゃん!』『新しいウェア似合ってるね!』と声をかけてあげたり、一緒にお買い物行ったり、そういうところが大切なんですよね。もっとスポーツ業界はその辺りを工夫したほうが良いと思います。」
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