• HOME
  • 記事
  • その他
  • 佐藤壮(ラクロス女子代表監督)が語るチーム作り。競技力の前に、人間力。

佐藤壮(ラクロス女子代表監督)が語るチーム作り。競技力の前に、人間力。

日本代表の条件、リーダーシップとは

-大学ごとにラクロスのスタイルは異なり、社会人の選手もいる。そういう状況の中で日本代表のメンバーを決めるのは大変では?
代表メンバー決めの時に『リーダーシップのある選手』というのを条件として挙げていて、オープンにしていました。リーダーシップというと広義の意味になるのですが、代表活動で使っていた定義があります。それが“いつでもどこでも自分の考えや行動で組織に新しい良い影響を与えられる人”というものです。だからこそ、日本代表の選手は絶対にビジネスでも活躍できると確信してます。

-それが1番の条件ということなんですね。
それは最低条件ですね。内部で募った不満が外部に漏れることもあるんですよ。代表チームというのはどこもそうなのですが…。ただ、それは完全に社会性の問題じゃないですか。加えて、自分が出られない妬みからくるものもありました。ただ、そういう人は選ばなければ良い話であり、そういう意味も込めて“リーダーシップのある選手”という基準があったんです。

戦略の話をすると、日本の選手は海外の人に比べたら技術的に下手なんです。もっと成長してかなければいけない段階にあります。だからこそ、成長していくことや、皆でチャレンジすることに対して積極的になれる子の方が今回の代表メンバーにはふさわしいという考えがありました。ただ、今の状況を考えた上での選考基準なので、20年後に日本代表の監督をやるとなったら、異なる基準で選手を集めると思います。

-代表監督は、大学のコーチと全く異なりますか?
全然違いますね。国内で立教大学のコーチをやっていれば勝てる試合は多いですが、世界に行ったら強豪と言われるチームにはほぼ勝てない。その勝てない試合を何試合も連続でやるんです。20日間毎日同じメンバーで、その20人と同じ生活空間で共に過ごさなければいけないんですよね。多分珍しいと思いますけど、そのことを重視しています。

-社会人の選手が面倒を見てあげるというような雰囲気なのでしょうか?
そこでリーダーシップという言葉が重要になります。リーダーシップというと、「俺についてこい」というように引っ張るイメージを皆さん持つと思うんです。“誰しもが自分らしく能力を遠慮せず発揮すること”がリーダーシップだと、僕は考えています。世の中には無駄な人なんていないんですよ。絶対それぞれの人間に価値がある。その価値を素直に出してくれることがリーダーシップだと考えています。そういう意味では、学生だからとか社会人だからとかは、関係ないですね。

例えば年長者なりのリーダーシップは勿論あると思います。新しく入ってきた人に対して手厚くサポートをするとか。
皆に「こういう風にやろう」「こうやるのはどう思うか?」「何か質問ある?」と聞いたときに、聞きたいのに聞けないことってあると思うんですよ。そのときに、一番わかってない子や下級生に「分かる?」と聞けるような選手がいることは素晴らしいリーダーシップだと思っています。同様に分からない事を分からないと素直に言える事も素晴らしいですね。

-色々なカラーの人が集まって形成されているということでしょうか?
そうですね、それが代表じゃないですか。
例えば代表でなく、クラブチームレベルだと「クラブチームで一緒にやってる理由は何なのか?」という部分の擦り合わせが弱いと感じることがあります。ゴールセッティングが弱い。多分、“勝ちたい”という部分になってくると思うのですが、それを目標にしていたら、そこは絶対に擦り合わないですね。自分たちそれぞれのやり方で勝ってきた人達の集まりなので、そういうチームが勝ってるとそのクラブ、そのスポーツのレベルが上がらないです。

佐藤壮監督

信頼をいかに集めるか

-立教大学で長年教えていらっしゃいますが、コツとかモチベーションupで意識されてるところありますか?
立教大学は一番特徴もありますし、方策もたくさんあります。なので、立教大学の女子ラクロス部の一番の目標は日本一になることではないです。「目標はなんですか?」と聞かれたら、皆「日本一」と答えるんですけど。先ほど話した成果目標です。

日本一になった時の状態が結構重要だと思っていますね。日本一になったプロセスが他のことに流用できないようなやり方では意味がないと考えています。
1人のトッププレイヤーで勝つというのは意味がないですね。理想なのであくまでも目標は。目指してることは、“社会で活躍する女性を輩出すること”と“ずっと強い立教”という2つです。それはずっと変わらないチームの理念です。

-立教大学のような200人の部員がずっと続けられる環境を作るコツはありますか?
日本代表と立教大学でコーチしてるのはスタイルが違います。日本代表はトップの選手たち30人、40人を触ればいいんです。でも。200人を触ればいいということは全然違いますよね。コアなお客さんを笑わせればいいのと全てのお客さんを笑わせなきゃいけないという。

-立教で教えるときの方が気を使ったり、考えたりするのでしょうか?
どっちもどっちですよね、やっぱり。より深くとか目的を教えなければならないので。ただ一緒ではないです。

立教はホワイト部活と言いますか、辞めてしまう人が少ないんですよ。辞めてしまう理由というのは、結構簡単だと思っていて、承認されないことが原因だと思っています。なので、一人一人が承認されるように必要な立場を作るといったことをしています。上手い下手とかやる気があるないではないですね。承認欲求を満たしてあげられる場所をつくってあげることが大切だと思っています。

-そのチームで勝つからこそ意味があるということですか?
それが目標なんですよね。より難しいことをやろうとしているのは皆理解してます。

毎年ファイナル4に出続けるのが一番出さなければいけない成果目標です。それは、皆認知しています。それがずっと強い立教なんです。「ずっと強いレベルとは?」と言ったら関東のファイナル4にずっと出続けること。
「社会で活躍することとは?」と言ったら、その答えは大学4年間でもいいし、社会に出てからでもいいので自分で見つけて活躍しようということです。

佐藤壮監督

-200人の女性の組織で指導するにあたって、意識しているようなことはあるのでしょうか?
特定の選手としか、一緒に飲みに行かないとか。ある一定のラインは引く。その個人個人にあった「当たり前」を作ってあげることは意識しますね。性格・見た目と外的要素・内的要素問わずです。

-学生たちが「教えてもらいたい。」と言ってみんなでお金を集めてコーチに指導を頼むことが多いラクロスですが、この信頼感を深めることは簡単ではないと思います。
色々な方法があると思うのですが、僕の場合は選手にある程度満足度を与えられているからだと思います。

ここで1つ大事なのが「勝つ」というところだけに主眼を置いているチームだと結構大変です。『この人のこと嫌いだけど、勝っているから変える理由がない』ということで、常勝時代は監督が変わらなかったりする場合、チームが崩れたら即退任ということも多いです。特定の代を贔屓して教えていた場合はその下の代が一番上の代になった時に解任されるコーチも多い。そうなってしまうと長期的な視野に立って強化ができないという悩みが生まれてしまいます。指導者資格を作って、継続的にコーチできる資格がある人であれば簡単に変えられない。そして、変えられないためにはどうしたらいいかという部分を考えるのも必要だと思っています。最近、資格制度の動きを始めている背景でもありますね。

-チーム作りに感銘を受けることが多いです。海外のチームと戦ったことによって考えが変わったということなのでしょうか?
はい。変わりました。というか「変化」ということがとても大事だと思っているんです。
指導者として、「ずっと同じこと言ってるよね」と言われていたらいけないと思っています。その間に選手は絶対成長してますよね。毎回変わってないと言われてたらニーズを捉えてない潰れるラーメン屋の典型じゃないですか?(笑)

だから初めて立教で優勝した時もやっぱり変わりましたし、09年度でヘッドコーチをやって海外で戦ったときも変わりましたし、今回も変わりましたね。今回のW杯の経験を経て確信に変わったというか。やっぱりグッドプレーヤーは大事で全部必要ですが、やっぱりグッドパーソンが大事だなというのは僕の中で確信に変わりました。

日本代表監督が語る、ラクロスの魅力

-今後、こういう風になりたい若しくはこういう立場を作っていきたいというようなご自身のビジョンは?
成長し続けることですね。学び続けること。そして、僕は他人に影響を与える人になりたいです。
例えば野球でいうところの野村監督ですね。ラクロス界だけに認められてる指導者ではなく、外から認められていかなきゃならないとダメだなと思っています。 -ラクロスの魅力とはどういったところになるのでしょうか?
「不完全」なことじゃないでしょうか。変革ができること。そこが一番の魅力です。正解がないので、全部正しくもあって、全部間違ってもいます。だから、様々な取り組みができるところが、一番の魅力だと感じています。競技的にも道具を使って、空中で小さなボールを操るスポーツはあまりないですし。ラクロスは、面白いスポーツだなと思います。

関連記事