サッカー『アスレタ_CDBベルクロシューズ』

今年はコロナ禍の影響もあり、いつもとは違うシーズンとなってしまっているが、日本におけるプロを頂点とするサッカーの裾野は、近年さらに広がりを見せている。そしてJ.リーグはもちろん、ヨーロッパや南米といった本場の情報までキャッチアップできるような、独特なサッカー風土が育まれつつある。それはギアにおいても同様といえるだろう。

今回紹介するのは、アスレタのジュニア向けサッカーシューズ『CDBベルクロシューズ』。このアスレタは1935年にブラジルで誕生したブランドだ。ペレやトスタン、ジャイルジーニョ、リベリーノといったレジェンドたちを擁して、1958、62、70年とワールドカップを3回制覇したセレソン(ブラジル代表チーム)のオフィシャルブランドであったことでも知られる。ブランドネームの上に輝く3つの星はこの3回の優勝を表し、1国の代表のオフィシャルブランドとして、ワールドカップを3回制覇したのはアスレタのほかにはない。

そんな誇らしいバックボーンをもった『CDBベルクロシューズ』について話してくれたのは、アスレタの取締役である千葉哲哉さん。小学生時代からサッカーをはじめ、高校、大学とも全国制覇を経験。現在もシニアチームに所属して、週に5日はサッカーボールに触れるというプレーヤーでもあり、またアスレタを通じて、全国の数多くのクラブチームとのネットワークも築いている。

千葉さんがジュニア向けサッカーシューズと向き合うきっかけとなったのが、彼のネットワークの中で、おつきあいのあったジュニアチームの監督さんの話だった。「子供向けのサッカーシューズはクッション性がなく、はいている子供が痛がることが多い。それが故障につながることもある。それにサイズもどうして0.5cmピッチになっていないのだろう」。

今にしてみれば、その当時のジュニア向けのサッカーシューズは、まだ大人向けのオマケ的な存在だったのかもしれない。2016年からサッカーシューズも手がけていた千葉さんは、この監督さんの悩みに応えられるジュニア向けのサッカーシューズを作ろうと考えた。

輝かしい実績をもつアスレタだが、このジュニア向けサッカーシューズはちょっと勝手が違ったようだ。千葉さんはもちろん、サッカーのエキスパートたちにとっても、子供たちが感じる、シューズのはき心地を理解するのは至難のワザだった。もしもシューズについて、トッププレーヤーたちからの助言があったとしても、それがそのまま成長途中の子供の足に当てはまるとは限らない。

たとえば子供にとって、シューズのどの部分をソフトにしておいた方がいいのか、どの部分は硬くしても平気なのか? こういった大人のスタンダードとは異なる答えをもとめて、千葉さんは全国のジュニアチームの練習現場にみずから出向き、またスポーツショップと組んで試しばき会を行って、子供にとって、プレーしやすく、快適なはき心地のシューズの実像を追い求めた。

そして気づいたのは、単純に大人向けのシューズをダウンサイジングするだけでは解決にはならないということだ。その典型的な例がシューズのラスト(木型)。成人男性と比べて、小学校低学年くらいまでの子供の足は、ツマ先部分が扇型で幅広になっている場合が多い。

また土踏まずのアーチも形成されつつある段階にある。そのため大人向けのラストをダウンサイジングして制作したシューズでは、子供の足にとって望ましいフィット感は生まれない。成長途中にある子供が痛がるのも無理もない。

そこでアスレタはジュニア専用のラストを開発した。それはトゥに余裕をもたせてツマ先を包み込み、さらに指先に不要な圧迫感を与えないように高さをもたせ、土踏まずが十分に形成されていない状態でのアーチを想定した。その当時、ジュニア向けのスポーツシューズとしては画期的な試みだった。

もうひとつジュニア向けシューズとして気を配ったのがミッドソールだ。ミッドソールとは、靴底にあたるアウトソールと中敷きであるインソールの間にあるもの。クッション性をもたせることで、着地の衝撃を吸収、発散させる。これによって疲れにくく、故障を避ける役割も果たす、シューズにとっては重要なパーツだ。

千葉さんがこの『CDBベルクロシューズ』を手がけたころ、ジュニア向けのサッカーシューズには、このミッドソールを用いていないものも多かった。そのため足へのケアは不十分で、ときには型崩れを起こすこともあった。

さらにミッドソールを採用していても、土踏まずのアーチ部分を補強するパーツが省かれていて、その効果が十分に行き届かないこともあった。ラストの場合は大人用を単純に小型化したことがネックとなったが、ミッドソールは大人向けには必須のパーツでありながら、子供向けということからか、スルーされてしまったことが障害となっていた。『CDBベルクロシューズ』はEVAクッションを用いた本格的なミッドソールを採用した。

また子供たちが直感的に感じるはき心地にも苦心した。ベルクロテープや結ぶことが不要のゴム状のシューレースは、着脱が容易でありながら高い安定性も生み出す。たとえば足入れ部分もホールド感を重視するなら狭くしたいが、ストレスのない足入れを考えたら広く保ちたい。はき口の角度もはきやすさと耐久性を両立させなければならない。子供にとっての、快適なはき心地を得るためには絶妙なバランスが求められた。

こうして誕生した『CDBベルクロシューズ』は、サッカーを志す子供たちにとっては理想的なシューズとなった。同時にサッカーシューズとしての耐久性やはき心地のよさは、通学や普段ばきの靴としてのニーズも生み出した。そのためアスファルトのような硬い地面も想定して、アウトソールはやわらかめで、屈曲性も高められている。

結果として『CDBベルクロシューズ』は、サッカーをやっている、やっていないを問わず、自由に子供たちが動きまわることをサポートできるシューズとなっている。それはサッカー界が目指している、“誰もが・いつでも・どこでも”サッカーを身近に心から楽しめる環境を提供し、その質の向上に努めるという、グラスルーツのスピリットにもつながっているのかもしれない。

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