「思いだけでは限界がくる」明大サッカーマネジメントが切り拓く大学スポーツの未来
これまで数多くのプロ選手を輩出してきた名門・明治大学サッカー部が、大学サッカーを取り巻く環境改善やOB選手のマネジメント、セカンドキャリアの支援などを目的とした新たなプロジェクト『明大サッカーマネジメント』の発足を発表しました。
近年、注目度が増す大学サッカーの秘める可能性。また、最前線に立っているからこそ感じる課題にどう立ち向かうのか。チームを率いる栗田大輔監督、事務局を務める松村憲和氏にお話を伺いました。
栄光の裏で、消えない課題。
ー明大サッカーマネジメントを立ち上げた経緯を教えて下さい。
栗田:前任の神川(明彦)監督の時代から選手の頑張りにより、安定した成績も出せるようになり、プロ選手も増え、大学サッカーの中でも存在感が出るようになりました。
そんな中でも、指導者や選手を取り巻く環境は、良いとはいえません。僕は会社員でありながら、ボランティアとして監督を務めています。サッカーの指導だけではなく、日々の運営や、大学とのやり取りもあり、ピッチ内外でのマネジメントを総合的に行なっています。
コーチ陣も、朝練では5時ごろからグラウンドに来ています。サッカー部に関わる人は「“明治”のために」という思いや、「一生懸命プレーする学生の熱意に応えたい」という思いで活動してくれています。
サッカー部の活動を支えている“人”を取り巻く環境を整えない限り、10年、20年と良い活動を続けるのは難しい。継続してサッカー部が成長していくには、“思い”だけでは限界がきてしまいます。
指導者だけでなく、学生たち自身が負担するお金の問題もあります。学校からの補助はありますが、全てをまかなえる訳ではなく、学生の個人負担になっています。志が高く、明治に入りたい人が経済的な理由で道を閉ざされてしまうのは悲しいことです。
毎年、大学とサッカー部の強化について話し合いをしている中で、こうした課題を言い続けてきました。スタッフの生活基盤を作り、学生の金銭的負担を軽減してあげることが必要だと。
大学スポーツの課題について話す、明治大学サッカー部 栗田大輔監督
ーお金がないと持続的に回らない。一方で、大学スポーツではビジネスとしてお金を稼ぐことがタブー視されている部分もありますよね。
栗田:日本のスポーツは体育がはじまりで、もともとは教育です。スポーツをビジネスの対象として見る文化がまだありません。スポーツに関わる人たちが、しっかりと生活できて、社会的な地位を持つようにならないと、いつまで経ってもビジネスの場では「スポーツでしょ」と相手にされない。それは違うと思います。
ーそうした経緯から立ち上がった明大サッカーマネジメントですが、具体的な活動内容を教えてください。
松村:設立前に考えた7つの事業を、1年かけてかたちにしてきました。ひとつはセカンドキャリアの支援を含めたOB選手のマネジメントです。あとはスポンサー営業、5月に立ち上げたファンクラブの運営、講演活動で、今後は、商品・グッズ販売、地域への貢献活動や青少年育成へのアプローチを行なっていきます。
スポンサー企業による協賛の経緯や提供商品の説明・開発秘話の講演
<写真提供:明大サッカーマネジメント>
ーセカンドキャリアについては、選手に寄り添って就業機会を与えたり、キャリアに関する情報を入れたりと、選手が何か取り組みを始めたいときにサポートするのでしょうか?
栗田:他のサッカーチームにない取り組みとして、企業人である僕だからできる社会人教育があります。学生時代に社会人としての基盤ができていれば、プロで何年かプレーして引退しても、わずかなジョブトレーニングで思い出すことができます。学生時代に手に入れたスキルと、サッカー選手として培ってきた経験を掛け合わせることで、オリジナリティーのあるキャリアを作っていくことができます。
「“明治”のために」。ブレない共通軸の存在。
ービジネスという側面を考えると松村さんの存在は大きいのではないかと。明治大学に縁のなかった松村さんが、『明大サッカーマネジメント』に関わることになった経緯を教えていただけますか?
松村:前職は不動産業界にいましたが、「自分は何を一番やりたいのか?」と考えた時に、スポーツが浮かびました。広島が地元ですが、「おはよう」の前に「昨日、カープ勝ったね」という言葉が出てくるくらいスポーツが地域に根ざしているエリアで育ったこともあり、スポーツに大きな可能性を感じ、それに掛けてみたいと思いました。
栗田監督とは、早稲田大学のスポーツMBA Essence に通っていた時に、カリキュラムの一つとしてアメリカ研修へ一緒に行かせていただきました。私自身もスポーツビジネスがやりたいと考えていた中で、明治大学サッカー部の構想をお聞きし、ぜひ一緒にやらせて欲しいと伝えました。
栗田:身内だけの閉鎖的な空間だと、新しい考え方や発想が生まれません。自分たちの既成概念だけではなくて、第三者として俯瞰的な見方ができる、外部の血を持った人を入れるのは大事です。
松村さんはアメリカにいたときから発想が豊かで、仕事に推進力があったので明治の力になって欲しいと思っていました。そんな中で、松村さんの方から「明治で一緒にやらせて欲しい」と声を掛けてくれて、心強いけど、「お金は出ないよ」と(笑)。「まずは正当な報酬が与えられる環境から作っていこう」とお互いに意見を交わしました。
松村さんは明治大学出身ではないことに加えて、MBA(経営学修士)も学ばれていてビジネススキルも持ち合わせています。得てして小さい組織というのは属人的になってしまいがちですが、僕たちは一時的なノリではなく、「明治発、世界へ!」というビジョンを掲げ、継続して成長する一流の組織を目指しているので、僕がいなくても組織が回るシステムを作らないといけない。そうした仕組みを作る上で、明治やスポーツに縛られない松村さんの存在は重要です。
ー松村さんは、歴史も競技力もある組織に外様として入っていくプレッシャーはありましたか?
松村:始めはとても感じていました。ただ、プロジェクトへ入る前に実際に練習を見学させていただいて感じたのは、サッカー部に関わる人全員が「“明治”のために」と同じ方向を向いているなと。自分も同じ気持ちを持ってやれば、時間はかかるとしても認めていただけるんじゃないかと信じて活動していく中で、その不安はなくなりました。
立ち上げからここまで事業を作ってこられたのも、先ほど申し上げた「“明治”のために」という共通の軸があるからです。「学生のためになっているのか」「スタッフのためになっているのか」「明治大学のためになっているのか」「スポーツ業界のためになっているのか」という4つの判断軸を明確にしているので、ブレることもないですね。
明大サッカーマネジメントの構想に共感し、大学スポーツに関わり始めた松村憲和氏
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