坂本弘美(スポーツ庁)HIROMI SAKAMOTO Vol.3「スポーツが社会の課題を解決する」
スポーツ庁とSPORTS TECH TOKYOが共同開催する「INNOVATION
LEAGUE」は、スポーツを活用した日本の産業拡張を推進する取り組みとして始められた。
この「イノベーションリーグ」を先導するのがスポーツ庁の坂本弘美氏だ。システムエンジニア出身で、製造業のIoTやキャッシュレスの推進政策に携わった後、スポーツの成長産業化を推進する。
東京オリンピック・パラリンピックの開催を控える中、日本におけるスポーツがこれまで以上に発展するには、どのようなイノベーションが求められるのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
スポーツの最大の魅力は“熱量”
──改めて、坂本さんはスポーツが持つ力はどんなところにあると思いますか?
スポーツをビジネス面から見た価値は、同じ条件でも、同じ試合結果にならない「エンターテイメント性」、多くの人を集める「ハブ機能」、そして人が集まることによる「情報発信力」でしょう。スポーツが持つ力は、皆さんがそれぞれ思い浮かべる魅力があると思うのですが、私は特に、逆転などの予想外の展開をおこす「エンターテイメント性」を作り上げる人の“熱量”も魅力だと想います。
──その理由は?
まず、「エンターテイメント性」ですが、同じチームメンバーで試合をしても同じ試合結果にはなりません。私は、2020年7月に現職に着任しましたが、それまでスポーツはゴルフを趣味ではじめた程度、小・中学生の頃に少し空手を習った程度でした。そのため、システムエンジニアをしていた前職は、ラグビーチームがあったのですが、頑張っているんだなぁ程度しか思っていませんでした。しかし、2019年に行なわれたラグビーのワールドカップで日本代表選手の試合までのストーリーに感動し、感じ方が一変、テレビにくぎ付けになって応援していました。
次に「ハブ機能」です。スポーツを見るために数千から数万単位の人が同一の目的で一か所に集まります。そこには観戦に行って、見て、帰るというフェーズが存在し、それぞれにビジネスチャンスが存在します。そして「情報発信力」です。SNSが日常生活に浸透している現代において、情報は重要なビジネスツールです。情報を流す主体が抱える顧客が多い程、ビジネスに有利にはたらきます。例えば、商品の開発や改良に欠かせない消費者アンケートはどれだけ多くの人の意見を回収できるかがアンケートの精度を左右します。また、商品をアピールしたい時に多くの人に届けることが可能です。
この3つの価値を作り上げるのは、選手やスポーツを支える人の熱量であったり、選手の熱量に共感をするファンの熱量だと思います。バックグラウンドが大きく違う人たちでもスポーツは共通の話題になりますし、スポーツで感動したという経験を持っている人が多く、その熱量は皆が持っていると言えるのではないでしょうか。着任してから半年経ち、スポーツに関係している色々な方と意見交換をしたり、関係する人のドラマを聞く度に、その“熱量”を感じ、スポーツの可能性に魅力を感じ、もっと早くからこの世界に触れていたかったなぁと感じる事もあるくらいです。
──ただ、そうしたエンターテインメント性や熱量が生まれてきたスタジアム観戦がコロナの影響で難しくなって、選手がファンサービスをできないという状態にあります。それによってファンの選手に対するエンゲージが下がっていると聞きます。ファンサービスで選手とハイタッチしたり、サインをもらったりというのはライト層からコア層に変わるきっかけにもなっているのですが、そういった機会を作れていないというのは大きな課題となっています。そこをテクノロジーで解決できる部分はあるのか気になるところです。
デジタル上で選手とファンをつなぐというのは今の技術的にはそれほど難しくはありませんし、そうした交流はすでに行われているので、今後は付加価値をどうやって付けるか、スタジアムに来ることができないライト層を、どう交流の場に促していくのかが課題になるでしょう。ファンのエンゲージメントをどう高めるか、つまり、熱量をどうやって生み出すかはスポーツを支えるという面でも重要だと思います。
スポーツを通じた社会課題解決
──“他にどのようなイノベーションを期待されていますか。
川崎フロンターレは、ホームスタンドの清掃員などとして、障害者の人たちに就労体験の場を提供する試みを行いました。また、先日アメリカのアマゾン社がシアトルにある「キーアリーナ」のネーミングライツを取得しました。ただ「アマゾン・アリーナ」にはせず、「Climate Pledge Arena(気候誓約アリーナ)」という名前にしました。二酸化炭素排出量の実質ゼロにむけた気候変動対策の取組に対してお金を出したという事例です。これまでのスポンサーシップは企業の露出を増やすための投資でしたが、次のステップとして企業価値を高めるための取組に対して投資をする動きがあります。社会貢献活動へのスポンサーになることで、社会を変えるために投資をする企業だというメッセージを発信することや、ブランディングにもつながっていくと思います
──今後高齢化社会がさらに進んでいく中で、医療費を抑制するためにも運動習慣をつけることは重要になってくるはずです。
今後は高齢者だけでなく、若い世代でもテレワークなどで運度不足になるので、その運動習慣というのは大事になると思います。スポーツ庁では、一人一人が自然にスポーツを楽しみ、スポーツを通じて健康になったり、一人一人の活力ある生活を後押しする「Sport in Lifeプロジェクト」と銘打ったキャンペーンを展開していて、自治体・スポーツ団体・経済団体・企業などが一体となり、スポーツ参画の促進を目指しています。
──来年は延期になった東京オリンピック・パラリンピックが控えています。それ以降のスポーツ界がどうなるのかも非常に大事になってきます。
おっしゃる通りです。東京オリンピック・パラリンピックに向けて、スポーツへの注目度、機運が高まります。それを、東京オリンピック・パラリンピック前までの一過性のものにしないためにも、今から勢いをつけて、スポーツが持つ可能性を広げていきたいと考えていまおり、その取組の一つが「イノベーションリーグ」です。「コンテスト」は年明け1月7日まで応募受付していますので、皆さんからの応募をお待ちしています。これまでにないアイデアや事例、連携のかたちなどがたくさん生まれてくると思っています。“熱量”を持って、スポーツで「未来」を創っていけたらと思います。
Vol.1「スポーツの可能性を“拡張”していく」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fd86fd068fb600fd87c6392
Vol.2「地域の取り組みにもフォーカスしたい」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fd871de1f153d354e01b7e2
■プロフィール
坂本弘美(さかもと・ひろみ)
スポーツ庁
参事官(民間スポーツ担当)付 参事官補佐
東京大学大学院を卒業後、NTTコミュニケーションズ(株)にシステムエンジニアとして就職。その後、2016年3月に経済産業省に入省、製造産業局にて製造業のIoT推進政策に携わる。2018年10月から同省 商務・サービスグループにて、主に中小・小規模事業者や自治体へのキャッシュレス推進政策に携わる。2020年7月より現職、スポーツの成長産業化に取り組む。
INNOVATION LEAGUE(イノベーションリーグ)とは
スポーツ庁が取り組む「スポーツオープンイノベーションプログラム(SOIP)」と、スポーツテックをテーマとしたグローバルアクセラレーションプログラム「SPORTS TECH TOKYO」がタッグを組み開催する スポーツイノベーション推進プログラム。プログラムは大きくふたつ。スポーツビジネスを拡張させる「イノベーションリーグ アクセラレーション」と新しいスポーツビジネスを讃える「イノベーションリーグ コンテスト」。「イノベーションリーグ アクセラレーション」 では、コラボレーションパートナー(実証連携団体)として公益財団法人日本バレーボール協会と3×3. EXE PREMIERもプログラムに参画。テーマ設定をはじめ、プログラムの中で採択されたテクノロジーや事業アイデアの実証において連携を行っていきます。
「イノベーションリーグ コンテスト」は今年初開催。スポーツやスポーツを活用した新しい取り組み・優れた取り組みを表彰いたします。
公式サイト
https://innovation-league.sportstech.tokyo
SPORTS TECH TOKYOとは
スポーツテックをテーマとした世界規模のアクセラレーション・プログラム。第1回開催時には世界33ヶ国から約300のスタートアップが応募。スタートアップ以外にも、企業、スポーツチーム・競技団体、コンサル、メディアなど多様なプレイヤーが参画。事業開発を目指すオープンイノベーション・プラットフォームでもある。
公式サイト
https://sportstech.tokyo/?ja
■クレジット
取材・構成:上野直彦、北健一郎
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