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サッカークラブが増えすぎると、一番困るのは誰なのか?(えとみほ)

UPDATE 2022/01/13

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Jリーグ「栃木SC」マーケティング戦略部長を務める江藤美帆さんの連載コラム。今回のテーマは「サッカークラブ増えすぎ問題」です。

現在Jリーグは、J1、J2、J3合わせて58クラブがあります。さらにJリーグへの加盟を目指すクラブは100クラブ以上存在しており、今後もJリーグ参入クラブは増えていくでしょう。

全国に「おらが町のクラブ」が増え、身近に憧れの存在がいることで子どもたちに夢を与えるだけでなく、地域の人たちの生活に活力を与え誇らしい気持ちを持ってもらえる機会は増えました。

しかし江藤美帆さんは、サッカークラブが増えることには、良い面だけでなく悪い面もあるのではないかと言います。実際に、クラブ数が増えることでどのような問題が起きるのでしょうか?

■クレジット
文=江藤美帆

■目次

ある日届いた知人からのDM
クラブが増えるとなにが起こるか
一番苦しむのは誰なのか
「Jリーグ入りを目指す」+アルファの存在意義があるか

ある日届いた知人からのDM

先日、知人からこんなDMが届いた。

『新しくサッカーチーム作りました!
もし良かったら応援、拡散していただけると嬉しいです!』

小一時間悩んで、私は「ごめんなさい!」と返信した。支援できない理由はいくつかあるのだが、一番の理由は私自身がこれ以上日本国内にプロサッカークラブが増えることに、ポジティブな印象を持っていないことだった。

このDMをくれた知人のことは個人的には今後も応援していきたいと思っているし、彼が作るクラブなら面白そうだという気持ちもある。ただ、自分の信条として「無責任に背中を押す」ということもしたくはなかった。

断腸の思いで下した結論だった。

クラブが増えるとなにが起こるか

サッカー好きな人間の一人として「チームを作りたい(持ちたい)」という気持ちは、とてもよくわかる。私もサッカークラブで働き始める前は、「自分だったらもっとこうするのに!」という思いをずっと持っていたし、それを仲間とやいやい言うのが楽しかった。

普通はそこで終わってしまうものだが、世の中には恐ろしい情熱と行動力の持ち主がいて、実際に自分でサッカークラブを作ってしまう人が出てくる。今回のDMをくれた知人だけでなく、私の知人にも何人かそういった人たちがいる。

ちなみに、現在Jリーグの加盟を目指すクラブはWikipediaによれば全国に100クラブ以上ある。Jリーグのクラブと合わせると約160クラブ。薄々気づいてはいたが、こうして数を調べてみるとその多さに愕然とする。

確かに、スポーツ不毛の地に「おらが町のクラブ」ができることは素晴らしいことである。たとえば、私の生まれ育った富山県には以前はプロスポーツクラブがなく、私は高校を卒業するまでプロスポーツを観戦したことがなかった。それが、地元にJリーグやBリーグのチームができ、今では県外に出なくてもプロの迫力あるプレーを生で見られる。

身近に憧れの存在がいることで、子どもたちに夢を与えるだけでなく、地域の人たちの生活に活力を与え誇らしい気持ちを持ってもらえる。それこそがスポーツの持つ力だと思う。

しかしその一方で、プロスポーツクラブが増えすぎることによる弊害もある。ざっくり言うと、限られた「パイ」をたくさんのクラブで分け合うことになるので、クラブ数が増えれば競技全体のファン数は増えるけれども、1クラブあたりの「取り分」が減ってしまうという問題である。

では、その限られた「パイ」とは何かというと、パートナー(スポンサー)とファン・サポーターである。皆さんもご存知のとおり、日本の総人口は2008年をピークに減少に転じており、現在も減り続けている。そんな中で、グローバルに開かれていないビジネスは、この限られた「パイ」を皆で分け合うしかなくなってしまうのだ。

もちろん、現在でもサッカーに興味関心がない人は多数おり、そういった人たちを巻き込めば市場が拡大する可能性はある。クラブ数が増えても分け合う分母が増えれば問題はないのだ。その夢にチャレンジすることには価値があるだろう。

ただ、ここでサッカークラブ特有の問題が生じる。サッカークラブというのは、たくさんの人たちの「思い」を乗せて走る船なので、そんなに簡単に「ダメだったのでやっぱりやめます」というわけにはいかないのだ。

一般企業に比べるとステークホルダーの数が桁違いなため、どんなに辛くても、苦しくても、「絶対に潰してはいけない」というプレッシャーがクラブ経営者の肩には重くのしかかるのである。

そして、このままの市場規模でクラブ数だけが増え続ければ、いずれ必ず消滅するクラブが出てくる。それで悲しむ人の姿を見たくないのだ。

一番苦しむのは誰なのか

しかし、私がクラブ数が増えることに懐疑的なのは、これまで述べたことが一番の理由ではない。最も問題だと思っているのは、このしわ寄せが選手にいくのではないか、という懸念である

クラブ数が10クラブしかなった頃のJリーガーは、知名度的にも、収入などの待遇やその暮らしぶりにおいても、まさに「スター」といえるような存在だった。引退後もタレントに転身したり、サッカー界に残って指導者になったり、解説をやったり、サッカースクールを立ち上げたり、「元Jリーガー」というブランド力を生かして様々な道に進むことができた。

しかしいまやJリーガーは、単純計算でリーグ開幕当初の6倍近くいるのである。単純に希少性の観点だけで言うと、数が増えれば増えるほどブランド力が低下の一途をたどるのは必然のように思う。

そしてもう1つ私が問題だと感じているのは、選手が自身のキャリアに限界を感じてもスパっと辞められないという点である。

プロクラブが少なかった時代であれば、行先は限られるので、どこからもオファーがなければ、そこで引退という道を選ばざるをえなかった。しかし、今のようにクラブ数が増えると、カテゴリを落として選手を続けることも可能になる。

選手の引退年齢については計測が難しいため公式な統計がないのだが、Jリーグで26〜27歳、JFL以下で32〜33歳という情報をどこかで見かけたことがある。つまり、単純に考えればクラブが増えることで引退の平均年齢は上昇するのだ。

本人がサッカーを続けたいと思っているのだから、それでいいじゃないかと思われるかもしれない。私もそう思っていた。しかし、満足な貯金ができるほどの報酬をもらっていたり、引退後の道が約束されているようなレジェンドでもない限り、年が上がれば上がるほどセカンドキャリアへの道は険しくなる。この現実は忘れてはならない。

昨年、SSNでも「若い選手に求めたい「使い捨てられない」ための覚悟。」という記事が話題になったが、実際のところセカンドキャリアにおいて大きな努力を要するのは、高卒ですぐに見切りをつけられた(つけた)選手ではない。

私の知る範囲では、そのくらいの年齢で引退した選手は、大学に進学したり第二新卒扱いで就職したりしていて、さほど問題なく次の人生をスタートしている。苦労するのは、それができなかった選手たちなのである。

「Jリーグ入りを目指す」+アルファの存在意義があるか

ひたすらネガティブな話をしてしまったので、ポジティブな話もしたい。

実は、新しいサッカークラブの中で、私がその存在意義に共感しているクラブが2つある。それが、「南葛SC」と「クリアソン新宿」である。

この2つのクラブもJリーグ入りを目指すクラブではあるが、選手たちはただサッカーだけしていればいいというわけではなく、フロントスタッフとしての業務を兼務していたり、クラブが紹介した先で社会人として就業をしている。社会人としてのキャリアを積みながら、サッカー「も」本気でやるというスタンスである。

こういったスタイルは珍しいものではなく、むしろJリーグができる前の企業クラブでは当たり前のことだった。ただ、昔の企業クラブと違うのは、企業クラブが会社の宣伝広告やイメージアップのために存在しているのに対し、上記の2つのクラブは、企業主体ではなくあくまで中心にあるのがサッカーであり、選手である、という点である。

サッカー業界における社会課題とも言える選手のセカンドキャリア問題に真っ向から取り組むこと。それは、実は既存のJリーグクラブにはとても難しい。

なぜなら、昇降格があるので、なにをおいてもまずは「勝利」に意識をむけなければならないからだ。選手にはなるべくサッカーに集中してもらい、良い戦績を残してもらいたい。そうならざるを得ないのである。

上記のクラブを含むいくつかの新興クラブは、そういった事情を理解したうえで「Jリーグクラブにはできないこと」を存在意義として掲げており、実際にその理念に共感した元Jリーガーが集まってきている。もちろん、理念だけでなくそれを裏付ける経営母体があることも重要だ。

つまり、新しいクラブを立ち上げること自体が悪いわけではなく、既存のクラブにはない「存在意義の有無」がクラブの存続において重要なポイントになるのだと思う。それは、既存のJリーグクラブにとっても無関係な話ではないだろう。

■プロフィール
江藤美帆(えとう・みほ)

Jリーグ「栃木SC」マーケティング戦略部長。外資IT企業などを経て、広告代理店在籍中にSNSマーケに特化したWebメディア「kakeru」を立ち上げ初代編集長に就任。「インスタジェニック」などのトレンドワードを生み出す。その後スマホで写真が売れるアプリ「Snapmart」を開発。上場会社に事業譲渡後、代表に就任。2018年5月より現職。

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