Smart Sports News

古橋亨梧は、イニエスタに「パスを出させて」いる。元フットサル代表がガチ分析

UPDATE 2021/10/22

  • SHARE

日本サッカーには今、注目すべきFWがいる。

古橋亨梧だ。

2021年8月、名門・セルティックに移籍後、初先発した試合でいきなりハットトリックを達成した。170センチ・63キロ。小柄な彼は「ゴール」という結果で存在価値を示した。

J1・ヴィッセル神戸でプレーした直近の4年間は、95試合・42得点。サイズがあり、屈強な相手と対峙しながら、彼はなぜ、ゴールを量産できるのか。その技術の真髄を分析する。

■クレジット
文=渡邉知晃(ライター/元フットサル日本代表)
写真=浦正弘

■目次
古橋を突出させる「引き出し力」とは
「自分に出せば、得点の可能性が高い」と思わせるチカラ
イニエスタにパスを“出させた”動き出し
J2・FC岐阜から3年半で海外挑戦

古橋を突出させる「引き出し力」とは

答えを先に言おう。

それは、「引き出し力」だ。この表現を「動き出しの質」という観点から分析していく。

彼は、得点のほとんどをワンタッチもしくはツータッチで決めてきた。実際に、セルティックのデビュー戦で挙げた3得点もすべてワンタッチだった。

一発でゴールを奪うための条件は主に2つある。

・パスを受けた際にシュートエリアにいる
・なおかつ、シュートを打てる体勢である

つまり、ボールを受ける前の動きと、受けた際の体の状態が大事なのだ。これを言い換えたものが「動き出しの質」であり、良いFWであるために不可欠な技術とされている。

ゴール前は、戦場だ。

だからFWは、戦いに勝つために、ディフェンスの圧力がもっとも強まる場所でフリーとなり、シュートを打てるポジションでボールを受けることを、常に考えて動き出す必要がある。

・瞬時にスペースを見つける力
・最適なタイミングの取り方
・相手ディフェンスとの駆け引き etc

一言で「動き出し」と言っても、重要な要素はたくさんある。そのなかで、古橋が特に優れているのが「引き出し力」である。この能力とは、なにを意味するものなのか。

時間が許すならば、ぜひ映像を見てから読み進めていただきたい。

■【神戸/古橋亨梧|2021プレー集】
(引用:DAZN

「自分に出せば、得点の可能性が高い」と思わせるチカラ

見てもらえば明らかだが、引き出し力に優れる古橋は、パスの出し手とのズレが少ない。通常、FWがボールを受ける際は、パスの出し手との間にズレが生じてしまうものである。出し手と受け手が意思疎通を図り、タイミングを合わせるのは、決して簡単な作業ではないのだ。

パスの出し手は、複数の選択肢から最適解を導き出そうとする。ドリブルか、シュートか、パスか。最優先事項である勝利のため、ゴールを奪える可能性がもっとも高いルートをイメージし、選び取る。その作業において、選択権は常に「ボールホルダー=出し手」にある。

その際、得点を期待される「FW=受け手」は、自分へのパスを選択してもらおうと考えている。そこで必要なのが、自分へのパスが「よりゴールの確率が高い」と思わせることだ。

FWは「そこに出せばゴールにつながる」と出し手に感じてもらうために、イメージを共有し、なおかつ「出しやすい場所」に動き出す必要がある。瞬時の判断と決断が求められる試合において、それはコンマ数秒の世界である。極端に表現するなら、出し手がパスを“出した”のではなく、“出させられた”と感じるような動き出しこそ、理想的なアクションだと言える。

そしてこれこそが、古橋のスペシャルスキル「引き出し力」である。

イニエスタにパスを“出させた”動き出し

古橋の「動き出し=引き出し力」は、本当にハイクオリティだ。

神戸時代、彼はイニエスタからのパスで何度もゴールを挙げた。そのことがすなわち、古橋の質の高さの証明だと言える。

イニエスタはもちろん、誰もが知るゲームメーカー。チャンピオンズリーグを制したバルセロナでも、W杯で優勝したスペイン代表でも、司令塔として君臨した。世界有数の戦術眼を備え、パサーとしての技術も他の追随を許さない彼は、常にピッチで最適解を見つけ、最適な選択から数多くのゴールを演出してきた。

そんな彼をして「僕らはテレパシーのような関係」と言わしめたのが、古橋である。

世界的な名選手に認められた男は、ある意味で出し手を選ばない。セルティックへと移籍してから瞬く間にゴールを量産したことが、それを物語っている。

通常、移籍先のチームメートとの意思統一やコンビネーションの構築には多くの時間を要すものである。日々のトレーニングでコミュニケーションを重ね、少しずつ味方とすり合わせていくものなのだが、古橋はその作業を十分に行なう前から、出し手にパスを“出させた”のだ。

強豪リーグを戦う世界水準の出し手は、FWの生かし方を知っている。時間をかけて熟成させる前であっても、イメージを共有できる動き出しの良い選手がいれば、すぐに適応してパスを出せる。つまり、いきなりゴールを量産した古橋もまた、世界水準だったという証である。

J2・FC岐阜から3年半で海外挑戦

「動き出し=引き出し力」とはなにか。大事なことなのであらためて伝えておこう。

・置かれている状況で最適なスペースを見つけ、
・一番ゴールにつながる可能性が高い場所に、
・出し手が出しやすいタイミングで動き出すこと

2016年、一度はプロになる夢をあきらめかけた中央大学時代、いくつものJクラブに練習参加し、最後の最後につかみ取ったのがJ2・FC岐阜との契約だった。

1年半で68試合・17得点。2018年、シーズン途中に鳴り物入りでJ1に舞台を移し、ゴールという結果を残し続けて3年半で海外挑戦。1995年生まれの26歳は、すでに日本代表の常連にもなった。もともと、卓越したスピードを武器に持っていた彼は「引き出し力」を磨いて、日本有数のストライカーへ上り詰めようとしている。他の誰よりも今、注目すべきFWである。

そして最後にもう一つ、大事なことを。

パスを引き出したのち、ゴールを決め切るシュート技術も見逃せない。得点力もまた、日本サッカー界を駆け上がる古橋が備えた、スペシャルスキルであることは間違いないだろう。


■プロフィール
渡邉知晃(わたなべ・ともあき)

1986年4月29日生まれ。福島県郡山市出身。小学2年生からサッカーを始め、順天堂大1年時まで続けたが、2年時にフットサルに転向。フットサルサークル「GAZIL」でプレーしながら、BOTSWANA FC MEGURO(現フウガドールすみだ)に加入。その後、ステラミーゴいわて花巻、名古屋オーシャンズ、府中アスレティックFC(立川・府中アスレティックFC)、大連元朝足蹴倶楽部(中国)でプレー。国際Aマッチ59試合出場・20得点(日本代表)、Fリーグ2017-2018シーズン得点王(45得点)、通算323試合出場・201得点など、日本有数のピヴォとして数々の実績を残し、2020-2021シーズン限りで現役を引退。子どもへの指導のかたわら、執筆業にも挑戦中。

Twitterアカウント
渡邉知晃

  • SHARE