世界中でバズっている「NBA Top Shot」ってなに？｜第1回「NFT」中編
今年の春、「NBA Top Shot」がNFT界隈の盛り上がりに拍車をかけていた。
NBAの人気選手や過去の名場面を収めたデジタルトレーディングカードが、高額で取引されている。デジタル化されたトレーディングカードが高騰し続けているという前代未聞の状況に、バスケットボールファンのみならず世界中の投資家たちがこの波に乗り、価格は一気に高騰した。NFTブームを牽引するサービス「NBA Top Shot」とはいったいなんだろうか？
中編：世界中でバズっている「NBA Top Shot」ってなに？
後編：チリーズ（Chiliz）が描くファンマーケティングの未来
助手：上野所長！ 聞いてください！ この「NBA Top Shot」っていうのがすごいみたいなんです！ 所長はご存知ですか？
所長：おお、目次くん、いいものを発見してきたね。もちろん知っているよ。というか、何枚か持っているからね。
助手：早い！ さすが所長！ 前回、所長に「NFT」について教えてもらったじゃないですか。だから、私も調べてみようと。そしたら見つけたのが「NBA Top Shot」。所長、もっともっと教えてください〜。
所長：うんうん、勉強熱心でなにより。それじゃ「NBA Top Shot」について解説していこう。ほたるくんは、NFTのことをちゃんと覚えているかな？
助手：もちろんです！ NFTは「ノンファンジブル・トークン（非代替性トークン）」の略で、デジタル上の資産なんですよね！
所長：素晴らしい、よく覚えていた！「NBA Top Shot」はブロックチェーンゲームで有名なDapper Labsがつくった、NFTのサービスなんだ。簡単に言えば、トレーディングカードのデジタル版だね。NBAの人気選手や試合での名場面などを撮影した短い動画がデジタルカード形式になっていて、コレクションできるんだ。カードはサービスのなかで自由に売買できる。パッケージの希少性によって、販売価格も全然違うんだ。
助手：へぇ、面白いサービスです！ でも、どうしてわざわざNFTの技術を使っているんですか？
所長：NFTの特徴が関係しているよ。前回話したNFTの大きな特徴を覚えているかな？
助手：えーっと「コピーや改ざんができないから、そのものが唯一無二のオリジナルだと保証できる」でしたっけ？
所長：そう！ つまり、NFTとして発行されたカードはブロックチェーンによって取引履歴などが記録されているから、カードが本物だと保証できるんだ。コピーや偽物が出回っている心配がないから、ユーザーは安心してカードを取引できるというわけ。 助手：なるほど！ カードゲームにNFTが使われるなんて思ってもみませんでした！
所長：デジタルのNFTだからこそ、カードの劣化がない。また、システム上でカードがどのくらい発行されているかわかるから、カードの希少性も可視化しやすいし、現在の所有者も分かる。ビジネスの面でも、NFTの有用性は極めて高いといえるね。
助手：ビジネス面ですか？
所長：前回も少し触れたけれど、ブロックチェーンの技術を使えば、すべての取引を管理・記録できるんだ。元本の保証という面でも優れている。そこで、NBA Top Shotでは販売・再販されるたびに取引額の5%がDapper Labsに手数料として納められるという仕組みがカード自体に組み込まれている。その内の一定の金額がNBAの団体にも振り分けられるんだ。ただのカードだったら、そうはならないだろう？
助手：たしかに、今までは発行されたカードが転売されたとしても、販売者側に手数料が入ることはなかったですよね。NFTの特徴がそんなところで大活躍しているなんて！
所長：そう。NFTのベースとなっているブロックチェーン技術の特性が生かされていると言えるね。
助手：ちなみに、売買されているカードって、1枚どのくらいの金額になるんですか？
所長：キミは本当にお金の話が好きだね……。
助手：だって！ 気になるじゃないですか！
所長：わかった、わかった（笑）。カードはそれぞれパッケージに入った状態で売られているんだ。パッケージには「Common」「Rare」「Legendary」など様々な種類があって、価格も全然違う。選手の人気度やカード自体の希少性によって価格は左右されるんだ。例えば「NBAのキング」と称されるレブロン・ジェームズ選手のカードは、1枚2000万円以上で取引されていた時期もある。他にも1000万円以上で取引されているカードがたくさん出てきた。
助手：うひゃー！ 2000万円……高級車が買えちゃう金額ですね……！
所長：ほたるくん、目がキラキラだよ（笑）。NBA Top Shot全体の売上は、なんとサービスローンチからわずか数カ月で2億ドル（約210億円）を超えたと言われる。まさにNFTを象徴するサービスとして世界に躍り出たというわけだね。
助手：なんだか数字が大きすぎて、私では理解が追いつきません……。だって、実体のないカードですよね？ どうしてそんなに人気が出たのですか？
所長：ふむ、それは良い視点だね。たしかに遠目からみればNBA Top Shotはカードの形をしたデータの取引をしているだけに見える。けれど、これはバスケファンとNBAファンとをつなぐ新しい架け橋の誕生なんだ。バスケファンは、自分の好きな選手やゲームシーンを収めたカードをコレクションして楽しむ。そしてNBAはそれによって収益を生み出して、さらに質の高いサービスや試合をファンに提供できるわけだ。レアなカードや多額の売買金額、次々に出る新しいカード。今までにないエキサイティングなサービスはファンたちの心をわしづかみにしたんだ。僕はこのサービスがきっかけで「スポーツ×NFT」の輪がもっと広がっていくと見ているんだ。だから、自分でも購入したんだよ。
助手：なんかご馳走してくださ〜い！ あ、違うか……。でも、NFTの技術って日本でも生かせないんですか？
所長：日本でもNFTを生かせる方法はたくさんあると思う。あまり言えないが、いくつかの会社が動いていると聞いている。けれど、日本でNFTを使っていくにはいくつか課題があるんだ。
助手：どんな課題ですか？
所長：まず注意すべき点は、NFTはあくまで資産管理の仕組みであって、それ自体が収益をあげたり、ファンとのつながりをつくってくれるわけじゃないということなんだ。今回のNBA Top Shotのような莫大な収益化は、世界中から注目されているNBAだったからこそ実現できたと言っていい。大規模な成功にならって、日本のスポーツビジネスに最新の技術を用いたからといって、ファンが喜ぶとは限らない。NFTの導入に関しては慎重になるに越したことはないんだ。
助手：ふむふむ。
所長：2つ目の課題は、日本ではまだ投資やデジタル資産への関心が薄いことがある。NFTは、ブロックチェーンなど複雑なテクノロジーによってつくられているから、仕組みについての理解がないと一過性のブームで終わってしまいかねない。投資行為に馴染みがない日本でNBA Top Shotのようなサービスを始めるには、前提となる考え方自体を浸透させていく必要があるように思うよ。
助手：むむむ……。さっきは「楽しそう！」って思ったけど、たしかに私も所長から説明してもらうまでは「デジタルカードにお金を払うって、どうなの？」と思っていました。海外で成功しているサービスも、日本で同じようにうまくいくとは限らないんでしょうか（泣）。
所長：そうだね。でも、課題はあるけれどNBA Top ShotのようなNFTを使ったサービスが日本でも話題を呼んでいるということは、多くの日本人にNFTの存在を知ってもらうチャンスでもあるんだ。NFTの進化に期待しながら、僕ら一人ひとりが新しいテクノロジーに対して積極的に向き合っていくことも大事だよ！ 日本でもこのビジネスがきっとブレイクし、サービスとして定着する時が必ず来ると思っているんだ。
助手：そうですよね、所長！ 私も知らないことばっかり……もっともっと教えてくださ〜い！
中編：世界中でバズっている「NBA Top Shot」ってなに？
後編：チリーズ（Chiliz）が描くファンマーケティングの未来
フリーライター、モデル。高校時代から始めたモデル活動をきっかけに写真の魅力に気がつき、フォトグラファーとしても活動している。Moment日刊ゲンダイの連載「記憶のはしっこ」他、web記事、エッセイを執筆。愛猫家で保護猫3匹と暮らしている。趣味はフィルムカメラ、読書、美術館巡り。
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