ヴォレアス北海道 池田憲士郎 KENSHIRO IKEDA Vol.2「なぜ1万円のチケットが売れるのか?」


北海道第二の都市・旭川からスポーツ界に新たな革命が起きている。プロバレーボールチーム「ヴォレアス北海道」だ。 1万円以上の高額チケット、派手な演出を盛り込んだイベント、キャッシュレス決済のいち早い導入など新しい仕掛けで驚かせてきた。 このチームを2016年に設立した池田憲士郎は“バレー界の異端児”と呼ばれる。30代の若きリーダーが目指すものとは。 「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

バレー界初の完全キャッシュレス化

> ——ヴォレアス北海道はスポーツ界の中でも先進的な取り組みをすることで注目を集めています。

私たちがこだわっているのは“一番”になること。例えば、2019年からホームゲームで完全キャッシュレスを導入しました。アリーナ内でお買い物をするときの決済方法はチャージ型のプリペイドカードのみ。バレーボール界では初めてですし、プロスポーツ全体でも初の試みだったと思います。

——完全キャッシュレスに踏み切ったのはなぜでしょうか?

2018年8月でドイツ・ブンデスリーガのボルシア・ドルトムントのホームスタジアム「ジグナル・イドゥナ・パルク」に視察に行ったんです。驚いたのが、スタジアムの中で誰も現金を使っていないこと。チャージ機能付きの電子決済カードを発行していて、エントランスでチャージをするか、チャージ済みの方ばかり。お客さんはみんなそれで買い物をしていたんです。財布を取り出す必要がないですし、お釣りとかのやり取りがないから回転が早くなって、お客さんのストレスも軽減される。「これ、やろう」と。

——ただ、旭川のような地方都市では“現金文化”も根強いのでは?

おっしゃるとおりです。東京などと比べるとキャッシュレスの普及はかなり遅れています。でも、裏を返せばチャンスなんじゃないかと思っていて。私たちの試合を見に来たお客さんはある意味で強制的にキャッシュレスを体験します。最初は渋々かもしれませんが、実際にやってみると現金よりも便利なことに気づく。スポーツ観戦がキャッシュレス体験のきっかけになるんです。

——キャッシュレスのメリットを感じてもらうための工夫は?

さまざまな特典をつけたんです。会場内の飲食・グッズ購入でポイントがたまるのはもちろん、ホームゲームの来場ポイントや勝利ポイントもつきます。キャッシュレスにしたほうがお得だと感じてもらえるかはすごく重要です。しかも、アリーナ外でのお買い物金額の0.5%はチーム強化費に充てられるので、普段の買い物が間接的にヴォレアスの応援になります。会場での決済情報もデータに蓄積されるのでサービスに転換が可能です。また、コンビニとかでカードを出した時に友達や同僚から「それは何?」と聞かれたら、ヴォレアスの話をしてもらえるかもしれない。多くのメリットがあると思います。

チケットに付加価値をつける

——ヴォレアス北海道といえば超高額チケットでも話題を呼びました。

3部リーグの開幕戦でSS席が10000円、S席が8000円、最も価格の低い2階自由席で2500円に設定しました。当時のVプレミアリーグの優勝決定戦でも10000円以下だったので、かなりチャレンジングだったのは確かだと思います。

——チケットの金額を高くする根拠となったのは?

バレーボールの試合観戦をライブエンターテイメントとしてとらえたら、決して高すぎることはないと思ったんです。コンサートとかでは10000円を超えるチケットとかは普通にあるじゃないですか。アリーナスポーツは集客できる人数に上限がありますし、チケットの価格を安く設定してしまうと、チケットビジネスとしては成立しないというのもあります。

——とはいえ、高すぎて売れないんじゃないかという不安はなかったんですか?

めちゃめちゃ不安でしたよ。誰も買ってくれなかったらどうしよう……と。だけど、最終的には腹を括りました。チケットが10000円だとしたら、それで見合う価値提供をするしかない。フタを開けてみたら高い席からどんどん売り切れたんです。新型コロナウイルスの感染拡大以前にはなりますが、一番高い席を買っていたいただいた方には、試合後にコート内で試合直後の選手とコミュニケーションがとれたり、記者会見に参加したりできる権利を用意したんです。お客さんからも価格以上の価値があると言っていただいています。

——ボクシング世界戦のリングサイドやNBAのコートサイドのチケットは数十万円します。

まさにVIP席のようなイメージです。その席に座っていることが一つのステータスになる。

——スポーツチームの中には招待券をばら撒いて観客席を埋めているところも少なくありませんが。

試合だけではなくコンテンツ全て自信がある中での戦略的な無料施策は良いと思います。慣例的な、招待施策は自分たちで自分たちの首を絞めていると思います。1回でもタダで見れると思われたら、2回目以降にお金を払ってもらうことは難しくなってしまう。特に地方では“無形のもの”にお金を払うという文化がないので。

——なるほど。

あとは会場の熱量が全然違ってきます。無料で入った人と、お金を払った人、どっちが真剣に試合を見るかといえば、明らかじゃないですか。お金を出した人は元を取りたいと思うから、積極的に楽しもうとしてくれる。そういう雰囲気が選手たちにも伝播して、試合のテンションが上がって、お客さんの満足度を高めてくれます。好循環です。

Vol.1「旭川発!スポーツ界に革命を起こす」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/6001465925529765c46b54a4

Vol.3「ヴォレアスが子どもの未来をつくる」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/60014cd882f02561e9268816

■プロフィール

池田憲士郎(いけだ・けんしろう)

1986年、北海道旭川市生まれ。中学よりバレーボールを始め、中・高と北海道代表。春高バレー全国大会で銅メダル。教員を目指し、北海道教育大学に進学も2年で退学し、北海学園大学へ編入。卒業後、東京の建設メーカーへ就職した3年後、父の経営する建設会社へ入社。帰郷した際に「地元の元気のなさ」に気づき、スポーツを活用した採用手法の導入により、会社の若返りとIUターンを成功させ各業界から注目される。その後、“スポーツが文化になる”を実現させるべく、地元になかったプロスポーツチームを0から創り上げる。リーグ参入初年度から優勝へと導き、圧倒的なエンターテイメントを重視したホームゲームの演出や斬新なチーム運営の手法から、”バレー界の異端児”としてバレーボール界のみならずスポーツビジネス界からも注目されている。

ヴォレアス北海道
https://voreas.co.jp

池田憲士郎Twitter
https://twitter.com/KenshiroIkeda

■クレジット

取材・構成:北健一郎

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