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スペシャルコンテンツ 永里優季 YUKI NAGASATO Vol.3「サッカーをするだけがサッカー選手じゃない」


日本女子サッカー史上最高のストライカーが男子チームに移籍する——。マスメディアやSNSを通じて一気に拡散した、永里優季の男子挑戦。
なぜ、女子サッカーで頂点を極めた選手は未知の領域に飛び込む決断をしたのか?そこにはスポーツ選手の枠を超えた、女性の可能性を広げたいという思いがあった。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

私がバンドをやる理由

——永里選手はヨガをやったり、色んな要素を取り入れてトレーニングなどしていますよね。なかでもバンドをやっているのが印象的で、バンドもサッカーにつなげようと考えているんですか?

私は元々ミュージシャンになりたいという思いもあったんですよ。アーティストのライブとかを見ていて、私もああいうステージに立ちたいなって思っていました。それでたまたま今のパートナーがギターをやっていて、二人組のバンドを組んでいたので私もやりたいと入れてもらいました。

——ドラムを担当していますよね。

最初はキーボードをやっていたんです。でも私はピアノをやっていたので、キーボードは弾けるのがわかっているのでつまらないなと思っていたんですよ。それでやったことのないことに挑戦がしたくて、ドラマーというポジションが空いていたのでドラムをやるようになりました。

——では元々ドラムはやっていなかったんですね?

やってないです。やり始めたのは2年くらい前からです。それで面白さにハマっていったんですよ。両手、両足、全部違う動きをする。その複雑な動きを体系化して自分の体に覚えさせていくという過程がものすごく面白くて、さらに他の仲間と音を合わせてグルーヴを生み出していく作業が面白くなってきて今でも続いていますね。だから別にサッカーに繋がるからという理由ではなくて、ただやりたくて始めて、やっていくうちにサッカーにも繋がる部分があるなと分析するようになりました。

——ピアノをやってきてできるのがわかっているからつまらなくてドラムをやるようになったという発想が永里選手らしいエピソードですよね。実際にドラムの腕前は上達しているんですか?

今年の2月にライブを一度やりました。出来は自分の中では全然ダメだったんですけど、ギリギリ聴いてもらえるような音にはなっていると思います。

——そういう音楽活動に関してクラブからは何も言われませんか?

むしろそのライブをサポートしてくれたのがクラブのローカルサポーターの方たちだったんですよ。クラブとしてもそういうことをやってくれた方がSNSのネタにもなるし、それ絡みのインタビュー依頼があったりもしました。アメリカの場合、そういうことをどんどんやってほしい、そういう側面を見たいというファンが多いんですよね。

——むしろクラブとしてはそういう活動を喜んでいるんですね。

アメリカではサッカー以外のそういうものを持っている選手の方が価値が高くて、サッカーだけの選手の方が高い評価を得られないんです。私の場合は絵を描くことと音楽活動、それ以外にも社会的な活動をしている選手という評価。サッカーの能力はそこまででも他の活動が積極的であれば、選手としての価値はかなり高くなると感じます。

——アメリカだとサッカー選手にプラスアルファの価値が求められるんですね。

求められますし、そうした流れはすごく感じます。自分でビジネスを立ち上げる選手もいますし、ブランドを立ち上げて商売している選手もいます。

——アメリカではそうした流れがあるという話ですけど、先日NHKで放送された「スポーツ×ヒューマン」という番組で、「欧州で生き残る」というテーマで長谷部誠選手、吉田麻也選手、岡崎慎司選手の3人が対談されていました。その中で岡崎選手が、サッカー選手がサッカー以外のことをやることに否定的な意見を持たれていました。一方で日本のサッカー選手の中には本田圭佑選手や長友佑都選手のようにアスリートのデュアルキャリアの象徴的な存在もいます。永里選手はこうした価値観についてどう思いますか?

サッカー選手をある程度極めた人と、そうでない人で見え方が全く違うと思います。本田選手や長友選手は日本の中ではかなり極めた選手ですよね。だから彼らがサッカー以外のビジネスをやることに違和感はないですね。でも選手としてのキャリアが全然まだまだな人が同じことをやっても本田選手や長友選手とは全く価値が異なると思うんです。だからまずはサッカーを極めようと、私は思いますね。それを極めて見えてくる世界が、あの二人が今見ている世界だと思います。でも結局は価値観の違いですから私はどっちでもいいと思いますね(笑)。

女子サッカーのプロ化が成功する鍵は……

——今イングランドのプレミアリーグが女子サッカーに力を入れる流れがあって、ビジネスの高いマンチェスター・シティがそちらに舵を切ったというのは象徴的だと思います。こうした流れについて永里選手はどう感じていますか?

私は必然的な流れだと思います。とくに欧州のビッグクラブが女子サッカーもビジネスになると思い始めて、去年のワールドカップを境にそっちの方向に舵を切ったというのは自然な流れですね。ただ、それが女子サッカー界にとってプラスになっていくのかは、ここから5年、10年の成果で見えてくると思います。自分がヨーロッパにいた頃とはガラッと環境が変わっているとは思うんですけど、選択肢の幅が広がるという意味ではいい流れになってきていると思います。

——イングランドやドイツ、フランス、スペインあたりもそういった流れがきていますが、他には?

イタリアも少しずつ力を入れてきていますね。そうなるとアメリカに選手が来なくなってきてしまうんですよね。今はコロナの影響でヨーロッパに移籍したアメリカの代表クラスの選手も何人かいました。

——日本でも来年からWEリーグ(Women Empowerment League )が始まりますが、こちらに関してはどう感じていますか?

私も選手会のプロジェクトの方で少し関わっていて、いろいろな選手の声を聞く機会があります。正直、選手の意識がついてきていないと感じています。やっぱりプロ選手としてやっていくことの不安を抱えている選手がいるんですよね。今のまま働きながらプレーしている方が稼げるし、実際にプロになりたくないと思っている選手もいます。だから運営側が思い描いているビジョンと、選手の思いとのギャップがあると感じていますね。

——WEリーグとの関連でいえば、2023年の女子ワールドカップの開催を逃してしまいました。当初はワールドカップがあって、その流れでプロ化というビジョンだったと思うんですが、2023年の開催を逃した影響はどう感じていますか?

どんな影響があるかは正直わからないんですが、日本の国内リーグはこれまでワールドカップやオリンピック頼みのマネジメントでやってきましたよね。日本はそこからの脱却を目指さなきゃいけないと思うんです。そうでなければアメリカやヨーロッパのようにしっかりと根付いていかないと思います。

——確かにこれまでワールドカップやオリンピックでの活躍によって女子サッカーが発展して人気も支えられてきました。

私はそこ頼みではない日本なりのやり方を模索していく必要があると思っています。もちろん、代表の活躍ありきというのは他の国もそうなんですけど、それがなくてもちゃんと安定して運営している国はあります。だから2023年のワールドカップ開催を逃したというのは、日本は国内のサッカーを一度見直せる良い機会になったのではないかと思いますね。

Vol.1「なぜ、永里優季は男子サッカーに挑戦するのか?」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae4fc9cfbdd9260a02ebc3

Vol.2「永里優季が発信する新しいアスリートの生き方」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae4fead7f1464d287a1e82

■プロフィール

永里優季(ながさと・ゆうき)

1987年7月15日生まれ。神奈川県厚木市出身。なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)として2011年のFIFA女子ワールドカップ優勝、2012年のロンドンオリンピック銀メダル。2009年から海外に活躍の場を移し、ドイツ、イングランド、アメリカで活躍する。2009-2010年にはUEFA女子チャンピオンズリーグで優勝。2020年9月より神奈川県2部リーグのはやぶさイレブに期限付き移籍し、男子サッカーに挑戦する。

https://note.com/yukinagasato

■クレジット

取材・構成:Smart Sports News 編集部

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