「プロに向いてないのかな」 片岡尚之は“どん底”メンタルから2位で自信
<長嶋茂雄INVITATIONALセガサミーカップ 最終日◇2日◇ザ・ノースカントリーゴルフクラブ(北海道)◇7178ヤード・パー72>
トップと3打差で最終日をスタートさせた片岡尚之。両親や祖母がかけつけるなど、地元・北海道民の応援を背中に受け、6番までに4つ伸ばして一時は首位に追いついた。だが、終盤に同じ最終組のジェイブ・クルーガー(南アフリカ)に突き放されて2位に終わった。
「頑張ったけど残念でした」。それでも開幕から5試合連続で予選落ちしたシーズンの出だしや、今季ベストが前週の29位だったことを考えれば、上々のフィニッシュだ。「きょうはすごい緊張したなかでのゴルフでした」と、優勝争いの重圧によってショットで手を離すシーンが多く、内容的には苦しいホールが続いた。だからこそ「この緊張したなかで5アンダーのいいゴルフができたので、すごい良かった」と充実感もある。
ロープの外で片岡のプレーを見守ったのは、家族や仲間だけではない。朝の飛行機で会場にかけつけた谷将貴コーチの姿もあった。谷氏はかつて片山晋呉や北田瑠衣のコーチを務め、米山剛のシニアツアー優勝もサポートしている。現在は大岩龍一を指導しており、大岩と片岡の仲が良かったのをきっかけに、昨年スイングに悩んでいた片岡に初めてアドバイスを送り、今季から正式に契約した。
谷氏は片岡のスイングを初めて見たとき「インパクトが点で、クラブの動きがけっこうバラバラでした。僕はワンプレーンで、一面で振ってもらいたいタイプ。だけど、片岡プロのスイングの流れを全部見ていくと、5面くらいあったんです」。スイングプレーンとはシャフトの通り道。その軌道が一つの面になるように振るのが、谷氏の考える理想のスイングだが、片岡の場合はプレーンから5回外れていた。
「それでもちゃんと集中したときには、けっこうきれいな球を打つんですよ。天才だと思いながら見てました」。昨年の11月から二人三脚で本格的なスイング改造が始まった。フェースをローテーションさせながら、インパクトを点で合わせてフェードを打っていたのを、「返さないドロー」にしてインパクトゾーンを長くしていく。
しかし、なぜドローなのか。「最後はフェードでもいいと思っているんですけど、片岡プロも大岩プロも世界で戦いたいという目標があるので、ある程度ドローも打てないとダメ。特にマスターズではドローが必要です。片岡プロの場合は、ねじってつかまえてフェードを打っていたので、右に出しても球はちゃんと戻ってくるという感覚を構築させたかったんです」。
フェーダーは基本的に、飛球線よりも球を左に出してボールを右に曲げていく。感覚的に右に出すのは体が拒否反応を示す。片岡も最初は右に100ヤード曲げたりするなど苦しんだ。シーズン序盤はオーバーパーのラウンドが続き、ようやくアンダーが出たのは5試合目のことだった。「開幕時はスイング的に10%とか15%くらいで、1ミリも間に合っていなかった」と谷氏は振り返る。
成績が出ず、メンタルもどん底に。「プロゴルファーに向いてないのかな」、「ダーツの世界に行こうかな」。弱気が足かせとなって、スイング改造も進まない悪循環に陥った。
「7月か8月に結果が一回出ると思うから、そこまで信じてついてきて」という谷氏の言葉で片岡は奮起し、ようやく6試合目の「〜全英への道〜ミズノオープン」で予選通過。8試合目の「ASO飯塚チャレンジドゴルフ」では今季初めてアンダーパーで大会を終えた。そして、今回は優勝争いの末に2位と躍進した。
「いまは優勝争いをしただけでも上出来です。最終組の緊張感のなかでどういう動きをするのか見たかったので」と、谷氏も現状の課題を目に焼き付けた。「僕は恵庭を狙っているんですよ」。谷氏は3週間のオープンウィークのあとに、北海道の恵庭カントリー倶楽部で開催される「日本プロゴルフ選手権」に照準を合わせている。
片岡も「次も北海道の試合なので、応援してくださる方はいつもより多いと思う。次こそは優勝という気持ちで、それまでの3週間をしっかり調整して頑張っていきたい」と意気込む。最初はフルスイングを封印し、スイングプレーンを体に染みこませるために、ひたすらハーフスイングを繰り返してきた。今回の好成績で助走をつけ、その集大成をメジャーにぶつけていく。(文・下村耕平)
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