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ラフが短くてフェアウェイは広いのに…なぜオーガスタは難しい?【マスターズに初潜入】

オーガスタのラフは短い。左上はフェアウェイで、右上は木の下に敷き詰められた松葉(撮影:ALBA)

世界4大メジャーのなかで唯一毎年同じコースで行われる「マスターズ」。その舞台となるオーガスタ・ナショナルGCは、マスターズを開催するために作られた超プライベートコースだ。初めてマスターズを取材する記者が、実際に見たオーガスタの不思議を紹介する。

難しいコースと聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。例えばフェアウェイが狭かったり、ラフが深かったり…。しかし、マスターズはフェアウェイも広いし、ラフがまったく長くないんです。写真を見てください。「全米オープン」や「日本オープン」のラフが深いセッティングと違い、ボールのほとんど全部が見えるんです。ちょっと乱暴な言い方をすれば、オーガスタのラフは河川敷コースのフェアウェイよりも短くてきれいかもしれません。
 
悪天候の影響があったとはいえ、世界のトップ選手だけが集う今年のマスターズでの予選カットラインはトータル3オーバー。ラフが短くたってオーガスタは難しいんです。フェアウェイとラフのわずかな違いで何が変わるのか。2009年のマスターズに出場して20位タイに入り、ジョージア大学時代に何度もオーガスタをラウンドしたことがあるという、現地で中継のラウンドレポーターを務める今田竜二プロに聞いてみました。

「ボールがどういう感じで止まっているかによりますけど、オーガスタのラフに入るとスピン量が減ってフライヤーが出やすくなりますね」。全米オープンのようにラフが密集して深いと、ヘッドの抜けが悪くボールは飛ばなくなります。逆にクラブヘッドの抜けがよく、ボールの初速が出せてかつスピン量が減れば、ボールはいつもより飛びすぎてしまう。それがフライヤーです。プロたちはラフに入ったときには、飛ぶのか飛ばないのか、ライを見極めてコースマネジメントしているんです。
 
ただし、「逆にラフに入ってラッキーなときもあります」と今田プロ。オーガスタでプロたちが考えるのは、どの地点にどれくらいのスピン量で落とすか。スピンがかかりすぎると、かえってボールが手前に戻ってきて、ピンから離れていってしまうことも。だから、「ピンポジションによってはスピンがかからないほうが傾斜を上手く使えるときがある。それを頭に入れながら、どのラフにいってもいいかを考えないといけない。風向きも十分に影響してきます」。
 
オーガスタでバーディチャンスにつけるには、グリーンの四畳半の広さを狙う精度が必要といわれています。ピン位置や風向きまで考慮しながら、高さと曲がり幅とスピン量をコントロールするには、このわずかな芝の長さの差が命取りになるわけです。
 
「オーガスタのラフは打つこと自体は簡単で、あのレベルのプロたちに230~240ヤード出せるかといったら、それは全然OKだと思います。しかし、キャリーは出せても、止めるという意味では難しくなる。バンカー越えでピンがその真上に切ってあって、フォローの風が吹いていたりすると、100%止まらないですよね。先ほども言ったように、一概にラフだからダメ、ではない。だけど、ラフよりはフェアウェイのほうがいいですよね」
 
そして、今田プロによると、マスターズのようにラフが短いセッティングは、米ツアーでは「ひと昔前だとあまりなかったけど最近は多いです」といいます。

しかし、オーガスタはフェアウェイ自体が広いから、ティショットに自信があれば、そもそもラフに入れることもないのでは?「いやいや」と今田氏はこれを否定。「ピンを攻めていく意味では、フェアウェイでも右サイド左サイドを考えながら打たないといけないんです」。
 
今回マスターズに初出場した比嘉一貴プロも同じことを言っています。「ティショットは広いんですけど、セカンドのことを考えるとターゲットを絞らないといけない」。つまり、グリーンの四畳半のスペースに打っていくのに、狙いやすい角度があるということ。だからパッと見でフェアウェイが広く感じても、マスターズに出場する選手たちからすると、狭まっているのと同じなんですね。

さらに、マスターズにはフェアウェイとラフのほかに、松葉が敷き詰められたライもあります。左右に曲げて林に入ると、松葉の上から打たないといけません。ラフよりもスピンはかけやすくなりますが、当然木が邪魔でピンを真っすぐ狙えないケースも増えます。
 
かつてはセベ・バレステロス(スペイン)やタイガー・ウッズ、フィル・ミケルソンやバッバ・ワトソン(いずれも米国)といった選手たちが、ティショットで林に入れながらもアイアンでインテンショナルにボールを曲げて、グリーンジャケットの袖に腕を通しました。曲げたら即1打のペナルティではなく、そういった“技”が見られるのも深いラフのないマスターズの魅力の1つですね。(文・下村耕平)

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