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ワクチン未接種で米国入国拒否… 悔しさバネに優勝、リン・グラントの遠かった米ツアーV

見事に実力を証明したリン・グラント(撮影:GettyImages)

<Danaオープン 最終日◇16日◇ハイランド・メドウズGC(米オハイオ州)◇6555ヤード・パー71>
 
スウェーデン出身のリン・グラントが米国女子ツアー初の優勝を遂げた。4日間トータルで21アンダーは2位に3打差をつける勝利。見事な逃げ切りで、歓喜の優勝カップを掲げた。

この数年間は苦難の時間だった。アマチュア時代から力をつけ2021年にプロ転向すると、瞬く間に頭角を現した。古江彩佳、渋野日向子と同じく22年出場権をかけた同年12月の最終予選会に挑戦し35位で見事突破。22年は米ツアーでひと暴れといきたいところだったが、その願いはコロナ禍によって打ち砕かれた。
 
理由こそ発表していないが、新型コロナのワクチン摂取を見送り、米国入国が拒否された。そのため22年シーズンは欧州女子ツアーを主戦場としたが、そこで4勝をマーク。ポイントランキングで1位となった。男女が同時に競う欧州男女ツアー混合大会でも優勝するなど、アニカ・ソレンスタムに続くスウェーデンの次世代スターとして期待を集めたが、世界的に有名になることはなかった。
 
それも、すべては米国入国制限のため。欧州最強女子は、米国以外の開催試合で結果を残しても、なお知名度は上がらない。これについては「仕方なかった」と振り返る。「ワクチンの未接種についてはわたしと家族、周りの問題として発表はしない」とした。昨年の米ツアーでは6試合に出場。すべて米国外で行われたもので、トップ10が4回。日本開催の「TOTOTジャパンクラシック」では3位にも入ったが、出場資格を有した高額賞金大会の最終戦も見送ることになった。
 
そして迎えた23年シーズンも米国の入国制限は解かれず、2月から3月にかけてアジアで開催された米ツアー2試合に出場したあとは、欧州を主戦場にした。ついに5月中旬に米国の入国制限が解除されると、米本土初戦の「バンク・オブ・ホープLPGAマッチプレー」で3位。「KPMG全米女子プロゴルフ選手権」、「全米女子オープン」のメジャー大会連戦後となった今大会で、念願の米ツアー初優勝を果たした。
 
「待ちに待った瞬間だった」と感極まった。入国できずに苦しんだ期間を思っても、冷静さは欠かさなかった。「まだ言葉にならない」としずかに語るにとどまった。プロゴルファーで父のジョンさんは、リンのことをこう評する。「リンは表には出さないけどすごいファイターなんだ。秘めたるものはすごいんだよ」と苦境に立たされていた我が子の成功を誰より願っていた。ときにはキャディも務め、娘に帯同する父。ゴルフ界にその名をとどろかせる勝利は、待望の1勝だったに違いない。
 
ジョンさんの父、ジムさんはスコットランド出身。こちらも英国で名を馳せたプロゴルファーだった。その後スウェーデンに移住したが、リンはそんなゴルフを愛する国・スコットランドの血を受け継いでいる。KPMGでは祖母も応援に駆けつけていた。「もうすぐ80歳になるわたしの誕生日祝いで呼んでくれたの。アメリカで彼女がプレーをするのを見るのが始めてなのよ」と元気に72ホールを歩いて回った。おばあちゃんの前で勝利は果たせなかったが、吉報はスウェーデンにも届いたはず。新たなスター誕生には家族もスウェーデンも沸いているに違いない。
 
このあとは“主戦場”としてきた欧州での連戦が待つ。次戦の「アムンディ・エビアン選手権」の舞台、エビアン・リゾートはリンが5月に優勝した欧州女子ツアー「ジャブラレディース」の開催コース。「好きなコースだし楽しみ」と、コース連勝を狙う。世界的なプレーヤーを証明して見せたリンの米ツアー席巻が、いま始まる。(文・高桑均)

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