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待ち受ける過酷転戦も「すごく幸せ」 目指すは年間トップ15…下部から切り開きたいLPGAルート【谷田侑里香“最高峰への道”】

今季から“第二の故郷”米国を主戦場に戦う。下部ツアーからLPGAの舞台を目指す(写真:本人提供)

高校時代の1年間、そして大学4年間を米国で過ごした谷田侑里香(たにだ・ゆりか)は、今年、再び海を渡り米女子下部にあたるエプソン・ツアーを主戦場にするツアープロだ。そこをスタート地点に、長年「世界最高峰の舞台」として胸に抱いてきたLPGAツアー参戦を目指している。その姿を追う。

■最高峰の舞台を目指し米国挑戦を決断

「同じアメリカでも、環境は違いますね。学生として生きてきた世界とは、まったく違う感覚。当時は監督やチームメートとずっといましたが、1人で行動しないといけない。今考えると恵まれていましたね」

すでに3月にフロリダ州で行われた3試合を戦い終えた谷田は、異国ながら“第2の故郷”とも呼べる地で、日本でも経験してこなかったツアー生活を送っている。いくら学生生活を過ごした場所といえど、やはり当時とは勝手が違うことばかり。「3日間競技を3試合連続でプレーしたり、予選カットを意識する…という試合をこれまであまり経験してきていないんです」。“ルーキー”と呼ばれる選手たちが味わう楽しさ、悔しさ、そして葛藤などを、しっかりとかみしめる密度の高い日々を送っている。

谷田は昨年、初めて米国女子ツアーの予選会に挑戦した。8月に行われた1次は70位タイで通過し、10月に行われた2次に臨んだ。30位タイまでに入ると最終予選会(Qシリーズ)に進めるという4日間は、カットライン付近で粘りを見せたものの最終成績は72位タイ。2024年シーズンのLPGAツアーへの挑戦はここでついえた。

しかし2次で41位タイから80位タイまでに入ると、下部ツアー前半戦フル出場権ともいえるカテゴリーに名を連ねることができるという規定がある。その権利を行使し、今年、米国でプレーする道を切り開いた。2次予選会終了直後は「家族と相談してから考えます」と態度を保留していたが、最終的に下した決断は夢への挑戦だった。

「実は、自分のなかで予選会の時から(米国へ行くことへの)迷いはなかったんです。ひさしぶりにアメリカでプレーしてすごく楽しかったし、『この環境でやりたいなぁ』という思いは強かった。でもその時は、まだ誰にも報告できてなかったですし、ビザなどもそうですけど、やるべきことがいっぱいありました。自分がどれくらいのステータスなのかも分かってなかったですし。『ほぼフル出場できる』って言われても、“ほぼフル”ってどれくらいなの?とか(笑)」

そして周囲へのあいさつが済み、さまざまな問題もクリアになったことで参戦を決断。2月には米国に渡った。この“決断力”は、本来持っていたもの。神奈川県出身の谷田は、高校2年生の終わりに米国へ渡り、現地の学校に編入したのだが、「どうせ行くならゴルフがしっかりできるアメリカに」と決めてから1カ月後には海を渡るというスピード留学を実現した、というエピソードも持っている。その間に学校を調べ、両親の説得までしたというのだから、行動力に驚かされるばかりだ。

■過酷な環境も覚悟「幸せです」

まだ序盤戦という段階だが、その生活は充実している。21年に日本に帰国した後は日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)のプロテストを受験してきたが、壁に跳ね返されてきた。現在のJLPGAツアーは規定により、正会員でならなければQTを受けることすらできない。アマチュア資格を放棄すると推薦出場も認められないため、原則、プロテストに受からないとツアーに参戦できないという仕組みになっている。プロテストの合格率は、わずか3%。多くの選手はミニツアーに出場するなどして、毎年テストの時期を待つが、谷田もそのひとりだった。

「日本でもゴルフに打ち込む環境に身を置いているつもりでしたが、決して“100%”ではなかった。アメリカでは“ゴルフだけに集中”できているし、ありがたいですね。日本だと試合の間隔も空いてしまうし、1日競技も多かった。ツアーに出てると毎週いろいろなことが試せるし、そこは違います」

例えば、谷田が課題にし、現在「再現性を高めムラを抑えたい」と基礎的な練習を繰り返すアプローチも、練習の効果や気づきをすぐに試合に反映することが今はできる。これから連戦に加え、広大な米国での移動などタフさを求められる場面も増えるが、試合で出た課題をすぐに生かす機会があるため、やりがいも変わってくる。

開幕戦こそ1打足らず予選落ちしたが、2試合目に3日間を完走すると(57位タイ)、3試合目には最終日に「67」をマークし7位タイに入った、約1カ月の中断期間を挟み、26日からは今季第4戦の「IOA選手権」に出場する。現在ポイントランキングは90.45ptの33位に位置。車で移動できた3月の3連戦とは異なり、ここからはカリフォルニア州→アリゾナ州(2試合)→ユタ州を転戦する4連戦が待ち構えている。ここからシーズンが本格化する、とも言える。

もちろん、大荷物を伴う移動もひとりで行うことになる。試合は手押しのカートを自ら操作しながらのセルフプレーだ。ホームステイや、ツアーで仲良くなった選手たちとの共同生活をしながら、試合中も自炊で体調も整えていく。「私、お米が無いとダメなんです(笑)」。合間をみては日本食スーパーに行き、献立を考えるのも大事な仕事のひとつになる。

「ゴルフに打ち込める環境だし、周りにいる方にも恵まれている。もちろん大変なこと、つらいこともあるけど、自分の目標に向かっているこの環境はすごく幸せだと思っています。あとは自分がやるだけ。エプソンツアーで(ランキング)トップ15に入ってLPGAへという気持ちは強いです」

目指すのはエプソン・ツアーで年間獲得ポイント上位15人に与えられるLPGAツアーの出場権(10位まではカテゴリー9、11~15位はカテゴリー15)だ。身長172センチと日本勢としては体格にも恵まれ、大学進学時には10校以上のオファーを受けミシガン州立大でプレーすることを決めた。そして在学時には、学業と部活でともに優秀な成績を残している学生のみに与えられる『オール・アメリカン』という賞を4年連続で受賞したという経験も持つ。

畑岡奈紗を筆頭に、古江彩佳、勝みなみ、渋野日向子ら日本勢の参戦が続く米国女子ツアー。文武両道の才女が、これらの選手とは“別ルート”で同じフィールドを目指す。

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