【インタビュー】現小学校教員・上福元俊哉がバーモントカップ準優勝「幸せしかない」
上福元俊哉が、フットサルの現場に“凱旋”した。
Fリーグでは、立川アスレティックFC(所属当時、府中、立川・府中)で7年、バサジィ大分、フウガドールすみだで1年ずつプレーし、トップレベルで9シーズンにわたってピッチに立った。
熱い気持ちを前面に押し出してプレーするピヴォとして、前線で存在感を放ち、味方を鼓舞し続けてきた。2021シーズンの現役引退後は、もう一つの夢だった教員の道へ進んだ。
そんな上福元氏が、小学生年代のフットサル日本一を決める「バーモントカップ」に指導者として出場したのだ。もともと、立ち上げメンバーである千葉県のジンガというチームで、監督不在に際して急遽、指導を任されたという。それまで、継続的な指導経験はない。
にもかかわらず、初出場のチームで、準優勝。決勝は残り数分で逆転負けを喫したものの、あと少しで優勝というところまで導いた。しかも、ピッチで指導する姿は、あの頃のまま──そう“熱く吠えながら”選手を鼓舞し、采配していたのだ。
準決勝では、アスレ時代の監督と指導者という関係性だった“恩師”谷本俊介氏とも再会した。谷本氏が指導するヴィッセル神戸U-12の華麗なパスワークに対して、真っ向からプレッシング勝負を挑み、最終的に押し切ってみせた。その執念は、上福元氏の現役時代を彷彿とさせた。“カミ・イズム”を注入されたチームは大会で台風の目となっていたのだ。
「フットサルは、やっぱり最高です」
そんな言葉が印象に残る。Fリーグ引退後は競技から離れ、小学校教員になった上福元氏は、今大会でなにを感じたのか。率直な思いをたずねた。
取材・構成=本田好伸
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小学校の教員になることが夢だった
──準決勝で谷本(俊介)さんがいるヴィッセル神戸U-12に勝ちました。谷本さんに悔しさはあるかと聞いたら、「いや、誇らしさのほうがある」と。こうした舞台で戦ってみてどうでしたか?
それは、ありがたいですね。僕自身は正直、ジンガとか、バーモントカップとか、フットサルに対して、大きな貢献ができていないと思っています。でも、本当にいろんな人のお陰で、こうやって谷本さんと同じピッチに立てて、指導者という立場で戦うことができたというのは本当に幸せしかないですよね。
それも結局は、フットサルのおかげだなって。自分は今、フットサルという現場に全く関わっていないなかで、フットサルがつないでくれた縁というのはすごいなって、大切にしていきたいなって、改めて思いました。
──もともと指導者の道に進むことを考えてなかったんですか?
Fリーグを始める前に教員をやっていて、アスレで引退する時にはもう一度、教員になりたいと思っていました。むしろ教員になることは自分の中でしっかりと決めて、Fリーグにチャレンジしたので。自分の夢は小学校の教員になることでもあったので、それが実現した今は、それもまた幸せだなって。本当にいろんな子どもたちに出会えるし、いろんな職場の方々に教わったりもしますし、今の自分に足りないものがそこにはありますね。
──教員免許は持っていたんですよね?
もともと、中学、高校の体育は持っていて、引退してから小学校の免許を取りました。教育実習もしました。今は1年生の担任をしています。本当にすごいですよ、子どもたちは。
この先、自分自身がどのように進んでいくかはわからないですけど、サッカーもフットサルも大切にしていきたいし、学校で今教えていることも大切にしていきたいと思っています。
──「導く人」ということでは、指導者も教育現場も、似ていますね。
そうですね。5年後はわかんないですけどね、なにしているか(笑)。
フットサルやサッカーを通して、人を成長させること
──今大会、上福元さんが率いたジンガはいい守備のプレスと、そこからの攻撃が特徴的でした。相手に合わせていた部分もあるのではないでしょうか?
前向きにディフェンスしたり、ボールを持って参加できたりするのが一番いいかなと思った結果論だとは思います。決勝ではもっと前から行っても良かったと思っていて、そこは自分の経験のなさですね。子どもたちというより、自分がまだまだ経験不足だったと思います。
──8失点するような展開(最終的に7-8で敗戦)を想定していたわけではないですよね?
そうですね。とはいえ、相手の戦い方も聞いていましたし、無失点どころか、2、3点で終わるとも思っていなくて。4、5失点は想定内というなかで7点をこちらが取れて、7-5になった時に、これくらいのスコアかな、と。なので、きちんと自分がクロージングさせてあげられるべきだったのかなとは思います。残り1、2分の戦い方を伝えきれませんでした。
──相手のエースが負傷してピッチを離れていましたが、その時間でリードを奪えた反面、その選手も出ずっぱりだったので休む時間を取れましたよね。
そこがターニングポイントだったのかもしれません。相手もずっと交代なしできていたので、最後までいっていればパワーは残っていなかったと思います。やはり自分が声掛けやタイムアウトを取って作戦を伝えるなど、うまく使いながらいけたんじゃないかな、と。
──タイムアウトは使いました?
いえ、使ってないんですよ。使おうかなと思っていて、振り返れば7-6にされた時に使うべきだったと思います。改めて指導の難しさを感じました。
──指導者を経験してみてどうでしたか?今後もやってみたいなと思ったのでは?
サッカーやフットサルって、やっぱり素敵なスポーツだなと思いますし、特にフットサルは最高だなと、改めて今日、感じました。一方で、指導者としてはまだまだやらなきゃいけないことが多いですね。僕の思いは、フットサルやサッカーを通して、人を成長させることです。その方法が、学校なのか、フットサルなのか、サッカーなのかの違い。基本的には人としての成長が根本にあるので、自分の中で考えながらやっていきたいです。
──ただ、『イッソー!』(ピッチで吠えながら褒めたり、鼓舞したりするポルトガル語で「いいね!」を意味する言葉)が出た瞬間、これは監督をやっていくだろうなと感じました(笑)。
いやいやいやいやいや……。難しい、難しいなと思いましたよ、やっぱり。監督っていうのはすごく難しいなと改めて。子どもたちは本当によく頑張ってくれましたけどね。
──選手は普段はサッカーをしていますが、今度、フットサルに転向する子が出てくるかもしれません。この大会を経験して意識が変わるケースもあります。今後、彼らのフットボールキャリアに期待することを教えていただけますか?
フットサルにしても、サッカーにしても、全員がプロになれればいいですけど、そうじゃないですよね。だから大切なことはやっぱり、人としての成長かなと。フットサルを通してなにを学ぶか、サッカーを通してなにを学ぶかがすごく大切になってくると、今の教育者という自分の立場でもそれをすごく感じます。今大会を通して、なにが大切で、なにを得たのか。整理して子どもにも伝えたいですし、この先の人生につなげてほしいと思っています。
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