“遠い親戚”のような彼は、正真正銘の好青年|しょうこの心情系人物コラム
そして今大会も、ノックアウトステージを戦う16チームに残った。ベスト8という、新たな歴史を刻むために、乗り越えるべき相手は “あの”ブラジル。決して簡単に勝てる相手ではないが、強敵を打ち破るためのキーマンとして期待のかかる選手がいる。これから二度、三度とW杯出場を狙える24歳・清水和也だ。清水は早くから才能を開花させ、2014年10月には17歳8か月5日で当時のFリーグ最年少得点記録を更新した。
スターティングメンバーのピヴォとして、今後のフットサル界を担う選手として、若くして多くの期待を背負う男。選手の内面に迫る心情系コラム第3回は、清水に焦点をあてる。
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彼の“好青年エピソード”は枚挙にいとまがない
恵まれた体格、よく通る声、強烈なシュート。清水は「ザ・スポーツマン」のような存在だ。10代で頭角を表した彼は周囲の期待を自覚し、ABEMAのFリーグ中継でスポットライトが当たったときも「自分がフットサル界を引っ張っていかないといけない」と話してきた。
覚悟の強さは内面にも宿る。清水は、とても謙虚な好青年なのだ。
私はW杯の取材でもつい熱が入り、プレス席にも関わらず「そこそこ!」「惜しい!」「もっと実力を発揮して!」と騒がしいので、「選手の親みたい」と言われることもよくあるのだが、清水に関してはたしかに「遠い親戚の子」くらいの気持ちで見守っているかもしれない。
数年前、あるテレビ番組からサッカーに関連するデモンストレーション動画の出演者を探している、と相談があった。「強烈なシュートを打てる選手」というオーダーに、すぐに清水が思い浮かんだ。キャスティングは成立し、彼のアテンドを任されたのだが、収録当日に受けた電話の第一声や、待ち合わせた際の振る舞いからも好青年ぶりが伝わってきた。
もともと、どんな取材にも礼儀正しく応じてくれる姿勢は理解していたが、「テレビの仕事だから」と気負うこともなく、“素”でしっかりした人柄であることがうかがい知れた。
当日は屋外の撮影で、雨が降ったりやんだりのあいにくの天気だった。デモンストレーションなので、制作側が納得する画を撮れるまで撮影は続く。それでも清水は嫌な顔ひとつせず、「貴重な経験だからおもしろい」と、むしろ楽しんで撮影に臨んでいた。空中を浮遊するドローンにボールを当てるという内容で、しかも操作はドローンの(たしか)日本チャンピオンだったので、とにかくすごい技術の持ち主。貴重な経験ではあるものの、大変な撮影であることは間違いなかった。当時、清水は19歳。ご両親やクラブからお預かりしている清水がケガをしたり、風邪を引いたりしたら大変だ、と内心ヒヤヒヤしていた。
撮影が終わり、最寄り駅まで彼を送り届けたときも、姿が見えなくなるその瞬間までシャキッとして礼儀正しかった。クラブに撮影終了の連絡を入れた際、思わず「本当に好青年でとても気持ちよく仕事ができた」と個人的な感想を伝えてしまったほどだ。フットサル大会を主催する友人も「和也はよく審判のアルバイトをしてくれていたが、本当に礼儀正しくていい子だ」と毎回のように言っていた。彼の“好青年エピソード”は枚挙にいとまがない。
だから私は、彼がスペインリーグに挑戦すると知ったときは、やはり遠い親戚の気持ちで心からエールを送ったし、現地での活躍もたびたび目にしては心を踊らせた。昨シーズンのスペインリーグ年間ベストゴールを受賞したニュースも、遠い親戚のように喜んだ。勝手に。
そんな清水と、7月中旬から8月初旬にわたって行われた国内候補合宿で再会した。
「再会」とはいっても、コロナ禍での取材は厳格にエリアが区切られ、取材もオンラインで行われるので、直接、選手と言葉をかわすことはない。しかし、ある日の取材を終え、アリーナを後にした直後、背後でメディアが出入りするドアが開く音がした。振り向くとそこには清水がいて、あのよく通る声で「いつも取材ありがとうございます!フットサルはまだ、みんなで盛り上げていかなくてはならない競技なので、一緒にがんばりましょう!」と言ったのだ。驚いた。うれしかった。頼もしかった。そして私はここでも、遠い親戚の気持ちで「立派になって……」と胸を熱くした。
余談だが、名古屋オーシャンズの平田・ネト・アントニオ・マサノリも、私が存在を知ったころはまだサテライトの選手で、試合会場でグッズ販売の手伝いをしている姿を見かけていた。その平田が活躍する姿も「立派になって……」と見ていた。清水が今回「背番号9」を選んだのは、負傷の影響もありメンバー外となった平田を思い、「ずっと一緒にやってきたマサの分までがんばりたい」という理由だと知って、胸が熱くなった。目頭も。
リトアニアで、何度か清水を取材した。レベルの高いスペインリーグでプレーをしている清水にはメディアからの期待も大きかったが、グループステージ第2戦を終えた段階で無得点にとどまり、第3戦のパラグアイ戦で初ゴールを決めたもののチームは敗戦した。試合後には、「失点の原因をつくってしまったのは自分だ」と、目を伏せた。
若いころから活躍してきた実績、ピヴォというポジション、不動のスターティングメンバー、知らず知らずのうち、清水は私たちが想像するよりはるかに大きな責任を背負ってきたのではないか。しかし、遠い親戚の気持ちで見守る私は思う。
「とにかく試合を楽しんでほしい」と。
9年前はまだ15歳だった清水に、プレーで、振る舞いで、何度しあわせな気持ちにしてもらったかわからない。ベスト8に進めたら最高だ。でも、清水をはじめとする選手たちが、大好きなフットサルを楽しんでプレーする姿が見られたら、それだって最高だ。
これからはすべてが決勝戦。気負うことなく、清水らしく、のびのびとプレーする姿を見守りたい。
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